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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第64回

総合電機は「変われない日本」の縮図

2009年04月22日 12時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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優秀な社員の能力や技術が活かせない

 日立製作所をめぐって、悪いニュースが続いている。今年の3月期決算で7000億円の連結赤字に転落する見込みとなり、社長が62才の古川一夫氏から69才の川村 隆氏に交代したばかりだが、冷蔵庫にリサイクル素材を使っていると称してほとんど使っていなかったことが判明して公正取引委員会の排除命令を受け、省エネ大賞を返上した。20日の記者会見で川村社長は、政府による資本注入制度を活用する意向を表明したが、これはもっと悪いニュースになるだろう。

日立のグループ企業

日立製作所のサイト内から。“あ”だけでこれだけのグループ会社がある。なお、新社長の川村 隆氏は日立製作所 代表取締役副社長を経て、日立マクセル 取締役会長などを務めてきた

 1990年代末から、多くの銀行が資本注入を受けたが、それによって経営が健全化した銀行はなく、そのうちいくつかは経営破綻した。資金繰りは経営不振の原因ではなく、その結果にすぎない。原因を直さないで一時的な「痛み止め」を処方すると、かえって企業の体質改善がおろそかになる。危機を政府に頼って乗り切ろうとすると、政府のほうばかり向いて経営する結果、最終的に破綻することも多い。ミルトン・フリードマンがいったように、政府の補助は「死の接吻」なのである。

 私は日立の社内研修のお手伝いもしたこともあるので、現場の社員も知っているが、みんな優秀でまじめだ。日立には博士号を持つ社員が1200人もいると聞いた。ノーベル賞級の基礎研究の実績もあるのだが、そういう力が製品に活かせない。「中央研究所」を中心にしてピラミッド型になった研究・開発体制の中で、「おもしろいがリスクの高い技術」は埋もれ、「常識的だが安全な技術」に経営資源が投入される結果、品質の高さについては評価が高いが、製品に独自性が無くなってしまうのだ。

 最近の成長市場であるデジタル家電では価格競争で苦しんでいる。かつて強かった洗濯機・冷蔵庫などの白物家電でも、自社の「ビートウォッシュ」技術にこだわってドラム式洗濯機に出遅れ、かつてのシェア首位の座から転落した。川村社長も認めるように、コンシューマー部門全体がお荷物になっている。

 さらにひどいのが情報通信部門だ。日立が55%出資しているルネサステクノロジは、3月期決算で2060億円の赤字に転落し、NECエレクトロニクスと統合する方向との報道がなされている。IBMから約2000億円で買収したHDDの日立グローバルストレージテクノロジーズも累積赤字が膨らんでいる。力を入れた自動車用部品も、自動車業界の不振の影響をまともに受けて大幅赤字に陥った。日立は企業買収の件数では電機メーカーの中ではもっとも多いが、その多くが失敗に終わっている。

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