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ヤフーCCOが特別寄稿

この国を象徴する医薬品の通信販売規制

2009年04月15日 06時00分更新

文● 別所直哉(ヤフーCCO)

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大衆薬などのネット販売が6月から禁止される薬事法の改正に関して、4月14日、三木谷浩史楽天社長と喜多埜裕明ヤフー最高執行責任者が内閣府に訪ね、甘利明規制改革担当相を医薬品のネット販売継続を求める100万人分の署名と要望書を手渡した。この問題の背景や反対する意図について、ヤフーCCOの別所氏に寄稿してもらった。

憲法に定められた「国民の権利」

 この2月に改正薬事法に関連する厚生労働省令が公布され、6月からビタミン剤や消毒薬などの一部を除く約7割の一般用医薬品(薬局で販売できる医薬品)が通信販売できなくなってしまう可能性が生じています。そこで、通信販売に頼って一般用医薬品を入手している数多くの方々から、「厚生労働省令を見直すべきだ」という声が寄せられています。弊社(ヤフー)と楽天で行なっている医薬品の通信販売の継続を求める署名も、3月26日に100万件を突破しました。

Yahoo!ショッピングの反対署名サイト

 一方で、厚生労働省が省令の検討のために作った検討会に参加していた団体等からは、「通信販売を継続したいのであれば早くから行政の動向に目を向けて議論に参画できるように事業者として努力すべきであって、骨格が決まった段階でいまさら口を差し挟まれても困る」という声が聞こえてきます。また、ここにきて厚生労働省は通信販売で届けられた医薬品に副作用があったり、自殺目的で購入した医薬品が通信販売によって入手されたといった例を公表し始めました。

 このような状況をみると、医薬品行政は一体誰のためのもので、何のためにあるべきと考えているのか、疑問が沸いてきます。

 医師が処方する医薬品ばかりではなく、一般用医薬品も、風邪をひいたとき、頭痛や生理痛のときなど、私たちの日常生活の中で健康維持のために大切な役割を果たしています。健康な生活をおくるために医薬品を選び、入手する権利は憲法上も私たちのものなのです。こうした医薬品の果たしている役割を適切に把握したうえで、国民の健康のための政策を検討していくには、医薬品を販売する人々よりも、使用者としての国民の声こそを政策に適切に反映させる仕組みが必要です。

販売方法と無関係な事例のアピールは非科学的

 今回の薬事法改正の1つの目的は、医療用医薬品として一定期間使われていて安全性に問題のない成分を一般用医薬品としても使えるようにしていくことです。そのため、従来の販売体制を見直し、適切な情報提供とともに医薬品販売を行なっていこうというわけです。その観点からは、情報提供が適切になされるのであれば販売方法そのものが問われる必要はありません。

 また、医薬品の副作用というものは、発生する可能性があることはわかっていますが、個別の人について具体的に発生する可能性はわからないというのが科学的な真実です。さらにどんなに適切に情報提供を行なっても故意に医薬品を誤用することを防ぐことはできません。副作用情報が記載されていなかった一般用医薬品による副作用発現が通信販売に起因するかのような発表や、自殺のための故意の誤用を販売手段と結びつけようとする方法には、悪意さえ感じます。副作用防止に関する正しい科学的アプローチから、目をそらさせる以外の何者でもありません。

 今の日本は行政庁が政策を立案し、法律案を作成し、行政を行なうという形で、行政庁が自己完結的に政策を回してしまえる形になっています。今回の省令改正もこのアプローチです。このように行政庁万能になってしまっていることが、憲法を無視し、科学的なアプローチを無視し、国民の声や健康を無視する結果につながっているといえます。

 同様のことは今日の行政のあちらこちらに見受けられます。これを1日も早く正しい形にしていくことが、私たち国民が自らの生活や事業を守っていくためには必要です。そして、多くの方々にこれらの問題を一緒に考えてもらいたいと願っています。

筆者紹介:別所直哉


 ヤフー株式会社 CCO(最高コンプライアンス責任者)兼 法務本部長。過去、製薬会社に勤務していた経験もあり、現在はセキュリティや通信事業に関する官公庁の委員も務めている。


掲載当初、別所直哉氏の肩書きを誤って記載している個所がありました。お詫びして訂正いたします。(2009年4月15日)


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