音楽の未来を示唆するコンセプト
モデリングの対象になったRolandの機種は個人的に所有していたが、どれも音や操作性の特徴を上手く捉えている。特にTRシリーズはパラアウトも再現しているのがいいと思った。音源によって別々にエフェクトがかけられるので、スネアだけゲートをかける、クラップだけリバーブで飛ばすといった、細かい音作りもできる。
エフェクタ群のデザインは、Roland/BOSSの「Compact Series」に良く似ているが、パラメーターは独自の設定だ。たとえばCompressorは最近のエレクトロ系でよく使われるサイドチェーンが効くし、PitchDelayはBPMに合わせてディレイタイムが変わる。
こうしたツールがブラウザ上で使えるだけでも驚きだが、画面上での演奏を録音することもできる。画面左上の録音ボタンを押せば、録音中のパターン変更、エフェクトやミキサーの操作などすべて記録する。ライブ演奏に慣れた人なら、これで曲も作れるはずだ。
さらに録音した音源を公開する仕組みまであるのがすごい。録音したファイルはオープンソースのオーディオ圧縮形式であるOgg Vorbisにレンダリングされ、音源としてHobnox上で公開できるのだ。
たとえばHobnoxのユーザー以外にも作品をアピールしようと思えば、こんな風にwebやブログにエンベッドもできる仕組みもある。
これらの機能に関連して重要なのが、楽曲の著作権表示機能だ。その選択肢にパブリックドメインやクリエイティブコモンズの適用もある。
Audiotoolにサンプラーモジュールがないのは惜しいが、もしそれがあれば、他のユーザーが作った音源で著作権の問題なくリミックス作品を作るという作業がサイト上だけで完結する。
問題はフラッシュを使ったアプリの宿命として、全体的に動作が重いことだろう。操作中に音が途切れることもある。それでも音楽の制作から公開、共有までの流れを、webブラウザだけで処理できるのは非常にユニークだ。
ネットを使ったコラボレーションを進めるには、まず権利関係で問題の発生しない音源が必要だ。その音源制作とコラボの両方を可能にしたこのサイトは、音楽の未来を示唆するデザインとしても面白い。
さすがドイツのサービス、筋が通っているなあ、と実感するのは、Audiotool自体もオープンソース化されて公開されていること。こうしたオープンソース文化から生まれた、ピュアなコンセプトにも注目したいサービスではないか。