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【INTERVIEW】ペンタックス『K100D』開発陣に聞く(前編)

2006年08月18日 19時12分更新

文● インタビュー/構成 小林 伸

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K100Dの開発は約2年前の2004年夏に始まった。「開発当初から手ぶれ補正機構の搭載は予定されていた」と畳家氏は話す。

畳家氏
畳家久志氏。商品企画のほか、広報活動も一部担当している
[畳家] K100Dは、2004年の夏ごろにペンタックスのロードマップに加わりました。チーム編成して、スペックを決めたり、設計からどういった要素を搭載できるか、まとめ始めたのがこの時期になります。手ぶれ補正機構の搭載はスタート時から入っていました。実は、画素数やカメラの基本スペックはあとからです。(20年以上続けてきた)手ぶれ補正の要素開発が実使用段階に入ったというのがそもそものスタートでした。
[――] 磁力を利用して、CCDモジュールを動かしているそうですが、K100Dの本体の電源を切ると、中でカタカタと動くんですよね。これが面白いと思いました。
[畳家] われわれとしては積極的にはアピールしていないのですが、撮影時にCCDの撮像面は磁力で中に浮いているんです。こう話すと「そんな不安定な状態で微妙なピントが合わせられるのか」という不安の声も出てくるのですが、前後方向は3点の支持ボールを使って、ピント位置が絶対に動かないように規制していますので、大丈夫です。CCDのモジュールは、この3点で前後のプレートに挟まれており、平面を滑るという動きをします。


細川氏
SR機構の仕組みを図で解説する細川氏
[細川] これがSR機構の略図になるんですが、全体は3つの部分で構成されています(前ページの精密イラストを参照)。3枚のプレートのうち中央にある“センタープレート”に撮像素子(CCD)が載っていて、これが永久磁石を載せたフロントとリアの2枚のプレートに挟まれています。センタープレートのコイルに電気を通すと、直角方向に力が働き、その力で撮像面が動くのです。このとき、撮像素子のポジションを一定に保つのが位置センサーの役割で、横方向の検出用に1個、縦方向の検出用に2個搭載しています。縦方向に2個あるのは、プレートが回転していないかを確認するためです。
[――] 回転していないかを確認するというのは……?
[細川] センタープレートを常に水平に保つための制御です。センタープレートにガイドレールなどはなく、ちょうど2枚の紙を重ねて滑らせるように自由に動くので、回転してしまう場合があるんですね。
[畳家] 他社製品では、ガイドレールを設けて、それに沿って撮像面を動かす手法を採っています。これは制御するうえでは「垂直に動くよ、水平に動くよ」という部分だけを見ればいいので、非常に簡単です。しかし、ガイドを設けるということは、シャフトや軸受けといったメカが必要であるということも意味します。メカを動かすためにはわずかでも遊びを作らないといけないのですが、こういった遊びはぶれの原因になったり、制御の誤差につながる可能性があります。また、摩擦が生じるので、動き始めのスピードが出にくくなりますし、温度が変われば滑りやすさも変わってくるでしょう。

このようにメカが介在することで「理想的な制御を行ないたいんだけれども、しきれない場合が出てくる」わけです。こういったジレンマを避けるためにわれわれは、メカを一切排除して「ガイドも何もない」「真ん中に居続けるためにすら電気を流さないといけない」、その代りに「自由自在に動ける」、そんな仕組みを考え出したわけです。


SRユニット センタープレート
手ぶれ補正ユニットの写真(左)。CCDを載せたセンタープレート(右)の4隅には駆動用のコイルが装備されている。このうち下側の2つと右上の1つには位置センサーが設けられている
[――] 磁力を使うメリットがそこにあるというわけですね。
[畳家] 磁力を使うこと最大の理由は、撮像面を理想通りに動かせるということです。そのぶん消費電力は高くなってしまうのですが、電気を流す時間を短くすることで、バッテリー寿命の低下を防ぐようにしています。


ペンタックスのDAレンズは、当初から手ぶれ補正を念頭に入れていた

上中氏
カメラを手に取り、分かりやすく手ぶれ補正の仕組みを説明してくれた上中氏
[――] SRの仕組みを実現するうえで、苦労された点は何でしょうか?
[上中] SRユニットに関して言うと、メカ的にはガイドがなくて簡単な構成ですが、エレキ的には複雑な処理が必要になるんです。回転制御の話が出ましたが、3つのセンサーを利用してモジュールの位置を検出し、傾けないように制御していく、これを応答性を損なわず、実際のぶれに追従させていくというのは大変でした。
[――] 撮像面は光軸に対して垂直に動くわけですが、カメラを構えた際には、上下左右の揺れ以外にも前後に動くようなアオリ方向のぶれも生じると思います。こういったぶれにも対応できるのですか?
[上中] 手ぶれの量はジャイロセンサーで検出しているのですが、このセンサーは上下左右の平行移動の量を検出することはできません。実際は回転方向の角速度を検出しています。つまり手ぶれは回転方向の成分によるものが補正の対象となります。傾いた角度とレンズの焦点距離に合った補正を撮像面の上下方向の移動により行なうことになります。平行移動の手ぶれは例えば、遠景であれば、像はほとんど動かないわけですから、補正を行なわなくていいわけです。
[――] レンズの収差は中央に比べて、周辺のほうが多く発生するわけですが、撮像面を動かすことによる問題は生じないのでしょうか?
[上中] 問題ありません。レンズには“イメージサークル”(レンズが撮像面で結像する範囲)というものがありますが、実際のレンズは画質を落とさないよう、撮像素子のサイズより広い範囲に対応できる設計が行なわれていますから。
[畳家] 実はそこが味噌で、デジタルカメラ専用レンズと言いながら、ペンタックスのDAレンズは手ぶれ補正機構の搭載を見越して、APS-Cサイズよりも広めにイメージサークルを確保しているんです。35mmフルサイズのイメージサークルより狭い、DAレンズでもすべて大丈夫です。


小型のレンズにも対応
K100Dと同時に発売された広角21mmのパンケーキレンズ『smc PENTAX-DA 21 mm F3.2AL Limited』。こういった小型軽量のレンズも手ぶれ補正対応にできる点はK100Dの魅力
[――] レンズ内に補正機構を内蔵するアプローチのメーカーもありますが、画質面では、手ぶれ補正機構をレンズに内蔵するよりも本体に内蔵した方が、有利であるという認識でしょうか?
[上中] これは最終的に「絵としてどうか」という話になるでしょう。レンズに補正機構を内蔵する場合、レンズ本体の大きさの制約から補正レンズを動かせる範囲に制限が出るケースが多いので、補正レンズをあまり動かさずに像面で効果的に結像できる設計にしなければならなくなります。そうなるとレンズの味をしっかり出せるようなレンズの設計がかなり難しくなる面はあると思います。その点ボディー内蔵型では結像する撮像面を直接動かしますので、そういった点もクリアーできると考えます。また、パンケーキ型レンズのような小型軽量を追求したレンズには有利です。過去のペンタックスのレンズ資産を生かすという意味でボディー内蔵型の優位性を見出しています。


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