シャープ(株)は11日、東京・赤坂見附の赤坂プリンスホテルにプレス関係者を集め、今年の経営戦略などを紹介する年頭記者会見を開催した。昨年までと同様に大阪会場と映像を結んでの2元中継で行なわれ、会場には取締役社長の町田勝彦氏、取締役副社長 経営管理統括の佐治 寛氏、専務取締役 技術統括の太田賢治氏らが出席した。会見で町田氏は、液晶テレビ、携帯電話とシステム液晶、太陽電池の3つの柱となる事業について、国内と世界での需要見通しやそれに対応する生産能力の増強(投資)、売り上げ見込みなどを説明した。
40インチクラスのガラス基板が8枚取れるという、“第8世代マザーガラス”(2160×2400mm)を前に記念撮影を行なう取締役社長の町田勝彦氏 |
最初に町田社長は、「今年の景気は堅調に推移すると見ている」と切り出し、好調な液晶テレビ事業が牽引役となって2006年も明るい兆しがあることをアピールした。その背景として、
- 地上デジタル放送の視聴可能世帯が、2006年末までに日本全国で8割を超えること
- 1994~1996年の猛暑/特需などから家電製品の買い替え時期にあたり、ビジネスチャンスが到来していること
などを挙げ、グローバル(全世界)市場で“オンリーワン戦略”を推進し、(特に液晶テレビや液晶パネルの外販などで)他社に優位な戦略を引き続き進めていくと宣言した。
2006年のクリスマスは
全世界で液晶テレビ“AQUOS”を!!
シャープ予測による、世界全体のテレビ需要 |
事業別の具体的な戦略としては、液晶テレビについて
- 国内のテレビ市場全体は2005年度(同社予測)が832万台、2006年度(同社予測、以下同)は867万台
- このうち液晶テレビは420万台(2005年度)から570万台(2006年度)へ成長
- 世界全体で見るとテレビ市場は1億6000万台(2005年度)から1億7200万台(2006年度)へ
- 液晶ディスプレーはそのうち2000万台(2005年度)から3600万台(2006年度)へと大きく飛躍する
- シャープ単体の販売台数も、2005年度の400万台(予測、前年比47.1%増)から、2006年度は600万台(同50.0%増)へ
と強気の見通しを示した。それに対応するべく同社の生産体制の増強プランも
- 30インチクラス向けマザーガラスを生産する“亀山第1工場”を増強
- 2005年4月時点で月産4万5000枚⇒2005年10月時点では同5万1000枚⇒これを今年3月に月産6万枚に強化(150億円を投資)
- 40~50インチクラス向けマザーガラス(第8世代、2160×2400mm)を生産する“亀山第2工場”を、当初予定の今年10月から前倒しで運用開始
- インクジェット方式のカラーフィルター成型を始めとする新・生産プロセスの導入、材料の刷新、などでPDP(プラズマディスプレーパネル)に負けないコスト競争力を実現
さらに、第2工場の第2期展開も当初予定の2007年末から2007年3月末(2006年度中)に前倒しし、パネルの生産能力を初期の月産1万5000枚から月産3万枚に増強
などが紹介された。こうした設備投資により、2008年度中には1日あたり3000枚、月産9万枚のマザーガラスを生産し、32インチ換算で年間2000万台のカラー液晶テレビを製造できる体制にしていく、と目標を掲げた。
37インチ以上のハイビジョンタイプの場合、2006年に液晶テレビがPDPに追いつき、2007年以降は差を広げていくと予測 | 37インチ以上の全タイプではPDPに液晶テレビが追いつくまでもう少し時間がかかり、2008年ごろにPDPを追い抜くと予測している | |
米ディスプレイサーチ(DisplaySearch)社による、PDPと液晶テレビの形態別テレビ需要 |
一方、海外についても具体的な場所は未決定とのことだが、世界5拠点で液晶テレビの組み立て工場を設立し、エリア別の開発体制を整える予定があることを明らかにした。これは、国内で生産したマザーガラス/液晶パネルを現地工場に移送して、その地域に合わせた品質や性能(具体的には発色の好みの違いなどの調整)で組み立てて出荷まで行なう一貫体制を整えるという。こうした体制を作ることで、2006年のクリスマスシーズンには、亀山第2工場のパネルを搭載した液晶テレビ“AQUOS(アクオス)”を全世界で発売したい、と語った。
30インチクラス向けのマザーガラスを生産する亀山第1工場の増強 | 40~50インチクラス向けの大型マザーガラスを生産する亀山第2工場。稼働開始時期と第2期展開の前倒しを宣言! | |
