「TVML」発想の原点は「趣味でやってみた」
今では壮大な計画になっているが、そもそもの「TVML言語」を発想したきっかけは「趣味でやってみた」ことだった。
今から14年前の1995年。林さんは、今では常識となった、CGのスタジオを使って天気予報などの番組を作る「ヴァーチャルスタジオ」に関する研究をしていた。仕事の合間に、CGキャラクターを自分の趣味で「作ってみた」時期があったのだ。
はじめは関数を入力し、単純にキャラクターを歩かせてみた。すると今度はしゃべらせたくなってきて、その次には「お辞儀をさせたい」「カメラ位置をいじりたい」とテレビ的なことにチャレンジしたくなってくる。
そのうちテキストエディターに書いていた書式が、まるでテレビ番組の台本のようになった。その試作版を同僚に見せたところ「それってなんかHTMLみたいだよね、テレビだからTVML言語か」と盛り上がった。それが始まりだったのだという。
だが、この技術を初めて学会に提出したときは、まったく受け入れられなかった。
3DCGで描かれたウルトラマンのようなキャラクターがぺらぺらと英語をしゃべる映像(当時対応していた言語は英語のみだった)が流れると、会場はにわかにざわついた。
これが未来のテレビに使われる技術だというと「お前は何を言っているんだ」と冷ややかな視線を投げられた。「台本を書くだけでテレビ番組を作れるはずがない、お前はアナウンサーとディレクターの仕事をとるつもりなのか」とも。
実際にやりたかったのはプロの放送番組を作ろうということではない。自分自身がそうだったように、「アマチュアとして、メジャーではない場所でも映像が作れる」そんな環境を作りたいという思いがあった。
当時のNHK技研が重きを置いていたのはむしろハイビジョン化の方向だった。「発想としてまったく逆だったんですよ。あのキャラクターをハイビジョン化するというナンセンスなことをしたこともありました」と苦笑した。
だが、今年5月に開催されるNHK技研の研究発表イベント「技研公開」では、TVMLの技術(NHK技研では「TV4U」として発表する)も展示される予定という。
世の中が不況と叫ばれる中、ハイエンドを求める「2K4K」や「22.2chサラウンド」といった技術がテレビに入ってくるのはまだ先という考えに変わっていく。代わりに、現在のテレビを別の形でエンターテインメントにする方向にシフトしたのだろう。