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緊急インタビュー 新会社CEO向井宏之氏に聞く IBM PCはこうなる!《完全版》

2005年03月11日 19時38分更新

文● 月刊アスキー編集部・中西

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本記事は、1月18日に発売された月刊アスキー2月号に掲載している同記事を転載したものです。
向井理事日本アイ・ビー・エム株式会社 理事 PC&プリンティング事業事業部長 向井 宏之(むかい ひろゆき)氏。1977年に日本IBMへ入社。営業職を経て、IBM AP(アジアパシフィック)やIBM EMEA(欧州本社)へ出向。2000年に理事 流通システム事業部長に就任。2004年より現職。2005年第2四半期に設立される、新Lenovo日本法人のCEOに就任予定

2004年12月8日、IBMはPC部門の売却を発表した。1981年に「IBM The PC」を発売して以降、PCの代名詞として業界をリードしてきた「IBM PC」の看板を下ろす。売却先は、中国最大手メーカーの「Lenovo」(聯想)。そして、いままでに例のない両社の戦略的提携を折り込んだ内容は、多くの人に驚きと関心を持って迎えられた。IBMのPC製品の中心である「ThinkPad」はすべて日本で、神奈川の大和事業所で開発されている。

月刊アスキーでは、そのPC事業売却の渦中の人物である、日本IBM理事 向井宏之PC&プリンティング事業部長へインタビューを行ない、これからIBM PCは、とりわけThinkPadはどうなっていくのかをうかがった。聞き手は月刊アスキー編集主幹の遠藤 諭。

2004年12月末のインタビュー時点では、向井氏の日本法人CEO就任は未発表(発表は2005年1月4日)。

両社が補完しあうことで
強力なPCベンダーになれる

[遠藤] 12月3日にニューヨーク・タイムズが第一報を出して、8日に正式発表されるわけですが、事前にご存知だったんですか?
[向井] スティーブ・ウォード(PC事業トップ。新会社のCEOに就任予定)から、あるタイミングで直接電話があり、こういうことを検討していると聞きました。各国の責任者には、スティーブ自身から連絡が行きました。
[遠藤] それは11月のことでしょうか?
[向井] 時期はちょっと(笑)。ただ、そのときはもちろん決定ではないわけで、可能性という話でした。ただし、まだ一部の限られた人間にしか知らされていませんでした。ウチのメンバーには一切話せない状況で、このケースの場合はこうする、このケースの場合はこうということを考えていました。
[遠藤] まだ選択肢のある状況だったということですか? 最初からLenovoじゃなかったという話もあるようですが、結果的にLenovoになったということですか?
[向井] いや、結果的ではなく、ちゃんと戦略として最適だと判断したということです。
[遠藤] ご家族の反応は?
[向井] 子供たちも何年か海外にいっしょにいたりしたんで、「へぇ、そうだったの」という感じでした。
[遠藤] 中国で仕事するわけではないですからね。ご自身はどうお考えになりましたか?
[向井] いいと思いましたね。これがもし、10年前なら違っていたかもしれません。ですが私自身も仕事でPCの前に4年間は流通業のお客様を担当していたのですが、日本から中国やアジアに出ている流通業のお客様には何度もお会いしていました。そういう経験から、違和感はないですね。もっとも、これだけ大きな市場がありながら、各PCメーカーはまったく入っていないんです。
[遠藤] デルやHPも、中国に出ているじゃないですか。そんなに伸びていないんですか?
[向井] Lenovoがいまトップシェアで、27%のシェアを占めています。日本メーカーも米国のメーカーも、そこまで入っていないんです。
[遠藤] それだけ特殊な市場であると。中国の家電メーカーは、米国などへの輸出もさることながら、まず国内の市場をとったのが大きいと言われています。その理由が「サポートがいい」ことだというんです。私は、2001年に中国取材しているんですが、サポートが良くて中国製品が売れているという現象に「中国人が驚いている」という話を聞きました。中国の商品は売りっぱなしというのが昔は当たり前だったらしい。それを、値段の安さもあるでしょうけどサポートを徹底したと。このあたりは、実際に中国に行ってみないと分からないですよね。

