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四本淑三の「テレビを捨てよ、動画サイトを観よう」 第4回

「忌野清志郎は死んでない」に考える、動画サイトとロックの関係

2009年05月12日 12時00分更新

文● 四本淑三

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なぜYouTubeでロックバンドはブレイクしないのか?

 第1回で取り上げた「歌ってみた」系のEsmee Dentersや、ウクレレ娘のJulia Nunesのように動画サイトからデビューしたケースは多いのに、なぜロックの若い連中は出てこないのか。

 1つはロックバンドは物理的に機材と音が大きいという点がある。歌ってみた系動画のように、自宅で気軽に撮影というわけにはいかない。もう1つ、今までのようなロックという表現スタイルが「動画サイトに合っていない」という可能性があるのではないだろうか。

David Bowie「Ziggy Stardust」(1972年)。ロックスターの成功と没落を歌った怪作として名高い

 たとえばロック全盛期の1970年代前半、David Bowieの「Ziggy Stardust」というアルバムがあった。「メディアによって作られたロックスターはいびつな存在であり、いずれ殺されるべきもの」。そんな内容の歌詞をロックスター自身が歌うという、自己言及的で手の込んだものだった。

 その時代にZiggy Stardustが表現たり得たのは、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌というメディアが、誰もが上がれるわけでない特権的なステージとして力を持っていたからだ。だが現代の動画サイトは誰でも上がれるステージであり、高いステージの上から共同幻想を生むタイプのロックスターは予め殺されているようなものだ

 「ロックをやってスターになろう」。そういう動機を持って臨んでもYouTubeやニコニコ動画などの動画サイトではあまり良い反応は返って来ないかもしれない。

 そこへいくと、忌野清志郎はロックスターとしても稀有な人だった。自分を高く見せようとしたわけでもないのに、結果的に音楽シーンの最も高いところに上がってしまった。日常の風景や疑問を平易な言葉で歌っても、不思議にカッコ良く見える人だった。

 だからもし動画サイト時代にブレイクできるロックミュージシャンがいるとするなら、それはたぶん忌野清志郎のような人ではないかと思うのだ。「ロックミュージシャン忌野清志郎は死んでない」。その言葉を信じたい。

四本 淑三(よつもと としみ)

1963年大分県生まれ。武蔵野美術大学デザイン情報学科講師。高校時代に音楽雑誌へ投稿を始めたのを契機に各種のコンテンツ制作や執筆作業に関わる。去年は動画サイトに上げたKORG DS-10の動画がきっかけで、KORG DS-10の公式イベント「KORG DS-10 EXPO 2008 in TOKYO」に参加。その模様はライブ盤として近日リリース予定。

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