背景その1:開発ボードが劇的に安くなった
ところで筆者が気になったのは、Cerevoのような家電ベンチャーがなぜ今まで世にあまりなかったのかという点だ。
岩佐氏によれば、ここ5年ほど家電ベンチャーがかなり立ち上げやすくなってきたのだという。キーワードは「EVM」と「オープンソース」だ。
そもそもデジタル家電というのは、どういう風に作られているのだろうか? 簡単に説明すると、大企業ではひとつのプロダクトに、商品企画/ソフト/ハードという3つの部隊が関わっている。
このうち、セレボが内部に持っているのは商品企画とソフトで、ハードの開発はEMS(電子機器の量産を請負う企業)経由で海外の工場に委託している。いわゆるファブレス(工場を持たない)のメーカーなのだ。
これまたおおまかに説明すると、デジタル家電の開発というのは、商品企画が出してきた仕様を元に、ソフトやハードの部門が実物を作っていくという流れだ。筆者は何となく、ハードの部隊がプロトタイプを作って、ソフトの部隊はそのプロトタイプでソフトがどう動くかを確かめている──という手法なのだろうと思っていたのだが、実際はもっと効率のいい方法を採っているそうだ。
「ソフトのエンジニアは、開発ボードの上で組み込みソフトをチューニングしているんです。外観デザインや内部レイアウトは、別のハードウェアの部隊が考えている。ソフトウェアのエンジニアというのは、どんな見た目になるか分からないけど、とりあえずボードの上で組み込みソフトを作り込んでいきます」(岩佐氏)
家電ベンチャーを始めるハードルが下がったのは、この開発ボード自体が登場して、しかも劇的に安くなったからだ。
「アナログ家電の時代は、開発用のボードというのが存在しなくて、ゼロから製品を作るといくらかかるのかという時代だった。その次の90年代後半くらいにデジタル家電が登場して、こうした開発用のボードが売り物として出てきたんです。でもモノによっては数百万円かかったりして、オシロスコープやロジックアナライザなど開発に必要な計測機器類を付けると1000万、2000万円にふくれあがるということもあった」(岩佐氏)
それが今や数万円、数十万円の世界だ。
「最近では、EVM(Evaluation Module、評価モジュール)と言う開発ボードがよくできていて、8万円とか、10万円という値段でも買えてしまう。弊社が開発に使っているのも5万円を切っている(関連リンク)。5万というと個人では高いけど、会社から見るとパソコンより安いでしょ?」(岩佐氏)
実際に家電用のソフトを作り込むときには、EVM上にドーターカードをさして使う。カメラ、GPSのセンサー、液晶ディスプレー、タッチディスプレー、モーションセンサー、無線/有線LAN、USB──など、電子的につながるようなデバイスであれば何でも載せられるという。
「EVMボードのことを、われわれはよく『レゴの一番下の板』と言っています。例えば、カーナビを作りたいということになると、7インチのタッチセンサー付きディスプレーを置いて、シリアル端子につなぐ。あとはUSB端子のあたりからGPSのセンサーと、加速度などを取るセンサーを付ければ、カーナビのプロトタイプができてしまう。その上でソフトウェアのエンジニアは、液晶を映るようにしよう、GPSで位置情報が取れるようにしようとソフトウェアを書いていくわけです」(岩佐氏)
今では「BeagleBoard」(ビーグル犬のビーグル)と呼ばれる1万円台のボードまで出てきている。そうしたボードを電子工作好きの人が買い、Linuxのコードを落として組み込んで遊んでいるそうだ。