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“バイオメカニクス”がスポーツを変えた!――『運動会で1番になる方法』著者の深代千之氏に聞く

2004年10月10日 04時08分更新

文● 編集部

体育の日(今年は11日)といえば運動会。その運動会で注目されている本がある。『運動会で1番になる方法』がそれだ。ここでは著者の深代千之(ふかしろ せんし)氏に、スポーツを変えた“バイオメカニクス”とはどのようなものかお話をうかがった。併せて“バイオメカニクス”分野のソフト『アルモ』の開発を行なっている(株)ジースポートの橘 完太氏にもお話をうかがった。(聞き手:遠藤諭)

日本人がアフリカ系に次いで速く走るようになった理由

[遠藤] この本を書かれた背景というのは?
[深代] 1つは、テクノロジーとスポーツの距離、あるいは西洋と東洋の考え方の距離が、我々のなかで近づいてきたということがあります。いままでの自然科学の分野というのは西洋からの輸入でした。西洋の自然科学は、基本的に、数値に置き換えられる現象だけをとりだしてきて、ある意味都合よく論理を組み立てます。ところが、自然界には数字で表現できないこともたくさんあって、そこを補完する東洋的な視点が見直されてきているのです
表紙イメージ
『運動会で1番になる方法』
[遠藤] スポーツ界では、古武術や“なんば走り”ですね。
[深代] 我々の場合は、そこに、テクノロジーは介在しているのですが、いわば西洋的な合理主義と東洋的な身体感覚を一体にしたところに答えがあった。いまの日本の陸上短距離がアフリカ系に次ぐ世界記録を出せるようになった要因はそこにあると思います。
[遠藤] 具体的には?
[深代] 1991年に東京で開かれた世界陸上のころには、日本では高野進選手が400メートルでズバ抜けていました。ところが、体力測定をすると高野選手は多くの項目であんまり強くないという結果が出たんです。それまでは、走るために筋肉の強さが必要で、筋力は太さに比例するので、多くの短距離選手がボディビルダーみたいな感じになっていた。それが、「どうも違うゾ」となったわけです。


深代千之氏『運動会で1番になる方法』著者の深代千之氏
[遠藤] 陸上の短距離といえば、いかにも力強さを必要とするような気がしますが、そうではなかった?
[深代] 瞬発的なパワーは、農耕民族の日本人は意外にあるのですね。ハンマー投げの室伏広治選手なんかは、30メートルという距離だと、日本のトップより速いかもしれません。スケートの清水宏保選手なんかも、スタートダッシュが非常にいいですよね。ところが、陸上の100メートル以上の距離を速く走るためには、瞬発的な力強さにプラスして他の要素が関係していることが分かってきた。そこに、“バイオメカニクス”という人間の身体の動きをコンピューターで分析する技術の発展が重なって、力学的な動きの解析から、どこをどう使えば“勝てるか”ということを探れるようになってきた。
[遠藤] それはどこだったのですか?
[深代] “股関節”がものすごく重要であることが分かったんです。
[遠藤] 本の中に「ふだん誰も意識しない身体の内部の筋にヒミツがあった」とあるのは?
[深代] 股関節を使うには“腸腰筋とハムストリングス”を働かせる必要がある。腸腰筋というのは、いまでこそ話題になるようになりましたが、当時は、専門家以外はほとんど知られていませんでした。脚を前に引き上げるには、モモの筋肉だろうと考えてしまいがちですが、実は、この筋の役割のほうが重要だったのです。また、振り戻しではハムストリングスです。この股関節回りの筋力が同じならば、末端は軽いほうが(重りにならずに)速く動く。つまり、身体の幹(体幹)の筋を鍛えて太くして、身体の末端(ふくらはぎ)のほうは細くということになります。高野選手は、そのことに気づいていたのだと思います。
[遠藤] 股関節をひたすら速く前後に動かす!
[深代] 従来、「モモを上げて」とか「腕をよく振って」とか指導されてきました。ところが、モモを高く上げても速く走れない。股関節だけを働かせて「速くモモを上げる」と、自然に脚はムチのように巻き込まれてくる。そして、振り戻しは「接地中に膝を曲げ伸ばしして地面をキックする」のではなく、脚を1本の棒のようにして(膝の屈伸なくして)地面を後ろに押す……。バイオメカニクス研究によって、これまで言われてきた常識が、完全に覆されたのです。

小学生に最新のスポーツ理論はどんな意味があるのか?

