世界初公開の次世代Flash Player“Maelstrom”の新機能とは!?――“Macromedia Flash Conference 2004”開催
2004年10月22日 21時45分更新
ケビン・リンチ氏のピアノソロ(?)で開幕した“Macromedia Flash Conference 2004” |
幕開けの合図はショパンのエチュード第12番“革命”という力強いピアノ曲だった――マクロメディア(株)は22日、東京・渋谷のセルリアンタワー東急ホテルにコンテンツデベロッパーやプレス関係者を集めて、アニメーション&インタラクティブコンテンツ作成ツール“Macromedia Flash(マクロメディアフラッシュ)シリーズ”のユーザーカンファレンス“Macromedia Flash Conference 2004”を開催した。基調講演では米マクロメディア社の上級副社長(エグゼクティブバイスプレジデント)兼CSO(チーフソフトウェアアーキテクト)のケビン・リンチ(Kevin Lynch)氏が“Breakthroughs(ブレークスルー) - Flashプラットフォームの全容と次世代Flashのプレビュー -”と題する講演を実施。その中で、日本はもちろん世界を通じても社外には初公開という次世代Flash Player“コードネーム:Maelstrom(メイルストローム)”の新機能のデモなどを行ない注目を集めた。
実は自分で弾いていないことを、ピアノの付属端末を持って公開。端末のユーザーインターフェースにFlashが利用されている | “つかみはOK”とばかりに、ガッツポーズ!? のケビン氏 |
リンチ氏は講演の最初に、壇上のグランドピアノに向かって勇壮に革命を演奏して見せた。が、これは実際にリンチ氏が奏でたものではなく、ヤマハ(株)が米国向けに販売している自動演奏ピアノ『Disklavier MarkIV』によるデモンストレーション。Disklavier MarkIVにはMacromedia Flash MXをユーザーインターフェースに用いた専用端末(OSにはLinuxを採用)が付属し、自動演奏したい曲をグラフィカルなメニューから選択できるほか、ログハウスをイメージさせる階層化されたメニューを持つのが特徴。日本や欧州でも、同様の自動演奏ピアノが販売されているが、こちらはPDAタイプの端末が付属し、Javaベースのシンプルなメニューが提供されるのみだという。ヤマハの説明員に聞いたところ、米国ではホームパーティーなどの習慣が広く浸透しており、家族や友人がそろってピアノ演奏を家庭で楽しむというケースではグラフィカルで楽しいメニューが求められるので、市場に合わせて投入したとのこと。
基調講演の後で会場外に展示されたヤマハの自動演奏機能付きグランドピアノ『Disklavier MarkIV』 |
また、現在はヤマハ社内での実験段階だが、Flashを遠隔操作する『Macromedia Flash Communication Server MX』を中継して、有名ピアニストが演奏した打鍵とそっくり同じ内容を遠隔地のピアノに再現することもできるという。ヤマハではピアノ教室のリモート学習に活用できないか検討している。
このようなデモから始まったのは、従来Macormedia Flashコンテンツというと、パソコンの画面の中で完結する派手な演出のアニメーション、あるいはマウスやキー操作に応じて画面が変化するインタラクティブなリッチウェブコンテンツを作るものという固定観念があった。これを打ち破り、会場に集まったクリエイターたちの才能を刺激してリアルメディアとの連携など、新たな可能性=Breakthroughsを見出してほしいというメッセージを込めたものだろう。
VAIO type MのユーザーインターフェースにFlashが採用されていることをデモするリンチ氏 |
続けてリンチ氏は、「1995年から2000年にかけてウェブブラウザーは大きく進化した。その進化はすでに止まってしまったが、その上で動作するコンテンツは“iTunes”(音楽ダウンロードサービス)やInstant Messenger(チャット)、Blog(読者と書き手が相互に干渉し合えるウェブ日記)など次々に新しいものが生まれている」「Flashはウェブブラウザーの一機能としてだけでなく、パソコンのインターフェースそのものにバンドルされてもいる。VAIO type Mでは、キーボードを閉じるという操作で自動的に時計とスクリーンセーバーが表示され、音楽再生が始まる」「Instant MessagingについてもAOLと協業し、Macromedia Central(チャットクライアントソフト)が標準採用されている。メッセージの送受信だけでなく、関連する情報やBlogの最新書き込みが表示される」と、最近のFlashシリーズの進化・普及の流れを説明した。
