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インタラクティブアートPowered by Linux―東京都写真美術館で展示中―

2003年10月01日 00時00分更新

文● 牛田啓太

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 9月21日から10月19日まで、東京都写真美術館で『江戸開府400年記念事業「江戸の写し絵」展』が開催されている。その中で展示中の、minim++/y.kakehiによるインタラクティブ作品「at<case edo-tokyo>」(以下、「at」)は、Linux上で制作されている。  「at」は、大阪大学で開発されたコンピュータビジョン(画像認識)によるリアルタイム人物追跡システムを応用し、東京大学工学部で「人物の通ったあとに軌跡を残し、空間を演出するシステム」として筧康明氏らによって研究された「i-trace(interactive trace)」システムに基づいている。床の様子を天井から撮影し、人物の位置を追跡、天井からプロジェクタでその跡に映像を描いていくという仕掛けだ。さらにi-traceシステムでは、ある人の描いた軌跡に別の人が触れたとき、さらなる映像演出が起こるようになっている。「i-trace」システムでは、OSにRed Hat Linuxを搭載したPC1台で、映像入力・処理・映像出力を行っている。

人物追跡システム動作の様子
人物追跡システム動作の様子。水色の円が人物を捕捉、追跡している
i-trace システムの概要
i-trace システムの概要。天井に据え付けたカメラからの映像を PC で処理し、床面に投影するようになっている

 「at」は、この i-trace システムを、minim++(近森基氏、久納鏡子氏)とのコラボレーションで全身で楽しめるインタラクティブアート作品としたもの。

天井に据え付けられたプロジェクタとカメラ。2 画面同時出力可能なビデオカードで 2 台のプロジェクタをドライブし、広い投影面積を確保している
天井に据え付けられたプロジェクタとカメラ。2 画面同時出力可能なビデオカードで 2 台のプロジェクタをドライブし、広い投影面積を確保している

 「at」の作り出す空間には、現在の東京の上空からの映像が映し出されている。そこに足を踏み入れると、その方位の十二支(例えば北(子の方角)から入ったらねずみ)の動物を参加者はまとい、それとともに江戸の町を散策する。参加者の足元にはその場所の江戸期の地図が広がり、また、その動物の足跡もついてくる。

「東京」の中に足を踏み入れると、十二支の動物と共に「江戸」を散策することができる
「東京」の中に足を踏み入れると、十二支の動物と共に「江戸」を散策することができる

 ある人の歩いた跡に別の人が触れると、踏まれた人がまとっていた動物が光の中から飛び出し、自分の方角に還っていく(ねずみは、北の方角に走り去る)。これは、映像(コンピュータ)とのインタラクションだけでなく、参加者どうしのインタラクションである。

ある人が通った後
ある人が通った後。取材当日はワークショップが開かれていて、飛び出す十二支の動物は、参加者の描いたものになっていた(写真は寅)

 展示では、思い思いに「東京」の中で自分の周りに立ち現れる「江戸」を「散歩」する人、十二支の動物が飛び出すのを楽しみに駆け回る子供たちの姿が見られた。
 「十二支は、かつて方角・時間を表していた。『at』では、この動物たちとともに、『東京』の場所・時間の散策を楽しんでほしい」と近森氏。

 新たな技術は、新たな表現を拓く。Linux も、その例外ではない。Linux が創り出す現代美術の世界を、体験されてはいかがだろう。

【撮影協力】

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