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【特別企画】韓国市民記者ビジネスを追うVol.2――SBSソウル放送

2006年01月30日 16時45分更新

文● 編集部 伊藤咲子

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テレビ局として記事はとことん確認をとって掲載

[編集部] 現在のUポーターの登録数と、世代を教えてください
[キム氏] 現在約2000人が登録しており、世代は幅広いのですが、やはり20~30歳代が中心です。40~50歳代の活躍も目覚しいものがありますし、なかには中学生もいます。
[編集部] テレビ局のレポーターやアナウンサーに対する憧れを抱いている視聴者もいると思いますが、Uポーターはどのような気持ちで取材活動を行なっているのでしょうか?
[キム氏] TV局のレポーターを真似てあちこちに取材に行きたいというUポーターもごく一部にはいますが、自分の身の回りのことを皆に教えたいという方がほとんどですね。
[編集部] Uポーターの編集部は現在何人ですか。
[キム氏] 8人です。
[編集部] Uポーターに対して編集部からのメッセージはどういったところで発信していますか。
[キム氏] 基本的にオンラインですね。Uポーターだけがアクセスできる専用サイトがありまして、そこに編集部からの指示を掲載しています。Uポーターからの質問に答える掲示板もあります。あとは、Uポーター制度の運営者によるブログがあり、そこにも情報を載せています。

このように基本的にはオンライン上でのやり取りですが、必要があれば電話もします。年に2回、Uポーターの集いがあります。12月22日にも、SBSの大会議室に100人のUポーターを集めて今年一番頑張ったUポーターを表彰しましたし、忘年会のようなイベントを行ないました。
[編集部] 事実関係の確認など、記事の検証はどのように行なっていますか?
[キム氏] 我々はテレビ局なので、検証にはより力を入れています。とことん確認をとってからテレビに出しています。

2000人が登録されているといっても、熱心に投稿を送ってくるのはその中の10%くらいです。写真を含めて、1日20~30件しか記事は送られてきません。それを8人で全部読んで、検証をするというのはそれほど無理があるとこではないでしょう。その記事が信頼に値するかどうか、私を含め記者の経験があるスタッフは経験と照らし合わせつつ、少しでも不自然に思った場合は投稿者にメールか電話で問い合わせます。さらに、現場に行って検証する必要がある場合、内容をもっと濃くしたい場合などは、我々が取材します。

いずれにしても、Uポーターとコミュニケーションをとりながら進めるのが重要です。これはUポーターに限った話ではないと思いますが、市民記者から送られてくる記事を検証する場合、その人自体が信じられるかどうかというのが大きなポイントなんです。なかには、他の市民記者の投稿をみて、あたかもその事例を自分が発見したかのようにして投稿する人もいて、その人には脱会していただきました。一部の方には、ネットやコミュニケーションをとって、直接お会いしたりもしています。“この人だったら大丈夫”という市民記者を増やすことが課題です。
Uポーター発のニュース3
[Uポーター発のニュース2]これもUporter NEWSのキャプチャーで、「自らすすんで入隊する芸能人が増えている」という記事。韓国は徴兵制を導入しているので、入隊関連は重要な時事ネタなのだ
[編集部] 媒体間で優秀な市民記者の取り合いになりませんか。
[キム氏] 市民記者を運営者側がスカウトするような、そこまで過熱した状況にはなっていません。理由は、誰でも好きな市民記者制度に自由に加入して、自由に記事を投稿できる状況だからです。例えば、オーマイニュースの市民記者がSBSの市民記者をやっていたり、MBC(韓国文化放送)の市民記者をやっていたり……あちこちで書いている市民記者も多いですね。基本的には、編集部との相性であるとか、採用率であるとかによって媒体を選ぶ傾向が強いと思います。

市民記者の告発で改善した事例も

[編集部] Uポーターが得意としている取材分野を教えてください。
[キム氏] Uポーターが投稿できる記事の分野というのは、別段特定していません。しかし、SBSでは“市民記者は職業記者とは違う”ということを強調していまして、自分の身の回りのことを市民の目線で見て書いた記事がいいのではないかと考えています。

市民記者はとにかく人数が多いので、職業記者の目に付かないことや、自分の身の回りのことを書いているうちに、職業記者では考えられないような発見もあります。
Uポーター発のニュース2
[Uポーター発のニュース3]。テレビ番組のキャプチャー。“冬休み子供を連れて行くのにぴったりの場所”として展示会を紹介している
[編集部] 日本のニュース番組では、不意に発生した災害の報道などで市民が撮影した映像が使われることがありますが、報道のコーナーで市民が撮影した身の回りの情報はなかなか目にしません。そこで、Uポーターの生活密着型の投稿にはどんなものがあるのか教えてください。
[キム氏] 日本とは文化的な差があると思います。韓国は“サイワールド(※2)”の成功に象徴されるよう、自分の日常や考え方をさらけ出すことに対してあまり抵抗を抱いていません。Uポーターもサイワールドと同じで、ブログに自分の日常や考えを書き綴り、読者がコメントを返してくれます。

Uポーター制度は、ブログ開設サービスが土台となっているので、ペットや家族の話題であるとか、サイワールドの“ミニホムピィ”とあまり変わらない使い方をしている方がほとんどです。そして時々皆に教えてあげたい話題を見つけると、「送信」ボタンをクリックして編集部に投稿します。内容は、社会面や文化面に掲載されるような、「最近はインターネットの書店が人気で、営業が立ち行かなくなった書店が続々潰れているが、こんな個性的な古本屋がある」とか、ルミナリエの見どころや観光の穴場であるとか……職業記者とは違った、素朴な味わいのある記事が多いですね。

このように自分の行動範囲の中で見つけた出来事が記事として送られてくるのですが、なかには告発系の投稿もあります。例えば先日、「自分がよくクルマを運転している地域で違法駐車が絶えない」という記事が写真とともに投稿されました。役所は、この投稿を見て違法駐車を撤去しました。この一件はテレビでも紹介しています。記事を投稿した市民記者はその後、実際に撤去されたかどうか再び現場で写真を撮り、「自分が書いた記事が社会の役に立った。本当にやりがいを感じる」という記事を再び投稿してくれました。

我々は、市民記者によく「職業記者の真似はするな。あくまでも市民の目線で見たこと感じたことを書いてください」とお願いしています。
※2 韓国SKコミュニケーションズ社によるソーシャルネットワークサービス。12月末日現在で1700万人の登録があり、韓国国民の3分の1が登録している。ユーザーがプロフィールを登録してミニホームページ“ミニホムピィ”を作成し、日記/フォトアルバムなどを利用して友人や知人とのネットワークを構築するのが特徴

[編集部] なかには偏った主張や、反社会的な投稿をする市民記者もいるのではないでしょうか?
[キム氏] 極端な政治的な批判を仕掛けてくる方も稀にいますが、我々は1つの方向に偏った意見は採用しないようにしています。
[編集部] いままで伺った編集部の規模と編集フローから推測するに、速報性が高いネタを扱うのは難しいと思うのですが、いかがですか。
[キム氏] 市民記者というのは、職業記者に比べて人数が非常に多く、大きな事件の現場に偶然居合わせることもあります。例えば、ロンドン同時多発テロ(2005年7月)や、インド洋スマトラ沖大地震とそれに伴う津波(2004年12月)でも市民記者が送ってくれた投稿を、テレビでも使用しました。従って、ニュースの速報性という意味でも、市民記者は大きな役割を果たしていると言えるのではないでしょうか。

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