日本は日本の中で
クォリティとバリューを提供していく

[遠藤] Lenovoは、IBMのどこにいちばん魅力に感じたのでしょう?
[向井] 我々のグローバルアクセスしょうね。これは我々が過去何十年もかかって作り上げたものです。
[遠藤] いわゆるグローバル企業と呼ばれる会社というのは、米国がやはり圧倒的に多いですよね。日本が何分の1かで、日本の次がドイツでしょうか? その間もかなり開きがあったと思います。中国は、そこはまだこれから取り組む部分なのは確かですね。
[向井] そして、特にThinkPadのデザインのクオリティ、製品のクオリティは、かなり高い評価をいただいたようです。
[遠藤] 12月8日に正式発表があって、13日に記者向けの説明会をされました。あの説明会の後から、今回の件に対するメディアの見方も変わってきていると思うんですよ。
[向井] その後も進んだ部分があります。いくつかの国での拠点の立ち上げを優先してやっているんですが、どれを利用してどういうものをやるかなどをいま決めています。
[遠藤] その中で日本の位置付けは?
[向井] 1つ間違いなく言えるのは、日本は日本の中で、お客様に対してきっちりやっていくということ。ハイクオリティ、ハイバリュー、グッドサービス、グッドサポートというIBMとして絶対にはずせない部分をこれからも徹底的に追求していくということです。
[遠藤] 例えば、デルは米国ではコンシューマに出てきています。企業向けが飽和してきたのが理由だそうです。HPも、今度は日本でもコンシューマをやっていきますよね。ThinkPadは非常にはっきりしたコンセプトを提供していますが、Lenovoというブランドが入ってくると、そのあたりも変わるのですか? 今後、日本や米国でコンシューマをやるのかどうか、いまはフリーハンドというか、やり得る状態になったのでしょうか?
[向井] ブランディング戦略のすり合わせなどはこれから行なっていきます。まさにスタートしたところなんです。4千数百店あると言われている中国のLenovoストアについて、どの地域でどの商品を展開していくかは、いまから重要になると思うんですよね。いま、まさにそこをつめているところです。
[遠藤] コンシューマも視野に入れながら全体としては動いていくということですよね。
[向井] 企業向けでも大きな液晶がほしいとか、DVDマルチが必須だとかいう話が出てきています。昔のコンシューマと違って、ビジネスユースとコンシューマの近いところが合体しちゃっているんですよ。ですから、大きなサイズの液晶、DVDマルチ、その次に何が出るかは分かりませんが、そういう分野も今後伸びていくかも知れません。
[遠藤] 例えば、地上デジタル放送などがノートPCに載ってくると、ビジネスユーザーもスターバックスでTVを見るようになる。すると、TVの番組表が変わるなんて展開が、私は近いところでは面白いと思うのですが……。モバイル的なところだと、ビジネスもコンシューマも、あんまり変わらなくなっているということですね。
[向井] そう思っています。オフィス・モバイルということ、ワークススタイルを大幅に変更したいという理由で、オフィスの中で持って歩く製品を導入する企業が多いんですよ。その背景には情報の受発信の仕方が全部、PCやネットワークで変わってきているということがあります。そうなると、オフィス・モバイルでPCを持って歩かないと、会議に出られない。けれども、そのまま外に持ち出すかというと、多分そうはしないと思うんです。長時間バッテリーを備えたモバイル用のPCは別に持っているとかですね。IBMが考えている次のThinkPadの世界というのは、結構期待されているんじゃないかと思います。
[遠藤] ちょうど製品を変える時期だった?
[向井] 次のステップということで、Next ThinkPadというか、ThinkPadの次のかたちというのはいつも話していますが、実際に開発するのに半年や1年よりもう少しかかりますから、まだ先ではあります。これはまさに日本が、大和研究所が全部担うわけです。

IBMのPC事業では
できなかった部分に取り組む

[遠藤] 今回のお話は、IBMと中国の会社のことであると同時に、日本IBMという日本にある会社と中国の会社のことでもあるわけですよね。日本にLenovoという会社が、どんなふうに立ち上がるのかはコンピュータ業界だけでなく広く注目を集めると思います。ただ、コンピュータ業界に固有のことがあると思うのですよ。ウチの連中と話をしていて気が付いたのは、Lenovoというブランドはすでに潜在的にカッコいいのではないか? ということなんです。コンピュータの世界は、数が多いのが正しいというルールですよね。だとすると、Lenovoは一夜にしてすでにブランドであると言えます。
[向井] おっしゃるとおりです。新しく誕生する会社も、アジアでは、その瞬間でNo.1になります。成長が止まらず続いている場所ですから、世界でビジネスを拡大していくのは、そんなに時間がかからないと思いますね。
[遠藤] 3年後とかでしょうか?
[向井] いや、もっと早くしたいですね。来年の後半から会社が完全に動き始めて、その瞬間からアジアで1位ですから。その勢いとスピードや経営判断の速さを活かしてその他の地域でも積極的に取り組んでいき、世界の中で拡大していくことを期待しています。
 私は日本法人なので、中国や世界で売れるということで全体のスケールメリットを出し、日本のお客様に対して、先ほどお話ししたハイクオリティー、ハイバリュー、グッド・サポート、グッド・サービスにおいて絶対にNo.1を目指します。日本のお客様に認められるかたちに,できるだけ早く持って行きたいですね。いままでIBMの中ではできなかった部分へ、とりかかりたいと思います。

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