リスクとリターンのバランスを
昨年の秋から始まった経済の急速な収縮は、一段落したようにみえる。そろそろ落ち着いてリスクとリターンの合理的な組み合わせを考えてはどうだろうか。金融理論では、資産のリスクとリターンは次の図の直線上にあると考える。株式のようにリターンの高い資産はリスクも高く、預金のようにリスクの低い資産はリターンも低い。「ローリスク・ハイリターン」のうまい話はないのである。
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| 社会全体のリスクとリターンには相関関係がある |
ITでも同じことだ。たとえば個人情報保護法によって個人データが流通するリスクを低くしようとすると、データを使ったビジネスが制約され、リターンは低くなる。「有害サイト」を規制するために役所がフィルタリングなどに介入すると、自由な情報流通が阻害される。人々の選択肢を制限して無理にローリスクだけに制限すると、図の直線の右側がなくなり、社会全体の平均リターンを低下させてしまうのだ。
日本人は伝統的にリスク回避的だといわれるが、日本にはリスクテイクの伝統もある。世界で初めて先物取引を行なったのは、大阪の堂島米市場だった。明治以降の政府はそういう伝統を抑圧し、政府が民間を指導することによって「富国強兵」を進めてきた。特に戦後、銀行中心の金融システムや長期雇用中心の雇用システムが定着し、リスクをとろうとしてもとれない社会になってしまったのだ。
こうしたシステムは、1980年代までのように目標がわかりやすく、政府が民間をひっぱってゆく時代には便利だったが、今のように目標の見えなくなった時代には民間が自分のリスクでイノベーションを進めるしかない。そのために必要なのは、政府が過剰に安全・安心を求めるのではなく、民間の自己責任によるリスクテイクを認めることだ。金融市場ではそういう規制改革が行なわれたが、他の市場では労働者や消費者を「保護」すると称して規制が強まっている。こうした過剰規制は経済活動を萎縮させて経済を衰退させ、最終的には弱者保護にもならないのである。
筆者紹介──池田信夫
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1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「情報技術と組織のアーキテクチャ 」(NTT出版)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。















