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“ロボカップジャパンオープン2003新潟”開催――史上初!の人間対ロボットのPK戦も

2003年05月07日 00時00分更新

文● 浅野純也

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5月1日から5日まで、新潟市の朱鷺メッセ(新潟コンベンションセンター)において“ロボカップジャパンオープン2003新潟”が開催された。ロボカップはロボットによるサッカーや災害支援ロボットの研究開発を通して、広くロボットや周辺技術・産業の発展、教育などを目的としたイベント。50年後にロボットチームが人間のワールドカップ優勝チームに勝つという目標はよく知られている。ジャパンオープンは毎年1回、国内のチームを集めて行なわれるもので、夏に開催される世界大会に向けてのオープン戦的な意味合いもあり、今年で6回目。会場の朱鷺メッセはこの5月1日にオープンした新潟市初のコンベンション複合施設。開業記念のイベントとしてロボカップが誘致されたという。

会場となった朱鷺メッセ
今回のジャパンオープンは朱鷺メッセの開業イベントとして“ゆめテク新潟03”と併催された。朱鷺メッセは新潟では最大のコンベンション施設だ

今回行なわれた競技は、ロボカップサッカーが小型と中型、シミュレーション、4脚、ヒューマノイド、ロボカップレスキューの実機とシミュレーション、高校生以下が参加するロボカップジュニアのサッカーとダンス。昨年、福岡で開催された世界大会の影響もあって、いずれも過去最高のエントリー数を記録。そのため一部の競技では前半後半に日程をわけて開催されたこともあり、このレポートではすべての競技をカバーしきれていない。あらかじめお断りしておく。

ASIMO改とROBO-ONE組が登場したヒューマノイドリーグ

まずは昨年から正式競技となったヒューマノイドリーグに触れておこう。今回は自動車メーカー・ホンダ系列の専門学校ホンダインターナショナルテクニカルスクール(HITS)が、ホンダ製ASIMOの貸与を受けて学生チームとして参加した。ASIMOは外観こそ大きな変化はないもののこれまで2回のモデルチェンジを果たしており、HITSに貸与されたのは一番最初のモデル。頭部カメラを持たないタイプだ。学生の実習用教材として貸与を受けて半年、最新歩行技術の固まりであるASIMOに学生が手を加えられる部分は少なく、今回はランドセルカバーや頭部カバーを自作したほか、頭部をノートパソコンに変更してCGによる表情を入れるなどの工夫にとどまっている。それでも競技においては史上初の人間とのPK戦や、自由演技では掛け合い漫才を披露するなど学生ならではの発想で会場を沸かせた。

ヒューマノイドリーグにはSILFH2やMetallic Fighterなどのロボット格闘技大会“ROBO-ONE”組も参加。抜群の運動性能を誇るROBO-ONE組が競技の上位を独占した。この状況にロボカップ関係者は「個人でここまでの技術力を持ってるということに正直驚いている。大学の研究者にはおおいに刺激になる」と話していた。

自由演技で人間との掛け合い漫才を疲労したHITSチーム
自由演技で人間との掛け合い漫才を疲労したHITSチーム。FIRSTEPと名付けられたロボットの動きのほとんどは既存のものだが、このキメポーズは学生オリジナルだ
歩行中のFIRSTEP
歩行中のFIRSTEP。頭部はWindowsパソコンの液晶ディスプレー画面で表情を作り、背中のカバーも自製している
史上初!の人間対ロボットのPK戦
史上初!の人間対ロボットのPK戦。50年後のグランドターゲットを彷彿させる? だがFIRSTEPのキックは弱々しく、8歳の女の子に簡単にセーブされた
ROBO-ONE組のMetallic Fighter
ROBO-ONE組のMetallic Fighterはメカ的な疲労が進み、骨折や脱臼など満身創痍での参加。それでも驚異の運動性能は大いに注目された
ウォーキング競技
ロボットの体長の5倍の長さを歩行する時間を競うウォーキング競技ではSILFH2が韋駄天ぶりを発揮。製作期間は4年以上、3ケタの費用がかかっている
PK戦
PK戦。ロボットのサイズによってグループ分けされるが40センチ以下はまとめられるため、最小のSILFH2はやや不利?
大阪大学チーム
大阪大学チームは富士通製HOAP-1で昨年に続いて参加したが、調整が間に合わず歩行、PKとも不調
急遽行なわれた徒競走
エキシビションで徒競走が急遽、行なわれた。サイズの異なる5体が参加。最も小さいSILFH2が勝った?

親御さんも一緒に盛り上がる!

