派手さに欠ける だがそれでいい
華がないのは語り口だけではない。バッテリーの時間が延びて価格が下がった15インチMacBook Pro、「Pro」に格上げされた13インチMacBook Proなど、いずれも小さな改善で、フルモデルチェンジのような目立った発表ではない。
Snow Leopardについては、マルチタッチパッドを使った中国語の手書き入力対応や、「Grand Central Dispatch」(GCD)を活用したMailの高速化、Dockを使ったExposeの操作性改善など、技術的に高度だったり、使い勝手が確実に向上するアップデートであるものの、これまた派手さはない。
Snow Leopard関連で一番の喝采は、おそらく「すべてのIntel Macユーザーにアップグレードして欲しい」という意図から、29ドルという驚くべき低価格が発表されたときではなかろうか。
iPhoneに至っては、歓声と同時にいくつかのブーイングやがっかりするため息すら流れた。MMSのサポートや、日本国内ではサポートされないインターネットテザリングなどだ。
もちろん、iPhone OS 3.0や、300万画素のカメラ/ビデオ録画/デジタルコンパス/HSDPA 7.2MbpsをサポートしたiPhone 3G Sは大反響だったものの、昨年の異様なまでの熱気からするとかなりおとなしいものだ。そしてiPhone 3G Sで、会場がいちばん反応したのは、新モデルの価格が299ドルで、現行のiPhone 3Gも99ドルで併売するという部分だった。
MacBookPro、Snow Leopard、iPhone 3G S、そしてiPhone 3G──。どれも価格に注目が集まるというのは、やはりそれ以外にぱっと響くものがないからであろう。
派手さに欠ける。それが今回の基調講演の感想だ。さらにいうと、1月に開かれたMacworldの基調講演も地味だった。
しかし、それは悪いことだろうか?
派手さはないが、会場にいた開発者の支持は決して揺らいでいない。WWDCの参加者と言えば時間の無駄と感じれば発表の最中でも平気で立ち去るようなシビアな聴衆だ。しかし、彼らは最後まで席を立たなかった。
言い換えれば、今のアップルはそうした見た目の派手さを必要としていないということだ。華を飾って釣らなくても、今のアップルが革新的な企業であることは明白だろう。
たとえ地味でも、それぞれの機能はとても重要だ。技術者たちはその機能でどんなアプリケーションが作れるかを考えるだけでわくわくできる。
だからこそ、OS XのGCDやOpen CLサポート、iPhone 3G Sのデジタルコンパスの搭載やハードウェアによる暗号化サポートといった、それひと言では「だから?」と言いたくなる機能の発表でも、会場では喝采が上がっている。
これが本来のWWDCの姿ではないだろうか? 思うに、これまでが騒ぎ過ぎだったのだ。会場で発表を聞いた身としては、そう評価したい基調講演だった。
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