Macromedia FLEXを使ったサイトの実例。画面は基調講演後のプレスミーティングで紹介された米ナイキ社のオリジナルシューズをオーダーするサイト | Flash Playerをクライアントとして、動画やPowerPointファイルを共有する電子会議システム、Macromedia Breezeのデモ |
その後も、“次のBreakthroughsは”と前置きしながら、Java(J2EE)やWindows.NETサーバーに接続できるエンタープライズアプリケーション開発環境『Macromedia FLEX(フレックス)』、Flash Playerをクライアントに利用した電子会議システム『Macromedia Breeze(ブリーズ)』、携帯電話向けのFlash再生環境『Macromedia Flash Lite』など、エンドユーザーのパソコン環境以外にも活躍の場を広げつつあるFlashの世界を、例を挙げながら紹介した。
最近増えているFlashに動画を組み合わせたリッチウェブコンテンツの例。東京電力(株)の“でんき予報”を紹介した | 発売後も進化を続ける『Macromedia Flash MX 2004』の最新の改善点を紹介。ドキュメントの充実、パフォーマンスの向上、バグフィックスなどを行なうと説明。そして“Maelstrom”へと話が進む |
気になるMaelstromの正体とは!?
Windows XPが実装する“ClearType”と、Maelstromの新機能“Saffron”の比較 |
そして、ついにリンチ氏が「次世代のFlash Playerについて聞きたいですか?」と会場に話しかけると、特に左前方の観客グループから熱烈な拍手が送られ、それに応える形でいよいよ次世代Flash Player“Maelstrom”に取り込むべく開発している機能のいくつかが披露された。
会場で明らかにされた新機能は、以下の4つ。
- 米マイクロソフト社がWindows XPで搭載した“ClearType”以上に読みやすいという、フォントレンダリング技術“Saffron(サフラン)”
- レンダリングパフォーマンスの改善
- Player側でのグラフィックエフェクトの実現
- “αビデオ”(透過情報付き動画”への対応
特にレンダリングパフォーマンスの改善では、色の付いた数十の丸(サークル)が爆発するように次々に画面を埋めていく“パーティクル”と、カレンダーのサブウィンドウが一回り大きなメインウィンドウの中で跳ね返りながら移動する“スクロール”のデモを紹介。従来のFlash Playerに比べてフレームレートが8~10倍(毎秒14~5フレームが毎秒約120フレーム)へと大幅に向上することを見せ付けた。
Flash Player側でのグラフィックスエフェクトの例。ブラーを使って、キャラクターの輪郭から緑の光が出ている | ドロップシャドーはテキストにかけることもできる。もちろん、リアルタイムに反映される |
Flash Playerでのグラフィックエフェクトを実現するメリットとしては、ダウンロードするデータを増加することなく、より多彩な表現が行なえることにある。会場では、エッジから光が放射される“グロー”、立体感を出す“ドロップシャドー”マウスによるオブジェクトの移動を追尾するように残像を表示する“テール”などがデモされたほか、複数のエフェクトを組み合わせて実行する“Action Script”機能を使った表現方法も紹介された。
αビデオの例。歩いている女性と背景に注目 | αビデオの例。歩いている女性と背景に注目背景の色身/テクスチャーが変化しているが、女性のほうには一切影響が出ない |
αビデオは、例えば人物が左から右に歩く映像のうち、背景(人物以外)にアルファチャンネル(透明度)を設定しておくと、別に用意したバックにのみ文字をスクロールしたり、壁の色を変更するといった表現が可能になる。リンチ氏は「アンディー・ウォーホル(Andy Warhol)のような表現もできるよ」と自身も楽しげにデモを見せた。
なお、日本法人のCTO(チーフテクニカルオフィサー)の田中章雄氏に聞いたところ、「Maelstrom(次世代Flash Player)の登場時期については現時点でまったく決まっていない」とのこと。