大きな盛り上がりを見せていたのがロボカップジュニアだ。高校生以下のジュニア世代を対象に“2ON2”のサッカーとダンス競技があるこのカテゴリーは、プログラマブルなロボットキットがあり、LEGO MINDSTORMSでの参加も可能なため、参加のハードルが低いのが理由だ。女の子の参加も多いし、各地での普及活動も活発で親が入れ込むケースも目立っている。今回は各地での選抜大会を勝ち抜いた“2On2”50組、ダンス10組が参加した。

2On2は赤外線を発するボールを使って行なう。ロボットは基本的に赤外線センサーを搭載してボールを追い、濃淡が付いたフィールド面を光センサーでセンスしながら自分の位置を認識するなど、ジュニアとはいえなかなかのハイテクぶり。中には独自の改良を加えて壁との接触を検知するタッチセンサーや、自位置の精度を高めるため方位磁石を載せて方位を検出するロボットもあった。面白いのは高校生レベルだと完全自作ロボットで参加するケースも多いが、必ずしも勝てるわけでなく、実際、決勝戦はポケコンを載せて制御するロボットと中学生作のMINDSTORMSの対戦という組み合わせになり、延長戦の末、高校生が勝利した。

ジュニアサッカー部門は参加者が50組
ジュニアサッカー部門は参加者が50組と多いうえ、保護者もさらに多く、あちこちで歓声が飛んでいた。選手は冷静に試合していたが
サッカー部門で優勝したBLACK BOXチーム
サッカー部門で優勝したBLACK BOXチームはポケコンで制御するタイプ。高校生らしいアイデアだ
キースイッチをセンサー代わりに搭載したロボット
パソコンのキーボードのキースイッチをセンサー代わりに搭載したロボット。キット自体は市販のものだ
サッカーロボットのプログラミング中
サッカーロボットのプログラミング中。小学生でも簡単に扱えるよう工夫されたキットが市販されているのが裾野が広い理由だろう
ジュニアダンス部門の賞をほぼ独占したチームHori
ジュニアダンス部門の賞をほぼ独占したチームHori。2人が踊る間でMINDSTORMロボットが中央でライントレースしている
地元の高校生チームGmk2は自走するゴジラを披露
地元の高校生チームGmk2は自走するゴジラを披露。手前の人形も動くのだが……

人間とロボットの協調で災害救助支援

昨年から本格的に始まったロボカップレスキューはシミュレーションと実機の2カテゴリーが実施された。ロボカップサッカーと違い、災害時に役に立つ技術の開発というより実践的な意味合いを持っている。実際、世界同時多発テロ、9・11の世界貿易センタービルの現場でロボットが活躍した事実もあり、サッカーよりも確実に社会に貢献できる分野として参加する研究者が増えている。

実機競技は地震後のオフィスを模したフィールドを用意。ここにロボットを投入して現場の概図を描くのが目的。遠隔操縦するロボットにはカメラが搭載されており、オペレーターはフィールドから隔離された場所からカメラ情報だけを頼りにロボットを操縦する。人間の救助隊が現場に入る前の斥候役を想定した競技だ。サッカー競技と違い、ロボット自体はクローラーで運動性能を高めたもので、カメラを搭載し、無線で映像を飛ばしたり、現場の音をマイクで拾うなどの補助機能を持つが、機構的にはシンプルなものが多い。それよりもオペレーターの操縦技術や方向感覚、、環境を認識する=限られた粗いカメラ映像から地図を作成する能力などが求められるため、ロボットとオペレーターの協調が大きなポイントになっている。

ちなみにNYのテロ現場では実際に大学で研究中のレスキューロボットが持ち込まれて活躍したが、日本では行政区分など複雑な“お役所事情”が絡むため、現時点では実際の災害現場でこうしたロボットが活躍するのは難しいという。ただし、消防庁や地方自治体の消防局レベルではロボット技術の導入に前向きなところが多く、今後の展開が注目されている。

消防庁や地方自治体の消防局などでは前向きなところが多いとの指摘があり、「ただし~、今後の展開が注目されている。」の部分を追加しました(5月12日付け)
競技フィールドは非常灯代わりの赤いライトで照らされている
競技フィールドは非常灯代わりの赤いライトで照らされており、カメラによる認識をさらに困難にしている
フィールドには被災者役のマネキンが
フィールドには被災者役のマネキンが腕の一部を動かしたり、呼吸音を発したりしている
優勝した『越野SAVERS』
優勝した『越野SAVERS』は有線型で操縦するため画像が鮮明なのが特徴。2台のカメラを搭載する
電通大と日本SGI(株)の合同チーム“SINOBI”
電通大と日本SGI(株)の合同チーム“SINOBI”。2台に分離して活動する。SGIは災害救助支援や防災システムの販売に絡めてロボカップレスキューに賛同しており、合同チームでの活動も行なっている
ラジコンエンジンで自走、2軸を持つカメラアームを搭載するロボット
ラジコンエンジンで自走、2軸を持つカメラアームを搭載するロボット。将来的には自家発電を行い自分の電力は自分で賄うというコンセプトだ
オペレーターはフィールドが見えない場所でこんな感じでロボットを操作
オペレーターはフィールドが見えない場所でこんな感じでロボットを操作。送られてくるカメラ映像を見ながら地図を作製する

