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非球面/蛍石/回折格子素子レンズの効果が分かった!!――レンズ技術に焦点を当てた“キヤノン技術セミナー”開催

2006年06月15日 22時38分更新

文● 編集部 佐久間康仁

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キヤノン(株)とキヤノンマーケティングジャパン(株)は15日、東京・品川のCANON S TOWER(キヤノンSタワー)にプレス関係者を集め、“第4回 キヤノン技術セミナー”を開催した。これは2004年12月から半年に1回程度のペースで行なっている、プレス関係者向けに正しい専門技術・知識をレクチャーするセミナーイベント。今回は同社のデジタルカメラ/デジタルビデオカメラの画質を大きく左右するレンズ技術について、レンズの基本的な焦点合わせの構造から非球面レンズ/蛍石レンズ/回折格子素子(DO)レンズなどの効果まで、レンズにおける“高画質化”技術を、キヤノンのイメージコミュニケーション事業本部 光学技術統括センター光学技術企画部部長の小山剛史(こやまたけし)氏が説明した。

掲載当初、キヤノンマーケティングジャパン(株)の名称を誤って記載しておりました。お詫びして訂正いたします。(2006年6月16日)
小山剛史氏
キヤノンのイメージコミュニケーション事業本部 光学技術統括センター光学技術企画部部長の小山剛史氏

今回のセミナーで解説された主なポイントは、

  • 非球面レンズの構造と効果
  • 色にじみの補正技術と蛍石レンズの効果
  • レンズコーティングの効果
  • 手ぶれ補正の仕組みと概要

の4点。特に非球面レンズの構造や、色にじみが起こる原因と蛍石レンズ/回折光学素子レンズの効果については熱のこもった講義が1時間超に渡って繰り広げられた。



光を正しく1点に集光させる非球面レンズ

球面収差を抑える非球面レンズの構造
球面収差を抑える非球面レンズの構造

球体の一部を切り出したような構造の、片面が球面、もう片面が平面の一般的な凸レンズの場合、平行な光がレンズに当たると中央付近と辺縁部で屈折した光の集まる場所がズレる。これを“球面収差”と呼ぶ。一般的なカメラのレンズでは、この球面収差を抑えるために、凹レンズなど複数枚のレンズを組み合わせている。



球面レンズによる球面収差 非球面レンズによる焦点の一致化
球面レンズによる球面収差非球面レンズによる焦点の一致化
球面レンズと非球面レンズのにじみの違い

“非球面レンズ”は、凸側(もしくは凹側)の中央部と辺縁部で異なる曲面を組み合わせた構造になっており、これによって光を1点に集約できるという特徴をもつ。特に夜の街を彩るイルミネーションなど、コントラストの高い点光源を写した場合、従来の球面レンズと比べるとその鮮明さに大きな違いが出るという。また、レンズの総枚数の削減にも効果があり、コンパクトカメラではレンズ長の短小化、本体の小型軽量化のメリットが得られる。

非球面レンズによるレンズ枚数の削減効果
非球面レンズによるレンズ枚数の削減効果

キヤノンでは1971年から“精密非球面レンズ”の開発を始めており、製造方式はガラス素材を型に流し込む“GMo(ガラスモールド非球面レンズ)”が一般的に採用されている。このほかに、樹脂を原料とした“PMo(プラスチックモールド非球面レンズ)”(量産が可能だが、ガラスに比べて光の屈折率に限界がある)、非球面に成形した樹脂をガラスレンズに貼り付ける“レプリカ非球面レンズ”(コンパクトデジタルカメラやデジタルビデオカメラには非採用、一部EFレンズに採用)、1枚のガラスを研磨して作り出す“研磨非球面レンズ”(量産が難しく高コスト)という方式もあり、同社の一眼レフカメラ向けの高級レンズでは研磨非球面レンズを採用したモデルもあるとのこと。

掲載当初、レプリカ非球面レンズをキヤノンでは非採用と記載しましたが、その後キヤノンより「EFレンズの一部、具体的には『EF24-105mm F4L USM』などに採用している」との訂正がありましたので、本文を修正しました。(2006年6月16日)
ガラス素材の吟味による屈折率の改善
ガラス素材の吟味による屈折率の改善。楕円形の部分がガラス素材の特性範囲


