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【Adobe MAX 2006レポート Vol.2】ApolloはFlash Playerとともに降りてくる?

2006年10月25日 16時56分更新

文● 編集部 佐久間康仁

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基調講演のオープニングに登場したBlue Man Group
同じホテル内で公演しているライブパフォーマンス“Blue Man Group”がオープニングを派手に盛り上げた基調講演の模様は、追ってレポートする

米国ラスベガスのベネチアンホテルで、現地時間の24日から開催されている“Adobe MAX 2006”の最大の目玉が、Flash+PDF+HTMLの統合プラットフォーム“Apollo”(アポロ)の詳細が明らかにされることだと言われている。ここでは、初日の基調講演およびその後に行なわれたケビン・リンチ(Kevin Lynch)氏への共同インタビューで明らかにされた内容を踏まえて、現時点で分かっているApolloの詳細をお伝えしていこう。



Apolloは製品名じゃなく“プラットフォーム”

まず確認しておきたいのは、Apollo(開発コードネーム)はひとつのアプリケーションを差す製品名ではなく、プラットフォームの名前であるということ。ASCII24で2005年10月の“Macromedia MAX 2005”レポートで最初に報じたときには、“デスクトップアプリケーション”と記載しているし、その後の各種メディアの報道でもその正体が断片的にしか報じられなかったため、読者の間に誤解が生じている可能性があるが、今回基調講演でCSA(最高ソフトウェア設計責任者)のリンチ氏が図示したように、ApolloはOSとアプリケーションの間に入るプラットフォームでありAPI群の総称となる。

ケビン・リンチ氏
Apolloの開発を進める責任者のケビン・リンチ氏

つまり、Apolloプラットフォームを使ったアプリケーションが開発されて利用される際に、Apolloプラットフォームに必要な機能拡張が自動的にOSに追加・インストールされる、という形で普及するものと思われる。現在のFlash Playerが、あるウェブページのFlashコンテンツを正常に表示しようとすると、そのコンテンツに対応した最新版Flash Playerを自動的にダウンロード、インストールしようとするようにだ。

ApolloとOS、アプリケーションの関係
ApolloとOS、アプリケーションの関係。Apollo上で実行されるアプリケーションや表示されるコンテンツは、FlashベースでもHTMLベースでもいい

ただし新しいプラットフォームだけに難しい面もある。同社は最新版Flash Playerの普及状況を“12ヵ月以内に80%以上”とうたっているが、これは既存のFlash Playerユーザーがアップデートすることにはさほど抵抗がないためだろう。それに対して、Apolloはまったく新しいプラットフォームになるわけで、いわば“Flash Playerを最初にリリースしたとき”と同様の難関が待ち受けているわけだ。

Apolloのロゴ
Apolloのロゴ。マウスカーソルがロケットのように衛星軌道を巡る

この点について、普及促進のための戦略を尋ねたところ、「Apolloは既存のFlash、PDF、HTMLの技術を使っているので、こうしたものを使っている人がApolloを難しいと思うことはない。Flash Playerを使ってインストールを簡単にしていく方法もあると考える」とリンチ氏は語った。つまりFlash Playerのバージョンアップなどの際に、ユーザー環境にはApolloプラットフォームに必要なランタイムも組み込んでしまう、という戦略ともとれる。この点について確認してみると、「現在Flash Playerは軽量化に向かっている。最新のFlash Playerは(ファイルサイズが)1MBです。Apolloは(開発途上ではあるが)6MBくらいになる。これ(ファイルサイズ)を大きくすることでFlash Playerに負荷をかけるのは止めたいと思っている」と述べた。

その一方で、「デベロッパーにすばらしいアプリを作ってもらうことも普及のために必要」と述べ、Flash Player 9の普及促進に一役買った“MySpace”(MSNのブログサービス)でビデオ共有サービスなどを例に挙げた。



Apolloの登場で何ができるのか? 何が起きるのか?

では、Apolloプラットフォームでは何が実現できるのだろうか。すでに国内でも何度かApolloアプリケーションのデモが行なわれているが、今回の基調講演では、

  • ローカル(オフライン)のMP3ファイルを再生すると、オンラインから自動的に楽曲情報やアルバムの画像を取り込むメディアプレーヤー“Ascention”(アプリケーションの名称は開発中のもの)
  • Google Mapsの地図データを表示して、そこにショップ、ランドマークなどの検索データを入力・指定するユーザーインターフェースを重ね合わせたナビゲーションソフト(名称不明)
  • 住宅ローンの申し込み用フォーム(PDFファイル)と住宅の間取り図、詳細なスペックなどをまとめたファイナンスのビジュアル管理ソフト(名称不明)
  • MySpaceのサービスを利用して、知人のプレゼンス(在席)状況を確認できるインスタントメッセンジャー(名称不明)
  • オークションサイト“eBay”(イーベイ)で、出品されている商品の写真や出品者のプロフィール、現在の価格や入札用フォームを、ウェブブラウザーで見るより使いやすく配置したeBay専用アプリ(名称不明)
  • XMLを使ってネットワーク経由で作成した文書ファイルを共有し、コメントを付けたり削除ができるバーチャルワープロソフト“Virtual Ubiquity”
  • インターネット上で共有・配信される動画の視聴用クライアント“Philo”。動画は配信サイトにアクセスすると同時にローカルにダウンロードされ、後で飛行機に乗ってからゆっくり見ることもでき、背景をそのサイトに特化した画像に変更することもできる

