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商品を紹介するキャッチコピーのつくり方(4)――「本歌取り」に学ぶ

2008年04月03日 09時00分更新

文●朝日奈 ゆか/株式会社ユンブル 代表取締役

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「おーい、お茶」と「いえもんはーん」

 ひきつづき、キャッチコピーのつくり方を述べていきます。
 次の例を見てください。みなさんもよくご存知の車のキャッチコピーですが、以下の2つはなんだか似ています。

A. The Power of Dreams. ホンダ
B. Drive Your Dreams. トヨタ

 競合商品で、類似のキャッチコピーは無数にあります。AとBのように英語だと発音が聞き取りにくいので、どちらも同じに聞こえたりもします。ひとつあたれば同じようなキャッチコピーがドッと出まわる。不思議と人は、類似コピーにも意識を向けるのです。

C. おーい、お茶。伊藤園
D. 京都福寿園のお茶。伊右衛門
E. あたらしいをくれるお茶。キリン生茶

 C、D、Eの3つのお茶のCMは、絵柄も音楽もタレントの出演ぶりも、ドラマ性も画面から漂う雰囲気もよく似ています。どれかを買おうとするとき、「いえもんはーん」なのか「おーいおちゃ」なのか「きりんなまちゃ」なのか、3つのCMが頭の中でごちゃごちゃになって出てきませんか。手に取った商品のロゴもデザインも同じように見えるのですが、我々はそんなことはどうでもよくて、なんとなくその場の判断でどれかのお茶を買っています。
 これらのキャッチコピーをよく読めば、実はそれぞれ言いたいことはまったく違います。Cは呼びかけてお茶を協調し、Dは名称の宣伝に徹し、Eは商品の魅力を提案しています。
 これはおのおののCMのクオリティがそれぞれに高く、広告と商品が競合しながらも、互いにPR効果を高めあっている例です。

 競合が多い商品のキャッチコピーを考える場合には、己がコピーをいちばんにするのは至難の技です。それよりも、共存共栄をはかって共生する。
 この考え方と効果をよく知っておく必要があります。そのうえで、第10回第11回ですでに説明したように、まずは50本以上のキャッチコピーを考えてからブラッシュアップしていきます。洗練のコツはまた後の回で説明しましょう。

大昔からある「本歌取り」をキャッチコピーや文章の作成に生かす

 広告の世界だけでなく、以前にヒットした作品を真似てモノをつくるのはよくある手法です。ヒット作をパロったりダジャレにするのは、テレビ番組や映画、漫画などでも毎日のように見かけますね。この方法はいわば、Webサイトを制作するうえでの基本作業でもあるわけです。

 日本には昔から、和歌や俳句をつくる際に、「本歌取り(ほんかどり)」とよばれる技巧があります。すでにだれもが知っている古い歌の一部を元にして、新しく違う歌をつくる手法です。いわば、有名ソングを流用してのアレンジですね。鎌倉時代の勅撰和歌集(天皇や上皇の命で編集してある和歌集)・『新古今和歌集』には、そのテクが駆使された短歌が多いことで知られています。

たとえばこんなふうに。
[本歌]み吉野の 山の白雪 つもるらし ふるさと寒く なりまさるなり 『古今和歌集』 坂上是則
[本歌取り]み吉野の 山の秋風 さ夜更けて ふるさと寒く 衣うつなり 『新古今和歌集』 藤原雅経

 本歌取りはパクリではなく、大昔から人がことばをつくるときに知恵をひねってあみだしてきた技巧のひとつです。これぞ優れた編集の技術だと、わたしは考えています。
 ただし、現代と同様に昔も、取りかたに芸がないとか、あからさまに歌そのものを横取りするなど、下品に「本歌を取る」とただのパクリだと判断されていました。
 本歌を用いるにあたっては、本歌への感謝や敬意が込められた形でオリジナリティをもって他より秀でた歌として勝負する。そうして本歌取りは評価されるわけです。

 キャッチコピーだけでなく、本文や写真のキャプションも、「本歌取りの編集技術」は生きてきます。そもそも、編集技術の根本は本歌取りにあり、なのです。

 まずは、あなたが売りたい商材の過去の有名なキャッチコピーと文章を本やWebサイトで探し出し、それを真似たりアレンジする作業を行ないます。 
 あなたがビジネスへの意識が高い人ならば、この作業を進めるうちにどんどんとアイデアが広がっていくはずです(第10回参照)。アイデアを出すこの作業を繰りかえしながら、最終的にオリジナルのキャッチコピーに仕上げるのです。いろいろな商品でこの作業を繰り返しチャレンジするうちに、仕上げるコツもだんだんと身についていきます。
 真似ることは学ぶことなり。

著者プロフィール

名前 朝日奈 ゆか info_email_01[アットマーク]yumble.com
※著者に直接問い合わせをする際は、お名前、会社名、サイトURLなどを明記してください。
会社 株式会社ユンブル
サイト http://www.yumble.com/

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