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慶応大学とKDDI、FM東京がデジタル放送とともにIPデータを一斉配信する技術を発表

2006年11月20日 16時42分更新

文● 編集部 橋本 優

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慶應義塾大学とKDDI(株)、(株)エフエム東京は20日、デジタル放送にIPネットワーク環境を構築する“IP over デジタル放送”技術について、実用化に向け共同で検証していくことで合意し、その発表会を都内で開催した。

送信側の機材 受信側の機材
発表会場で行なわれたデモで使用された機材。左が送信側の機材で右が受信機(パソコン)
“IP over デジタル放送”の説明図
“IP over デジタル放送”の説明図
“IP over デジタル放送”のシステム図
“IP over デジタル放送”のシステム図

IP over デジタル放送は、デジタル放送波(テレビ、ラジオ)にIPパケットデータを乗せて、一斉同報配信を行なう技術。仕組みとしては、IPパケットをMPEG-2 TSパケットのペイロード(ヘッダ部を除いたデータ部分)として組み込み、放送波に乗せて配信する。受信装置(パソコンなど)はこれを受信し、IPデータを抽出してウェブブラウザーなどで表示する。放送波は事実上、下りのみの一方向通信であるが、“UDLR”(UniDirectional Link Routing)と呼ばれるルーティング技術により、仮想的に双方向通信に見立てる。実際には受信側から放送局などに情報を送信する場合は、パソコンに接続された固定回線もしくは無線通信回線などからデータが送られる。

IP over デジタル放送の基礎研究や技術的課題の検討、標準化に向けた作業などは慶応義塾大学が行ない、システムの開発はKDDI、実験コンテンツの提供などはエフエム東京が行なう。また、IP over デジタル放送を利用した新サービスやコンテンツの検討などをKDDIとエフエム東京が行なっていくという。

“ネットサーフィン同期型ディスクジョッキー”の説明図
“ネットサーフィン同期型ディスクジョッキー”の説明図
“ネットサーフィン同期型ディスクジョッキー”のデモ
“ネットサーフィン同期型ディスクジョッキー”のデモの様子。左のスクリーンが配信側(ラジオのパーソナリティー)の見ている画面で、右は受信者(視聴者)の見ている画面。ウェブブラウザーがリンクされている

今回、IP over デジタル放送を利用したサービスの一例として“ネットサーフィン同期型ディスクジョッキー”を開発。これはラジオのパーソナリティーが見ているウェブサイトを、視聴者に一斉配信するというもの。パーソナリティーがウェブサイトのデータを送信すると、視聴者側のウェブブラウザーが自動的にそのデータを表示する。これにより、パーソナリティーと視聴者が視覚的にリンクするだけでなく、たとえば災害時など通信回線が繋がらない状態でも、ウェブ上の重要な情報をテレビやラジオのデジタル放送で一斉配信することが可能になるという。

ただし、著作権の問題などの課題もあり、すぐに実用化できるものではなく、試験サービスなども未定だという。

なお、これ以外にもさまざまなサービスが考えられるが、それらを含めて今回の技術に関しては、慶應義塾大学が22日と23日に東京・丸の内(丸ビル/三菱ビル/東京ビルTOKIAガリレア)で開催する“SFC OPEN RESEARCH FORUM 2006”で一般公開するという(詳細はhttp://orf.sfc.keio.ac.jp/)。

村井 純氏
慶応義塾大学の常任理事で環境情報学部教授の村井 純氏

発表会に臨んだ、慶応義塾大学の常任理事で環境情報学部教授の村井 純氏は、「デジタル放送の時代に、どういうものがどのように作られるか、というのはたくさんの夢がある」とし、「デジタル情報の伝搬という意味では、我々は3つの武器を持っている。ケーブル、ワイヤレスというのはかなり使いこなしてきているが、放送をインターネットとどういう風に組み合わせていくかは技術的には大きな課題。全体を組み合わせたときに、我々は新しい社会の基盤を整えていける」と語った。

KDDIの安田 豊氏
KDDI執行役員で技術統轄本部長の安田 豊氏

また、KDDI執行役員で技術統轄本部長の安田 豊氏は、2005年6月に発表した次世代移動通信の“ウルトラ3G構想”を引き合いに出し、「移動と固定のユーザーを統合して、できればサービスもシームレスに使えるようにしたい」とし、「固定と移動と放送、この3つが融合、もしくは連携していくことが、これからの私たちの生活そのものに大変重要だと意識している」と述べた。その上で、今回の発表については「(同社が提唱する)FMBC(Fixed Mobile Broadcast Convergence:固定、移動、放送の融合)のコンセプトに非常に合致したもの」だとし、その意義を強調した。

お詫びと訂正:本稿掲載当初、FMBCの正式名称について「Fixed Moile Broadband Convergence」との記述がありましたが、正しくは「Fixed Mobile Broadcast Convergence」です。ここにお詫びし、訂正いたします。(2006年11月22日)
エフエム東京の仁平成彦氏
エフエム東京 執行役員の仁平成彦(にひら なるひこ)氏

最後に登壇した、エフエム東京 執行役員の仁平成彦氏は、今回の技術は「デジタルラジオのもう1つ先の話」だとし、「リスナーの方々と一緒になってコンテンツを作っていける環境ができてくる」「インターネット上で重要な情報(ライフラインなど)を、放送インフラで一斉同報配信が可能」「IPというオープンな技術の上に放送が成り立つということで、新しいサービスの開発や取り組みの実験がやりやすくなる」といったメリットを強く感じるとした。

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