がデモンストレーションされた。

Google Mapsを活用するApolloアプリケーションのデモ eBayアプリケーションのデモ
Google Mapsの例。単にGoogle Mapsを表示するだけならウェブブラウザーでも同じことができるが、さらに友人の情報などを管理して、地図上に示すといった機能の追加を行なっているeBayアプリケーションでは、デモに使ったノートパソコンの内蔵ウェブカムを使って、リンチ氏が手に持つ“Apolloロゴ入り巾着袋”を撮影、オークションに出品するまでの一連の動作をデモしてみせた。ウェブブラウザー経由で行なうよりも画面構成がシンプルなこと、eBay向けにデザインがカスタマイズされていることなどが分かるだろう
バーチャルワープロソフト“Virtual Ubiquity”の画面 動画配信・動画共有サイトの映像を串刺しで見られる“Philo”
XML形式で文書を作成・公開できるというバーチャルワープロソフト“Virtual Ubiquity”。右の青や赤の引き出し線はコメントで、これを共有することにより文書のレビューがスムーズに行なわれるインターネット上で動画配信・動画共有しているサイトの映像を同じユーザーインターフェースで見られる“Philo”。表示すると同時にローカルに動画を保存するため、オフラインになっても動画を楽しむことができる。このアプリケーションなら、過熱する動画共有サービスのブームを受けてApollo普及のキラータイトルになるかもしれない、と感じた
基調講演でデモされたApolloアプリケーションの数々

これらを通じて分かるのは、ローカルファイルとオンラインファイルを分け隔てなく扱えること(Apollo経由でローカルファイルへのアクセスが可能)、従来のウェブサービスとは異なり、オフラインでの利用に必要なファイル/データは適宜ダウンロードされて実行されること、それらの新しい特徴を利用者にはほとんど意識させずに実現すること、などだ。また、「Apolloはクロスプラットフォームとして開発されており、Mac OSでもWindowsでもひとつのコードを書き分けることなく実行できる」とも語った。

Apolloが開くインターネットの未来はバラ色か?
開発者向け投資資金に1億ドルを用意

これは開発者側には朗報だが、便利さの半面、危うさも感じる部分だ。特にローカルファイルへのアクセスは悪意のある開発者にとっての格好の餌食になりかねない。この点についてリンチ氏は「ダウンロードしたりファイルアクセスがある場合には、ユーザーに警告を行なった上で実行される」として、悪意のあるApolloアプリケーションが容易にユーザー環境に害を及ぼすことはないだろうと述べる。

Apolloでできることのまとめ
Apolloでできることのまとめ。上から順に、ローカルファイルアクセス、オンラインオフラインでのイベント検知、ドラッグ&ドロップの簡易ユーザーインターフェース、クリップボードへのアクセス、バックグラウンド実行、マルチウィンドウ表示、ウィンドウデザインのカスタマイズ、など

また、以前にも指摘したように(関連記事)、Apolloを使ったコンテンツの視聴・利用では従来のウェブブラウザーでの表示を前提とするバナー広告配信のビジネスモデルは根底から覆される可能性もある。Apolloアプリケーションの開発の仕方によっては、ウェブページを構成するコンテンツの中から、そのときユーザーが最も欲しい情報だけを“つまみ食い”する形で表示・表現することもできてしまうからだ。

例えば先ほどのeBayアプリケーションでは、確かにeBayでオークションに参加して購入・売却するというeBay本来のビジネスには有効に機能し、利用者に“すばらしい体験”をもたらすことだろう。これによってオークションがいっそう活性化し、eBayのビジネスも大きく成長することが期待できると判断すれば、eBayが専用アプリケーションを開発してユーザーに配信することもあり得る。しかし、その際に本来オークションとは関係のないバナー広告は排除されるかもしれないし、eBayの判断で専用アプリの中にバナーを表示する枠を作るかもしれない(リンチ氏は既存のバナー広告配信もApolloアプリケーションで実現できるし、オフラインでも広告を読ませる“広告キャッシュ”にも利用可能としている)。あるいは、広告のない専用アプリでは利用料を徴収するといったケースも考えられる。

Apolloの開発者に向けて総額1億ドルの投資を準備
Apolloの開発者に向けて総額1億ドルの投資を準備しているという。Flashのエコシステムと同様、開発者と利用者、サービス提供者の循環によるビジネスモデル構築のための投資なので、驚くほどの巨額な投資というわけではなさそうだ

いずれにしても、Apolloを通じた新たなビジネスモデルの構築・普及までにはいくつかの克服しなければならないハードルがありそうだ。ただ、Apolloプラットフォームが現在のFlash Playerのようにパソコンの90%以上(アドビ談)に普及して、デファクトスタンダードの地位を占めれば、現在のウェブブラウザーを通じたインターネットサービス/アプリケーションとは大きく異なるユーザー体験ができるようになることは間違いないし、新たなビジネスチャンス(ビジネスモデル)が創出される可能性も大いにある。

なお、これらのApolloアプリケーションは、“Adobe Lab”を通じて開発者向けに近日公開される予定とのこと。さらにApollo開発者向け投資も積極的に行ない、合計1億ドル(約120億円)の資金を用意していることも明らかにされた。Apolloの本格的な離陸は、もうまもなくだ(年内にβ版リリースと言われている)。



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