製品には、使用するうえでの寿命があるが、同時に商品としての寿命がある。製造業としてビジネスをしていくには、その商品寿命を考慮しなければならない。ましてやIT産業はドッグイヤーの世界である。そこでビジネスを維持していくには一層の努力が必要になる。
現在コンピュータは、PCという形で企業のみならず、各家庭にまで入っている。PCほどではないにせよ、IAサーバも価格性能比から今後も市場が成長する製品だと考えられている。では、IAサーバビジネスは当面安泰だろうか。ITビジネスの先行きを見ていくことにしよう。
■コンピュータビジネスのもうひとつの道
歴史を振り返ってみると、コンピュータ産業が成り立つようになってから長いあいだ、コンピュータメーカーがそれぞれ独自の設計思想でCPUやOS、周辺機器を開発する時代が続いた。OEM提携やライセンス生産によって、他社の技術を自社の製品に採り入れることはあったが、巨大な資本を持ったメーカーが、それぞれ独自の技術で異なる仕様のコンピュータを作っていたのである。むろん、製品自体も高額であり、利用分野もそれに見合う用途に限られていた。
しかし1970年後半になって、IBM PCアーキテクチャがパソコンのデファクトスタンダードとなって、インテルプロッセッサが廉価で大量に生産されるようになったころから、メーカーのありように変化が現われた。一から十まで自社で開発しなくても、インテルが開発したマイクロチップや共通仕様の周辺機器、OSを調達して組み合わせ、自社のコンピュータとしてPCをより安価で大量に販売できる時代になったのである。そしてそのような時代になってみると、巨大なメーカーとはひと味違う特徴とサービスでPCに付加価値をつける、新しいタイプのメーカーが独自のビジネスを展開するようになった。こうしたメーカーにとって、Linuxは製品に組み入れやすく、また付加価値をつけやすいOSであることは間違いない。
このようなメーカーのひとつ、日本コンピューティングシステム(以下JCS)は、インテル・プレミア・プロバイダーとして数々の高品質IAサーバを世に出してきたサーバベンダーである。そこで、同社がIAサーバ市場でどのようなビジネスを展開してきたか、また次のビジネス材料としてどこに狙いを見据えているかを取材した。
■日用品になる前の製品を狙え
JCSは、もともとPCの製造販売からスタートした企業である。しかし、1992年ごろから始まった、デルやゲートウェイ、コンパック、富士通などによる急激な価格競争の波を受け、コンシューマー市場向けのPCからより専門的なPCへと、ビジネスを転換していく。
高性能コンピュータに目を向ける
日本コンピューティングシステム代表取締役 岩本 修氏 |
そのようななかで活路を探っていたJCSは、当時のソフトウェア開発者たちが開発効率を上げるために少しでも速いマシンを必要としていることに注目し、コンシューマー向けのPC販売に見切りをつけ、プロフェッショナルなソフトウェア開発用途の高性能なコンピュータやサーバ市場に向けた商品開発に着手した。さらに、3DCG用の高機能グラフィックスカードや動画のノンリニア編集用ボードなどを搭載した、より業務に特化したマシンの販売へと事業を展開したのである。市場の動向と、いまユーザーが何を必要としており、そのための技術がどこにあるのかに着目した転進といえる。
「技術や製品というものは、どんなものでもいずれコモディティ(日用品)となっていくわけです。いったんコモディティとなってしまえば、あとは価格で勝負するしかありません。企業としては、技術や製品がコモディティ化してしまう前の高い付加価値のある段階で、いかにシェアを獲得するかがビジネスの勝敗のカギになります」と岩本氏は言う。
インターネット用途のサーバを主力製品とする
1992年から1993年にかけて、営業の中心を高機能マシンへと移した同社は、その後の1995年ごろから始まるインターネット時代の幕開けにより、さらにWebフロントエンドで使用されるサーバ分野に進んでいく。