初優勝を遂げた“WINKIT”

世界に対して日本勢が優位に立っている中型機リーグは、昨年の世界大会と同じ顔合わせで決勝戦が行なわれた。ここ数年、安定した力を発揮している慶應大学“EIGEN”と、新興の金沢工科大学“WINKIT”の対戦だ。得意の全方位移動能力をそのままに従来のメカを一新し、メンテナンス性を高めたWINKITに対し、従来のバージョンアップ版で臨んだEIGEN。実力的には拮抗していたが、ボールへの早い働きかけや確実な動作が実を結び、念願の初優勝を遂げた。注目されたのは村田機械(株)のMURATEC FCチーム。昨年に続き2回目のエントリーだが、今年は大躍進。一度大会を経験したことでノウハウが得たことが大きく、予選ではEIGENにも勝利を収めたが、準決勝で惜敗、総合3位になった。ロボット前面にはローラーの回転機構でボールを保持、シュートできるが、回転方向を制御することでボールを浮かせたループシュートを打てるようになったのが強力な武器になった。なお上位常連の大阪大学はロボットを一新してまだ間がないこともあって下位に沈んだ。

決勝戦は実力伯仲
決勝戦は実力伯仲。わずかなチャンスをモノにしたWINKITが勝った。とはいえ両チームともコーナーやライン際でのボール処理はまだまだの様子
優勝したWINKITチームのロボット
優勝したWINKITチームのロボット。昨年に比べ構造がごくシンプルなものに変更された。メンテナンス性も高い
MURATEC FCがロボットを調整中
MURATEC FCがロボットを調整中。認識能力、移動能力などが格段に向上。会社ではあまり何も言われていないらしいが今回の結果は胸を張れる
MURATEC FCのキックデバイス
MURATEC FCのキックデバイス。これでボールを巻き込んでドリブル、押し出してシュートやパスを繰り出す

高専チームが優勝した小型機リーグ

小型機リーグはエントリー数が激増したため、前期後期に日程を分けての開催となった。前期日程では有力チームの愛知県立大の“RoboDragon”チームが圧勝。大差で勝利を収め続けた。前期日程では2つの高校生チームが参加。地元新潟のメーカーが発売するキットを使ってのエントリーだったが、初出場ながらロボットが確実に動作し、試合をこなしたことで関係者も高く評価していた。後期日程では強力なシュート能力を持つ“チームまくした”(桐蔭横浜大学社会人ロボットクラブ)がダントツの得点力で決勝に進んだが、“KIKS”(豊田工業高等専門学校)に決勝で敗れた。KIKSは指導の先生が「ロボットを作るためなら徹夜もいとわない連中」というロボコン歴の長い学生が集まったチーム。より低コストで信頼性が高いロボットを製作したのが功を奏した格好だ。対するまくしたもロボット歴の長い「オトナ」が集まったチーム。ハーフウェイラインからもスペースがあれば強引にキメられる強力なシュート能力も、決勝戦ではことごとくコースを外れる不運もあって惜敗した。

小型機リーグで優勝したKIKSのロボット
小型機リーグで優勝したKIKSのロボット。3輪で意図的にスリップさせながら全方位移動する機構は低コスト思考と手を動かす学生が多いゆえの産物だ
まくしたチームのロボットたち
まくしたチームのロボットたち。右側を向いているキックデバイスから強烈なシュートを放つことができる
KIKSとまくしたが闘った小型機リーグの決勝戦
KIKSとまくしたが闘った小型機リーグの決勝戦は僅差でKIKSが勝利した
まくしたチームのパソコン画面から
まくしたチームのパソコン画面から。俯瞰カメラで認識された敵と味方のロボットが青と赤で、ボールも赤で表示されている。戦略や移動方向、シュートコースなどを表示できる
AIBOによる4脚リーグは参加チームが大幅に増加
AIBOによる4脚リーグは参加チームが大幅に増え、おおいに盛り上がったが、世界レベルへの道はまだ遠い……

今年の世界大会は7月上旬にイタリアで開催される。また来年のジャパンオープンは5月上旬に大阪で開催される予定だ。

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