RGB各色で焦点位置にずれ!
それを抑える蛍石レンズ/UDレンズ

色収差の原理
色収差が発生する原理

白いシャツに光が当たった写真をよく見ると、輪郭部に青や赤の本来ない色がにじんでみることがある。この現象を“色収差”と呼ぶ。色収差は光の波長の違い(プリズムで分光した虹の7色のうち赤に近いほど波長が長く、紫に近いほど波長が短い)によるレンズの屈折率の違いが原因だ。具体的には波長の長い光(RGBではR)ほど遠くで焦点が合う。



色収差を抑える仕組み 蛍石
色収差を抑える仕組み蛍石。左が原石で、これを粉砕・再結晶化したのが中央の人口結晶。これを切断、研磨していき左手前のレンズに仕上げる

蛍石レンズやUD(超低分散)レンズと呼ばれるレンズはこの色収差を減らすもので、蛍石レンズは赤に近い長波長成分のずれを特に減らす効果がある。

蛍石は、不純物を含む天然の結晶に紫外線を当てると蛍光する特性からその名が付けられた鉱物で、キヤノンではこれを粉砕、再結晶化して蛍石の純粋結晶を作り、加工・研磨して蛍石レンズを作っている。一方、UDレンズ/スーパーUDレンズはガラス素材のうち分散製が高く屈折率の低い成分(蛍石に近い特性)を材料に作ったガラスレンズのこと。

ちなみに、不純物を除いた純粋結晶では紫外線を当てても蛍光はしない。また、小山氏が実際に暗室で原石に紫外線を当てて蛍光反応を試そうとしたところ、蛍石よりも自分の着ているワイシャツ(蛍光剤が含まれる)のほうが強く反応して光ってしまい、つまらなかったとも語った。

ガラス素材とUDレンズ、蛍石の特性の違い
一般的なガラス素材とUDレンズ、蛍石の特性の違い

さらに2000年から同社が開発を始めた“回折光学素子(DO)レンズ”は、光の回折現象を利用して色収差を抑える効果がある。スリットの間を通過した光がスリットの影に回り込むように曲がる回折現象を利用したレンズ(回折光学素子レンズ)を通過した光は、RGBの焦点距離が通常の屈折レンズとは逆転して、RGBのR(波長が長い光)が一番手前で、B(波長の短い光)が一番遠くで焦点が合う。この現象を利用して、通常の屈折光学素子レンズの表面に回折光学素子レンズを形成したハイブリッドレンズを使うと、RGBすべてがほぼ同一の距離で集光する。

回折光学素子レンズの仕組みとメリット レンズ枚数の削減やレンズ長の短小化につながる
回折光学素子レンズの仕組みとメリット回折光学素子レンズを使うことで、レンズ枚数の削減やレンズ長の短小化につながるという

このDOレンズは現在同社の一眼レフデジタルカメラ向けに2本のレンズに採用されている。EFレンズのうち“L(Luxury)レンズ”に赤いリングを付けているのに対し、DOレンズ採用モデルは緑のリングで特徴付けているとのこと。

掲載当初、UDレンズを採用したレンズに赤いリングを付けているとの記述がありましたが、誤りでした。お詫びして訂正いたします。(2006年6月16日)

手ぶれ補正の仕組みの違い
手ぶれ補正の仕組みの違い

このほか、レンズコーティングはガラス表面の反射を抑えて、光の透過率を上げる効果が得られること、そのコーティングが生まれたのは偶然からで、レンズの表面が“焼けた(酸化した)”状態になると透過特性が上がることに気づいてわざと膜を蒸着する技術が生み出されたこと。同社の光学式手ぶれ補正では、“可変式頂角プリズム(VAP)”と“レンズシフト式”の2つの方式を採用しており、VAPは蛇腹のような構造のプリズムが角度を変えることで光軸を傾けるのに対し、レンズシフト式は平行移動するレンズを本体の傾き/移動距離に合わせて可動させ、光軸をずらしている、という違いがあること、などが説明された。



VAPの仕組み レンズシフト式の仕組み
VAPの仕組み。このようにプリズムに角度が付けられるレンズシフト式の仕組み。中央のレンズが平行移動できる
手ぶれ補正の仕組みと歴史
手ぶれ補正の仕組みと歴史

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