「和解せずに何もしないのはメリットがない」
── 日本の出版業界はどういった対応をしていますか?
津田:日本の出版業界では今年の2月くらいから話題になって、各出版社の法務担当がどう対応すればいいのかかけまわっている状況です。
この辺、企業によってまちまちなんです。例えば講談社は出版権のみで、オンライン配信については著者で勝手にやってくれという考え方です。集英社や小学館などは、和解に参加するやり方と推奨する方針を示したうえで、著者に任せるという感じですね。
ただ「和解から離脱して何もやりません」と言うのはあまりメリットがないので、それはやめようと。温度差はありますが、とりあえず和解には参加してそれから考えようという方針のところが多いようです。
津田:あと、そもそも日本の出版業界は、著者に著作権が残るのかどうか、あいまいにしていたところがあるんですよね。
── と言われますと?
津田:日本の出版業界では、書籍を執筆する際に契約書を交わさないケースもあって、そうなると知的財産の所有権がどっちにあるか分からない。例えば、著者が勝手にグーグルの和解サイトに行って和解に契約したら、出版者がどうからんでくるのか。恐らく、契約書を交わしていないケースでは、著者に著作権が残っていることになるのでしょうけど……。
極端な話、出版権のみ出版社が持っている場合は、著者がグーグルと契約して販売することもできてしまう。そうするとオンラインで本を売ることに関しては、出版社がコミットできなくなる。
今までは著者と出版社があいまいにやっていましたが、今後はそれをきっちりしていかなければいけない。そういう時代になったということでしょう。その意味でGoogleブック検索の和解はいい機会を与えてくれたのかもしれません。
筆者紹介──津田大介
インターネットやビジネス誌を中心に、幅広いジャンルの記事を執筆するジャーナリスト。音楽配信、ファイル交換ソフト、 CCCDなどのデジタル著作権問題などに造詣が深い。「著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム」や「インターネット先進ユーザーの会」(MiAU)といった団体の発起人としても知られる。近著に、小寺信良氏との共著 で「CONTENT'S FUTURE」。自身のウェブサイトは「音楽配信メモ」。
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