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絶対に盗聴されない究極の暗号システム“量子暗号”は、5年以内に実用化するか?

2006年05月12日 19時00分更新

文● 編集部 小林久

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三菱電機(株)、日本電気(株)(NEC)、東京大学生産技術研究所は12日、都内で記者会見を開催し、量子暗号化システムの相互接続実験に国内で初めて成功したと発表した。

出席者
会見風景。左からNECの國尾氏、東大生研前教授の今井氏、三菱電機の九間氏

光子の量子状態媒体として、データを運ぶ“量子暗号”は、盗聴されたことが必ず検出できる、究極の暗号技術として実用化が期待されている。光子は、光の粒の最小単位(素粒子)であり、量子力学の理論では、素粒子の観測は、量子状態にまったく変化を与えずにできないとされている。つまり、経路の途中で光子の観測(=盗聴)が行なわれると、その量子状態に変化が起きてしまい、情報の読み出しができなくなる(=途中で盗聴が行なわれたことが確実に分かる)仕組みである。

現在一般的に用いられている暗号化技術(現代暗号)では、データに数学的な処理を施して、見た目では意味の分からない文字列を生成する。安全性の根拠となっているのは、その解読のために膨大な計算時間が必要であることで、今より高度な処理性能を持ったコンピューターが登場すれば、短時間で元のデータにたどり付けるようになる。量子暗号システムはこれとは根本的に異なる発想から生まれた暗号化技術となる。

今回の発表は、2001年~今年3月まで行なわれた、情報通信研究機構(NICT)の委託研究“量子暗号技術の研究開発”プロジェクトで、三菱電機とNECが別々に開発した量子暗号システムを相互に接続し、その安全性の評価を東大生研が行なったもの。実験はNICTが有する研究開発テストベッドネットワークJGN2秋葉原アクセスポイントで行なわれた。

図1
図1 左下のPC1と右下のPC3で、K3という暗号鍵を共有する。図中青の実線は通常のネットワーク、二重線は光ファイバーとなる

三菱電機とNECが開発したシステムは、利用する光学機器の仕様が若干異なるが、基本的に光ファイバーを利用して光子を連続的にやり取りし、鍵の情報を保つしくみとなっている。それぞれのシステムは2点間で閉じた通信を行なうものだが、今回は図1のようにそれぞれのシステムを中継するセンターを置き、3者間で共通の鍵を利用できるようにした。

図中の装置A-B間(三菱電機製)と装置C-D間(NEC製)の通信は、量子暗号を用いて設定した鍵を共有する(それぞれK1とK2)。装置Aにつながったパソコン(PC1)と装置Dにつながったパソコン(PC3)で通信を行なう際には、まずセンター内のパソコン(PC2)が現代暗号の仕組みで生成した鍵(K3)を生成し、K1とK2で暗号化したうえ、PC1とPC3に送信する。PC1とPC3は有線LANなどを利用して暗号化したデータを送り、K3の鍵を使って暗号化と複号化行なう。

K3は現代暗号の鍵だが、量子暗号のシステムを使って配信されるため、センターの安全性が保証されれば、量子暗号と同等のセキュリティーが得られる。現在の技術水準では、光子の伝送損失や受信時の雑音の影響により、量子暗号システムを利用できるのは最大で100km程度の区間となるが、センターを中継点として利用すれば、通信距離を倍に増やせるようになる。安全性を保つことが重要となるが、中継点(センター)の数を増やせば、もちろんそれ以上の距離で通信を行なえるようになる。

実験機材
実験機材の外観
実験機材 実験機材
三菱の量子暗号システムNECのシステム。設置場所は1地点だが、20kmぶんの光ファイバーを経由している
NICT 量子暗号の現状
NICTのプロジェクト概要量子暗号技術の研究開発状況。インターネットの原形となったARPAnetの開発で知られる、米国のDARPAなども取り組んでいる

会見では、三菱電機常務執行役開発本部長の九間和生(きゅうま かずお)氏、NEC執行役員兼中央研究所長の國尾武光(くにお たけみつ)氏、東京大学生産技術研究所前教授の今井秀樹(いまい ひでき)氏などが出席した。

会見の中で、國尾氏は「(量子暗号が実用化するためには)いろいろなシステムにつながる必要があると考え、実験の提案を行なった」と実験の経緯を説明した。また、九間氏は「これまでの5年で基礎研究の段階が終わり、これからの5年で実用化と複数の暗号システムのインターフェースを確立していくフェーズに入る」と述べた。今井氏は「量子暗号の問題点として、糸電話である(通信が1対1でしか行なえず、距離も制限される)という問題があったが、今回の実験できわめて高いセキュリティーのネットワークが実現できた」と、実験の成果を印象づけた。

デモ風景 今後のネットワーク展開
Beckyで、通常のメールを暗号化して送信するデモ量子暗号用のネットワークと既存のネットワークの連携を図っていく

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