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歴史を変えたこの1台 第7回

ワイヤレス化にいち早く目を付けたバッファローの戦略

無線LAN時代を切り開いたメルコ「AirStation」

2009年08月11日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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PCの近くに置かれない周辺機器

 AirStationは、従来の同社の製品とは異なる個人ユーザー向けの無線LAN製品であるため、イチから作り直した。開発を担当した田村佳照氏は「とにかく今までにないものを作るので、CPUやOS、MAC、ドライバなど集めてくるのが大変でした。当時は無線LANの市場が小さかったので、チップもかなり高価でした。ですから、チップベンダーとかなりコスト交渉しましたね」と話している。最終的にはアップル製品も採用するルーセント・テクノロジーズのチップをベースに、ファームウェア等を自身で開発することが決まった。

初代モデルの「AirStation WLA-11」

 1999年の夏に米国で発表されたAirMacを横目に、年末の電波開放をにらんだ製品開発が進んだ。旧通産省のグッドデザイン賞を受賞したAirStationの楕円型筐体も、「AirMacが横方向に丸みを帯びたデザインだったので、われわれはロケットを後ろ方向に伸ばしたような縦型デザインにしました。背面のケーブルを隠すために別途でカバーを付けたり、ちょっと銀ラメ風の塗装を施したり、けっこう凝っているんですよ」(後藤氏)とこだわった。

 今まで同社ではPCの回りに置かれる周辺機器が多かったが、当時はインターネット接続もアナログやISDNが全盛期であったため、電話の横に置いても違和感のないデザインとして作られたという。

 挿せばすぐに使える有線LANと異なり、無線LANの場合は利用チャネルやセキュリティ設定などが必要になる。こうした設定に関してもWebブラウザでGUI 操作ができるようにした。

 ちなみにAirStationという名称は、「親機」や「アクセスポイント」といった用語の代替として考えられたもので、当初ブランド自体は「AirConnect」という名称だった。その後、同社の無線LAN 製品全体を指すブランドとして定着するようになる。

会社の方針をシフトさせた
AirStation

 こうして2000年5月にIEEE802.11bに対応したアクセスポイント「AirStation WLA-11」とモデム内蔵の「AirStation WLA-11-M」を出荷開始した。標準モデルの価格は3万3000円。周辺機器として顧客が出せる限界の価格までなんとか引き下げた

「インターネット、もっと使いやすく」を掲げた当時のカタログ

 製品プレスリリースを見ると、このAirStationが同社の方針に大きな変革をもたらしたことがわかる。「それまで、うちの会社のスローガンが『パソコン、もっと使いやすく』だったんですが、この製品以降『インターネット、もっと使いやすく』に変わったんです」(後藤氏)。メモリやハードディスク、光学ドライブなどのパーツや周辺機器を扱っていた同社が、創業25周年目を迎え、インターネットに関連した製品を本格的に展開すると宣言したわけである。その記念すべき最初の製品が「AirStation WLA-L11」であり、その後AirStationは同社が無線LAN市場を獲得する原動力となった。

 まずはブリッジやアナログモデム内蔵モデルからスタートし、その後ISDNやCATVインターネットに対応するモデルを投入。ルーセントより安価なインターシルのチップを搭載したカードやアクセスポイントなどを投入し、ラインナップを徐々に拡大した。

「先行者利益」で
高いシェアを獲得

 2000年に製品を出したものの、市場の立ち上がりはゆっくりであった。そもそも無線LANというもの自体が世の中に存在しなかったに等しいため、どんなモノなのか、どうやって使うのかという啓蒙に時間と労力を割いたとのこと。メルコのWebサイトや特設サイト「AirStation.com」でのコンテンツ拡充はもちろんのこと、公衆無線LAN「FreeSpot」の展開やスループット測定、相互接続試験なども積極的に行なった。この点は、市場をイチから創出した携帯電話と同じような状況といえる。

 大変だったのはやはりサポート。「無線LANとはどういったものか」、「設定がわからない」、「どの回線で使えるのか」といったかなり基本的な質問のほか、つながらない、速度が遅いといった意見が次々と押し寄せ、回線は常時パンク状態にあったという。あとは、目に見えない無線を店頭でデモンストレーションするのが難しいという点も悩みの種であった。

 そして、2001年を過ぎるとYahoo! BBなどの低価格ADSLの登場と普及に合わせ、出荷台数も一気に上がり始めた。PHSやHomeRFといった無線技術よりも汎用性が高く、低価格化が著しかった無線LANが家庭内ネットワークの本命として台頭してきたのだ。

初代の筐体と最新のIEEE 802.11n(ドラフト)対応する「WHR-G300N」との違い。10年前に比べ、低価格化、小型化は一気に進んだことが見て取れる

 その結果、メルコとアップル、そしてNECだけだった市場に、周辺機器やネットワーク機器のベンダーが参入し、ひときわ活気のある市場となった。その中でも、やはりいち早く製品を投入したメルコのブランドは大きく、国内で高いシェアを誇った。

 「われわれの強みはやはりソフトウェア等を自身で開発しているところです。いざ不具合があっても、OEMの開発元ベンダーに戻さないで対応ができます。弊社で立ち上げているAirStation.comの掲示板に不具合の情報が挙がると、開発の担当者がいち早く対応して、次の日くらいに新しいファームウェアが上がるといったこともありましたよ」(後藤氏)と語ってくれた。

 開発担当の田村氏も「以前、うちも海外製のルータをそのまま日本で売って痛い目を見たことがありました。特にWAN側の設計は日本独自の相性があるので、対応が難しいんです。ですから、日本向けの製品を日本で作っているのはとても意味のあることだと思います」と話している。

(次ページ、高速化、セキュリティ、ゲーム機対応 多様化する無線LAN


 

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