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荻上チキが語る、炎上の構図

2009年05月08日 17時00分更新

文● ワクテカ編集部

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自身もブロガーである批評家、荻上チキさん

 mixiの登録ID数は1600万を超え、ブログの日記やTwitterのつぶやきといったネット上でのコミュニケーションは、デジタル世代にとっては電話をかけるのと同じように当たり前のものになった。

 ただし電話の場合と異なるのは、ネット上のコミュニケーションには不特定多数の見えない相手がいること。それを象徴するのが、ブログやSNSのごく個人的な記事におそろしく大量のコメントが殺到する「炎上」のケースだ。

 個人的な事柄がネット上で一挙に大きな議論に膨れあがってしまうというこの現象は、ゼロ年代の爆発的なコミュニケーションツールの進化とともに生まれてきた。TwitterやTumbler、また小規模SNSなど様々なツールが増えていく中、その形はどう変わっていくのだろう?

 「ウェブ炎上――ネット群集の暴走と可能性」(ちくま新書)を著し、自身もブロガーという経歴を持つ気鋭の批評家・荻上チキさんに、これからの「炎上」はどう変わっていくのか、インターネット上でのコミュニケーションはどう変わっていくのかを聞いた。

※本記事は「ワクテカ@works&technica」に掲載していた記事を再編集したものです


Twitter時代の炎上論

――今回お伺いしたいことを端的に言うと「これからも炎上はつづくのか」ということについてです。TwitterやTumbler、またオープン化を表明したmixiなどコミュニケーションツールそのものが新しくなっていくことで、炎上という「運動」の姿はどう変化していくんでしょうか。

「これからも炎上的なものはなくならないでしょう」

荻上チキ(以下「荻上」) 結論から言えば、ウェブ上に自由なコミュニケーション空間を確保し続けるなら、これからも「炎上的なもの」はなくならないでしょう。人がコミュニケーションを行なう限り、そこにノイズは必ず発生しますし、人はそれを楽しみ続けるでしょう。ウェブ上でも、それはこれからも変わりません。

 元々ウェブ上では、人々の口コミや流言が可視化されやすいんです。そうした言説が雪だるま式に重なっていく動きを、その対象やケースに応じて「祭り」といったり「炎上」と表現したりするわけですが、それを人為的に止めるのはたやすいことではありません。

 本人への罵倒などについては、コメント欄などを設けなければストレスを受ける可能性も下がるでしょうが、ネット上だけで完結されないような、企業などへの「電凸」*1のようなケースではそうもいきません。また、本人ではなく、他者が勝手にネット上で広げた情報によって燃えることもありえますから、その蓋然性は一般には低いのだけれど、リスクはゼロにはなりません。

 多くのユーザーは、「2ちゃんねる」のような匿名空間や、ブログといった顕名的なサービスを使って「よそ様向け」にコミュニケーションをするのではなく、「mixi」を象徴的に、「親密圏」*2 のメンテナンスツールとしてネット空間を使っています。

 そのとき、mixiという親密圏で発言された内容を、2ちゃんねるなどから観察する人に「誤配」され、攻撃の対象とされてしまうというのが、よく見かける炎上のパターンでした。本人としては読者層を意識せずに発言した、いわば「失言」、たとえば喫煙・飲酒などの違法行為を披瀝する「犯行自慢」などがそれにあたります。

水村美苗「日本語が亡びるとき」(筑摩書房)

 Twitterで炎上する場合も基本的にはこれと同じケースになるでしょう。Twitterは外部へのつながり性は低いので、炎上の事例はまだそう多くはありません。

 たとえば「はてな」の取締役である梅田望夫さんが水村美苗「日本語が亡びるとき」を自分のブログ上でレビューしたとき、はてなブックマーク上でネガティブなコメントがたくさんついた件が記憶に新しいですね。

 そのコメントを読んだ梅田望夫さんがTwitter上で「はてブのコメントには、バカなものが本当に多すぎる」と発言したことでさらに燃料が投下されたというものです。

 ただ、これはTwitterでなくてもよかったわけですよね。その意味で、Twitterが炎上のケースに関わることはあったとしても、その誘発の仕方が変わるというよりは、ただチャネルがひとつ増えただけと言えるでしょう。

 Twitterそのものは元々、身内同士が親密圏で発言しているもので、検索可能性もそれほど高くない。ブログとチャットの中間のような、「ゆるい」サービスであるがゆえに、元々ストレスフルなコミュニケーションが避けられがちな空間です。

 ブログにも疲れ、mixiにも疲れ、本当に分かった身内同士で「キャッキャウフフ」*3したい、やや高アンテナ、高リテラシーな層がTwitterにやってくるという印象もあります(笑)。だから、ワンオブゼムのチャンネルにしても、「炎上係数」自体は割と低めだと思います。

*1 電凸(でんとつ): 特定の組織あるいは団体に電話をし、活動内容について「組織としての意見を問いただす」行為をあらわすネットジャーゴンのこと

*2 親密圏: 「親密な関係」を基本理念とした、他者を含む環境のこと

*3キャッキャウフフ: 2名以上の人間(異性同士・女子同士)が、仲むつまじく戯れあっている様を形容する語。

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