[遠藤] 日本人を世界のトップクラスに押し上げた走りを、なんと子どもの世界におろした。
[深代] これまでも、競技スポーツをめざす子どもたちに対して、縄バシゴを敷いてチョコチョコ走るラダートレーニングで、ピッチを上げさせたり、腰を回したりとかやられてきました。スポーツ選手になりたい子どもは、専門のトレーニングでそうした機会はありますが、そうでない子どもには、なかなかこの世界に触れるチャンスはありませんよね。
[遠藤] それでこの本になった?
[深代] 子どもたちそれぞれの能力を最大限引き出してやるために、本では“股関節活性化ドリル”を具体的に紹介しました。もちろん、誰もが運動会で一等賞になれるわけではありません。これを実践することで、運動会で一等賞になれるチャンスはグンと上がるのですが、それだけが重要なのではありません。私としては、いまの子どもたちに“身体は変えられるんだ”ということを実感してほしいのです。
[遠藤] 身体は変えられるというのは?
[深代] 昔は、遊びの中に“身体感覚”を養う機会がたくさんありました。しかし、いまは運動しない子は正常な身体感覚を養う機会が少なすぎるのです。そうした経験を積まずに大きくなると、あるときちょっとした身体的に不思議な体験をすると、それに驚いて、社会から逸脱した行動(たとえば、簡単に新興宗教に入ってしまうとか…)をとったりするということが考えられます。
書籍内容イメージ
『運動会で1番になる方法』から
[遠藤] この本で、親子で近所の公園で練習する感じですか?
[深代] そうです。米国ではキャッチボールをする、日本では相撲をとるといったことで、親子が親密になる文化がありました。スキンシップの点でも非常に有効だったのですが、いまは、よほどのきっかけがないと相撲はとらない。この本を片手に、一緒に走ったり、一緒に疲れたり、ということでも親子がとても近づくことができますよね。そして、運動会で1番を目指そうという共通の目標がみえてくる。
[遠藤] 運動会が変質していると言われますよね。『週刊文春』(2004・10・7)でも、「撮影タイムあり、徒競走は勝敗なし/運動会という名の“バカ親の祭典”」という記事があります。
[深代] 私は、運動会は楽しむべきだと思います。ただし、純粋に競技として楽しむということです。子どもをビデオで撮影するのも、子どもが本気でやっているのを撮るのは親バカでいいと思うのですよ。競争は学校のなかでも、一般社会でも必ずあるものです。だから、負けた時のくやしさは自分で受け止めなければ、次の成長はありません。また、負けた子が可哀想というのではなくて、負けたときの“ほめ方”というのが大切なのです。その例もこの本には書いてあります。「運動会が嫌い」だったという人は多いです。それは、負けた時の接し方に関して、まわりの配慮が欠如していたのではないでしょうか。
[遠藤] 運動会で1番になるのも素晴らしい体験だと思いますが、それだけではないのですね?
[深代] 自分の身体は変えられる。去年の自分と競争したら、今の自分はどうかという視点ですね。また、精神的にも変えられる。“負けたときはこうだ”といった強さを持つことができるのも重要なことなのです。

米国と日本では投手の投げ方がまるで違っていた

[遠藤] 日本の走りは、海外にも影響を与えているのではないですか?
[深代] 韓国や台湾は、始めていますね。それと、中国ですね。110メートルハードルで世界タイ記録が出ました。強化をすればあれだけの人口がいるので何人かは出てくるわけですが、北京オリンピックを目指して中国はより本気でやってくるのではないでしょうか。この本に書いてある「速く走る秘訣」は“国家機密”で、輸出されないようにしなければなりませんね。110メートルハードルで世界記録が出ました。強化をすればあれだけの人口がいるので何人かは出てくるわけですが、北京オリンピックを目指して中国はより本気でやってくるのではないでしょうか?
[遠藤] 今回の本は“走る”ですが、“走る”以外では?
[深代] “投げる”の研究も進んでいます。いわゆる“女投げ”というのがあります。具体的には、投げる方向に胸を向けて(体幹の回転をしないで)、肩から先の腕がムチ動作にならない…。あれは、解剖学的に女性の身体がそうだというのではなくて、小さい頃にちゃんと投げる練習をする機会がなかったからなのです。“投げる”のほうが“走る”より要素が多いので、やり方を変えることができれば、差が出やすいと言えます。
[遠藤] 賢く投げる!
[深代] 私は、東京大学にもどる前に、愛知の(財)スポーツ医・科学研究所というところにいたのですが、中日の投手の投げ方に関して興味深いことがありました。プロ野球の中日の選手が、米国にスプリングキャンプに行って、向こうの臨時投手コーチの指導を受ける、その動作の指摘の仕方が日本のコーチとまるで違う。
[遠藤] ということは、投げ方も違う?
[深代] 日本は、投手がボールを投げるときに踏み出した膝を曲げろと指導する。これは、ボールを持っている時間が長くなってコントロールしやすくなるからです。それに対して、米国のコーチはそんなのは絶対ダメだと。実は、米国の投手は踏み出した足の膝を曲げないで、地面の反力を受け止めて前にパタンと折れるようにして投げるのです。テレビの解説者が、米国の投手は「手投げ」だと発言することがありますが、手投げのように見えますが、実際は、身体を有効に使った投げ方なのです。肩の移動速度は米国式のほうが速くなります。実は、“ヤリ投げ”という種目は、米国の投手の投げ方と同じく、前に踏み出した足の膝を絶対に曲げません。
[遠藤] バイオメカニクスによる分析は、ゴルフにも応用できそうですよね?
[深代] ゴルフは、基本的に遠くに飛ばすことではなく、確率のスポーツです。グリーン回りのショートゲームやパッティングなどテクニカルな要素が強いですから、日本人が勝つチャンスのあると思います。それと、精神統一ということに関しては、東洋のほうがたけている部分があるでしょう。
[遠藤] リラックスする?
[深代] 本番は緊張しないといけない。“火事場のばか力”的なところがあって、試合だと練習よりも筋が活躍するわけです。しかし、緊張しすぎると、動きがスムーズにいかなくなる。つまり、ちょうどよい緊張の程度があるのです。こういう部分は、昔の武士道の世界に学んだほうがよいかもしれません。
[遠藤] 最後に、ちょうど運動会シーズンですが。
[深代] 今年、悔しい思いをした人も、来年の運動会に向けていまから親子で頑張ってみてください。「1カ月で足が速くなる」と表紙に書いてありますが、ふだんから身体感覚を養うことこそ大切なことですからね。
※『運動会で1番になる方法』は、(株)アスキーより発売中です。 また、(株)ジースポートより“股関節活性化ドリル”を映像で学べる同名のDVDが発売中です。

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