大型液晶パネルの生産体制の拡充 |
なお、一部報道で液晶パネルの外部調達を検討、という話が出たことについても触れ、海外を中心に品不足(町田氏は“弾不足”と表現)が続いたため、海外向けにパネルの購入を検討したのは事実だが、現在も品質や性能を見極めている(AQUOSブランドとして販売するに足るか)状況であり、実際に(外部調達した液晶パネルを)使った製品を出荷したことはない、と状況を説明した。
携帯電話機は最後発から国内シェア1位へ
次に、同社の液晶パネル製造技術を応用した携帯電話機の事業について、「最後発で参入した携帯電話だが、昨年度の上半期では国内シェアで第1位を獲得した。今後も事業拡大を目指していく」とこちらも強気の姿勢を見せた。
携帯電話機のディスプレーをアモルファス液晶からシステム液晶に切り替えていくべく、改良・改善を重ねているという |
国内では(株)エヌ・ティ・ティ・ドコモ、ボーダフォン(株)に続いて、KDDI(株)の“au”ブランドにも端末を投入し、国内3キャリアーへの供給体制が確立したと説明。一方、海外では欧州を中心に3G(第3世代サービス)への移行に拍車がかかっているため、海外は3Gに集中して、その地域にフィットした“オンリーワン商品”の創出を行なうと語った。これらの取り組みによって、2006年度は前年比18.2%増の1300万台(18.2%増)の販売を目標に設定。
一方、携帯電話に搭載される表示デバイスとして、同社独自のシステム液晶(表示用デバイスをガラス基板上に形成する技術)“CGシリコン液晶”が、全世界的な携帯電話機のカラー表示化によって大きなビジネスチャンス到来になると豪語。現在のシステム液晶は、アナログインターフェースで表示用の周辺回路(モノシリックドライバ)が占める面積も少なくないが、これをデジタルインターフェースに変更し、モノシリックドライバを小型化することで、現在一般的に使われている“アモルファス液晶”パネルと同じサイズ/インターフェースを実現し、システム液晶(CGシリコン液晶)の導入拡大を目指すと語った。これにより、システム液晶分野の連結売り上げは2005年度の2200億円から2006年度は2600億円(18.2%増)に、液晶事業全体では8300億円(2005年度)から9800億円(2006年度)に伸びるという見通しを示した。
2010年から10年ごとに半減!?
発電コストの低減が“太陽電池”普及のカギ
最後に太陽電池事業についても説明があった。同社の独自予測では2005年度の全世界の需要が1000MW、2006年度は1250MWになると見込まれ、環境問題への意識の高さなどから引き続き需要の伸びが期待できることを示した。
太陽電池の需要と発電コストの推移(目標値) |
ただ、各家庭に普及させるには太陽電池パネル本体や設置にかかるコストの低減と、発電効率の向上によって、トータルで発電コストを低減することが重要と結論付けた。具体的には、
- 現在の発電コスト
- 47円/kWh程度
- 2010年の目標発電コスト
- 23円/kWh(一般住宅電力程度)
- 2020年の目標発電コスト
- 14円/kWh(業務用電力程度)
- 2030年の目標発電コスト
- 7円/kWh(火力発電と同程度)
と段階的にコストの低減を目指すと説明。同時に葛城工場の生産体制も年々強化しており、2005年11月には年間500MW分となっている。今後は国(経済産業省資源エネルギー庁)などからの補助金制度が徐々に終了していくが、「自立した市場になりつつある」と手ごたえを感じていることを示し、材料の改良などで屋根材や建材と一体化して住宅向けの普及拡大を目指すと説明した。販売目標は2005年度予測の1500億円から、2006年度は2000億円(33.3%増)としている。
最後に全社の売り上げ目標(連結売上高)を、「過去最高の3兆円を目指す」と強気の姿勢を見せ、そのための設備投資として合計2750億円(液晶関係で1900億円強)を計上すると語った。会見後の記者からのQ&Aでは、「日本では確かに液晶事業が好調だが、海外でソニーなどに追い抜かれている。これにどう対抗するのか?」という質問が相次いだが、町田氏は、
- 注文に対して生産が追いつかなかったのが原因
- 国内や外販にパネルを優先的に回したため、特に海外市場で弾不足が続いた
- 今後は生産体制を早めに拡充して対応できる見込み
- 最後は(生産)規模が大きく技術力のあるところが勝つと思う。フルスペック液晶パネルを作れるメーカーはまだ多くない
と最後まで自信を見せた。