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日本IBMに平均年齢60歳の新撰組参上!――OBを核とした外注部隊で中小企業の販路を拡大

2004年11月19日 22時28分更新

文● B2B事業部 大槻眞美子

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日本アイ・ビー・エム(株)は17日、“IBMシニアプロ コミュニティー”を発足したと発表した。

同社の中で中堅/中小企業向けにサーバーやソフトを核としたビジネスを担当する、ゼネラルビジネス事業部の堀田一芙常務執行役員の発案による、ちょっとほかでは聞いたことがない、画期的な営業システムである。日本独自の戦略であり、外資系企業特有の“なんでも短期で結果を出す”という使命を負ったものではない。

“IBMシニアプロ コミュニティー”とは、その名の通り、シニア世代のプロフェッショナル集団だ。何のプロかと言えば、IT業界全般。業界事情に精通した、すでに所属企業をリタイアした第二の人生を謳歌中のベテランたちが、そのキャリアを生かして日本IBMには属さずにフリーランスのコンサルタントとしてIBM製品のシェア拡大に力を注ぐというもの。それも、日本IBM本体のコンサルティング会社に比べて半分から3分の1程度の安いコストで対応するというから驚きだ。日本IBMに常駐する形式ではなく、基本的に個人あるいは現在の所属企業の一員として“IBMシニアプロ コミュニティー”の命を受ける。

実態としては、11月上旬に約20名の精鋭たちが“IBMシニアプロ コミュニティー”第一期生として終結し、キックオフを済ませたばかりで、活動はこれから。平均年齢は61.6歳だそうで、現在日本IBMの社員としてゼネラルビジネス事業部で活躍中のスタッフの平均年齢40歳に比べると、親子ほどの差がある。知識やスキルだけでなく、この年の功にも大いに期待がかかるのは言うまでもない。

メンバーは一般公募はせず、コネクションを通して慎重に人選したそうだ。今後もむやみにメンバーを増やすことはしない。条件は、IBMはもちろん、それに限らずIT系企業でシステム部門の責任者や役員、経営者、コンサルタント等の経験者、さらには中小企業診断士などの公的資格保持者などとなかなかハードルが高い。しかも、フリーランスでありながら、“IBMシニアプロ コミュニティー”の仕事を最優先で遂行する熱意のある人材を選んだという。世話人には、“IBMシニアプロ コミュニティー”の活躍の場となるゼネラルビジネス部担当取締役をかつて務めた竹内雄司氏(60歳)があたる。同氏は、日本IBMを離れた後、(株)アマダ(金属加工機大手)の副社長、その関連会社(株)アマダメトレックスの代表取締役社長等を歴任し、リタイヤ後もそれまでの経験を生かしてかつての同僚たちと営業代行業の会社(株)ヴェロシティコンサルタンツを経営している。竹内氏は、同日付けで開催された記者会見で「退職後も元気いっぱいの仲間がたくさんいる。まだまだいくつもの“プロジェクトX”を僕らは作れると確信している。“IBMシニアプロ コミュニティー”で元気なOBたちをネットワーク化し、新しいプロジェクトXをやる」と宣言した。

強すぎるがゆえに災いする、中小企業市場でのIBMブランド

“IBMシニアプロ コミュニティー”発足までの経緯は、堀田常務が20004年1月より中小企業をターゲットとするゼネラルビジネス事業部を担当以来、約10ヵ月で300人もの経営者層と面会を重ねて体得した結論だという。

「これまで大手企業ばかりを相手にPCからソフトまでさまざまなIBM商品の営業を担当してきたが、中小企業の皆さんには大手と同じ手法では通用しないと実感した。高いコンサルティング料をいただくのは無理な領域だということ、それと何よりも交渉時に経営者層が出てこられるので、40歳前後の若手では説得しきれない。経営者層の心の襞まで汲み取れるような、人間としての奥の深さがないと」(堀田常務)。

IBMは、日本IBMのみならず、ワールドワイドなレベルで、大手企業に大規模なシステムをバンバン導入させ、成長してきた企業だ。ブランド力が強ければ強いほど、「品質はいいのだろうが、高い、迅速な納期を期待できない、中小を相手にしない」というイメージが先行し、ここ数年力を注いでいる中小企業市場の開拓には苦戦が続く。特に地方では国産メーカーの地域密着型の営業力が幅を利かせ、IBM製品へのリプレースを提案してもなかなか攻略しきれない。

堀田常務がゼネラルビジネス部を担当して以来、中小企業市場攻略のためにまず実施したのが“エコシステム”の構築だ。要するに、いろいろな会社とパートナーシップを組んでバリューチェーンを作り、それぞれの強みを生かしてシェアを広げていこうというもの。日本IBMの直販部隊だけでなく、IBM製品に関連したさまざまなパートナー企業がソフトや周辺機器を提案し、三つ巴、四つ巴でお客様を攻めるのである。中小企業のお客様は、二ーズが多様で、IBMが提示したパッケージでは満足してもらえない場合が多い。納期に関しても丸ごとIBMではスピーディーさに欠ける場合も出る。コストや既存の社内システムを詳細に分析し、さまざまなメーカーの周辺機器やソフトウェアを組み合わせた提案でないと、IBM製品の採用には至らないのである。堀田常務は、SIerをはじめとする数多くの全国各地のパートナー会社とタッグを組んだエコシステムにより、今年は中小企業市場に果敢に切り込んで来た。

今回の“IBMシニアプロ コミュニティー”も、そうしたエコシステムの一環であり、シニアプロのメンバーもパートナー会社と一緒に動き、お客様との契約もシニアプロ個人のコンサルが実を結ぶ形で成約するのが理想だとする。個人ゆえに手薄になりがちなマーケティングの部分やオンデマンドワークプレイスの面を日本IBMがシニアプロに対して支援し、IBM製品のシェア拡大に尽力してもらう。

日本IBMでは、すでに数社を対象にシニアプロを利用した営業活動を計画しており、「IBM製品導入の基本的なメリットの説明やシステム設計の方針提案の部分で、まず、シニアプロが動き、青写真を描いたうえでパートナー会社が動き、成約にもっていく」と竹内氏は言う。今にも動き出しそうな態勢は固まっているようだ。ただ、最後に疑問が残った「現役若手コンサルよりもキャリアを有したシニアたちが、従来の半分から3分の1のコストでコンサルティングを行なえるのだろか」の部分に関しては、「堀田さんからこの話をもらったとき、これだけ思い切ったことをするには、コスト面でもウマミを見せないと意味がない。もう十分働いていらした方々なのだから、報酬面でもそんなにガツガツしないで、IBMのために働いてくれる人を集めたい」と言われたと、竹内氏は笑う。そのあたりを理解してくれた人選ということで、“IBMシニアプロ コミュニティー”の現在のメンバーの7割は、やはり日本IBMのOBとなったという。(株)日本経済新聞社が主催する“働きやすい会社ランキング”で今年トップに輝いた日本IBMだけに、OBたちの志はまさに新撰組そのものに違いない。新撰組の志で、プロジェクトXをもう一度と挑むベテランたちの真価が“IBMシニアプロ コミュニティー”で問われる。

世代交代の煽りをくい、ややもすると最前線から身を追いやられがちなシニア世代が、中小企業市場を舞台にどう暴れるのか、具体的な成果がどう出るのか、興味は尽きない。

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