すべては腕時計の中で生まれて、消えていく
実は電池がなくてもクオーツが動かせるというのは、時計業界においてとても大きな出来事だった。
スプリングドライブが持つ「小さな発電所」をもう少し詳しく見てみると、まず原動力となるゼンマイは腕の動きによって自動で巻き上げられる。機械式の機構では、このゼンマイが一挙に解けようとするところ、数枚の歯車などを利用して少しずつほどけるように制御している。
![]() | 9時位置にある扇形のパワーリザーブ表示が特徴的。ひと目盛りで1日分、100%巻き上げで約3日間は腕に装着しなくても動き続ける。ちょうど金曜の夜にビジネスマンが腕から外して、月曜の朝にはまだ動いている計算だ |
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スプリングドライブには、さらに機械式にはない「磁石を使用した小さな歯車」(ローター)が含まれている。ゼンマイのエネルギーがこのローターに伝わって回転することで、磁束の変化が起こって電気が発生する。その電気エネルギーが、ボタン電池の代わりに、水晶振動子とIC回路を駆動する。
そして水晶振動子が1秒間に3万2768回という振動を作り出し、その高精度な基準信号とローターの実回転速度を比較して、歯車の回転に加速やブレーキをかける。このような仕組みを使うことで、自動巻き機械式ながら日差1秒という世界最高水準の精度にまで時間の狂いを抑えているのだ。
人の動きがゼンマイを巻き上げ、ゼンマイのほどけるエネルギーが時を刻み、歯車の最終端にあるローターが電気を起こして、そのエネルギーでクォーツが動いて秒針が制御される──。すべてのエネルギーは固く閉ざされた小さな腕時計の内部で発生して、消費されている。それが来る日も来る日も繰り返される。まさに小宇宙だ。
両方持ってるから言える
「ロレックスGMTとは別物」
スプリングドライブGMTについては、外観が何となくロレックスのGMTマスターと似ているという意見もある。しかし、GMT針が赤色だという点を除けば別モノで、両者を日常使っている筆者にとってはあまりピンと来ない話だ。
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| 価格的にも近いロレックスGMT(左)とスプリングドライブGMT。一見して外観は確かに似ているように錯覚するが、赤いGMT針を除けばほとんどが違う | ロレックス=高級というイメージとは違う、「やんちゃ」な印象のGMTだが、使用目的を考えるとよく出来たデザインだ |
クォーツ腕時計のように1秒1秒、カチカチと時を刻まず、文字盤の上を流れるように滑っていく秒針。ベゼルまでクリスタルで被われた外観。機械式腕時計ならではの重厚なドルフィンスタイルの時針と分針。どれをとっても実用一点張りのロレックスGMTとは趣を異にする製品だ。
スプリングドライブGMTは、軽い気持ちで思わず買ってしまうことができない、「戦略的」衝動買いの筆頭腕時計だろう。「いいモノを長く使えるから戦略的なんだ」という言い訳が極めて説得力を持つ……と思うのだが、いかがだろうか?
![]() | 秒針の動きは、クオーツ式の前に生まれた音叉を使って時を合わせる音叉時計「ブローバ・アキュウトロン」にも似ている。しかし、スプリングドライブGMTの方が気持ち滑らかな感じがするのは筆者の欲目かも知れない |
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今回の衝動買い
アイテム:グランドセイコー マスターショップモデル スプリングドライブGMT
標準価格:57万7500円(グランドセイコー・マスターショップにて購入)
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T教授
日本IBMから某国立大芸術学部教授になるも、1年で迷走開始。今はプロのマルチ・パートタイマーで、衝動買いの達人。
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