背景その2:高機能なソフトをフリーで使える
もうひとつ「オープンソース」というのも、家電ベンチャーの成立を容易にした要因だ。かつて、デジタル家電のソフトは金銭的/人的コストがかかっていた。
「昔はボードは100万円で済むけど、組み込むソフトのライセンスで300万円、500万円という世界だった。しかもそのソフトのカスタマイズに高いスキルが必要で、習得にも会社にある分厚いマニュアルを読まなければいけない」(岩佐氏)
そのコストが大幅に下がっている。
「今はLinuxが使えればよくなった。当然ライセンスは遵守する必要はあるけど、Linuxコミュニティーからソフトを持ってきて無償で利用できる。不完全なソフトをデバッグをしてコミュニティーに還元することもあります」(岩佐氏)
しかもEVMボードは、実際に製品に組み込むボードと電気回路的に同じなので、作ったソフトをそのまま焼き付けられる。
「われわれは日本でソフトを作り込み、中国ではボードの小型化を進める。最後にソフトを注入すると完成です。これはうちの会社に限らず大手も同じですね」(岩佐氏)
EVMやオープンソースをうまく活用して、省力化できるところは省く。その上で、ソフトやサービスといったところは自分たちで作って差別化する戦略だ。
「規模はまったく違うけど、会社のスタンスはアップルと近い。アップルもiPodのガワは中国や台湾で作っているが、中はシリコンバレーで開発している。うちも組み込みのソフトは全部自分たちで作っています。アップルでいうところのiTunes Store──ネットでつながる先のウェブサービスがわれわれのキモですね」(岩佐氏)
家電が好きなんです
「画質よりも共有性を重視したカメラ」というので筆者が思い出したのは音楽の記録メディアだ。音をデジタル化したCDは、音質が悪いと言われながらも最終的にレコードを追いやってしまった。そして今やMP3やAACなどの圧縮音源がCDを過去へと葬り去ろうとしている。
岩佐氏のブログ「キャズムを超えろ!」ではないが、Cerevoの新製品もキャズムを超えられる(=メインストリームに乗る)マス狙いのもの──かと思っていたが、実はそうでもない。
「ネットで写真を共有するという使われ方は相当増えてきましたが、一般の方で見るとまだまだ知らない人は多い。ネットを使う人のなかでは割とマスですが、大手の家電メーカーと比べると『ニッチ狙い』です」(岩佐氏)
だからネットで限定販売という方法を選んだ。とはいえ家電への情熱は大手に負けていない。
「自分は家電が好きなんです。作っているところをぜひ見てもらって、就職活動している人に『ものを作っていくのはおもしろいよ』と伝えたい。引いては家電業界全体がうまい方向にいくといいのですが」(岩佐氏)
「ものづくり」大国を支えてきた家電というジャンルでCerevoが「Revolution」を起こせるかどうか、その新製品の行く末に注目だ。