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「オープンソースのコンテンツ管理ソフトウェア市場を拡大したい」-米Zope Corpolation CSO Paul Everitt氏インタビュー

2002年07月12日 07時15分更新

文● 阿蘇直樹

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米Zope Corpolationの共同設立者であり、Chief Strategy Officer(以下、CSO)であるPaul Everitt氏が、日本のコンテンツマネジメント市場を視察することを目的に来日している。日刊アスキー Linuxは、日本Zopeユーザ会のメンバーで(株)パイナップルカンパニー代表取締役の圓尾伸三氏のご協力を頂き、インタビューを行なった。この記事ではそのもようをお伝えする。

Paul Everitt氏と圓尾伸三氏。
右は米Zope Corpolation CSO Paul Everitt氏、左は(株)パイナップルカンパニー代表取締役 圓尾伸三氏

『Zope』とは?

『Zope』とは、オープンソースのWebアプリケーションサーバ。具体的には、Webサーバやデータベースなどのフレームワークとしての機能を持ち、Webベースの管理画面からすべての機能を利用することが可能だ。システムのほとんどの部分はPythonで開発されており、Pythonが動作する環境とC言語をコンパイルできる環境であれば、プラットフォームを選ばずに利用することができる。現在バイナリが提供されているのは、Windows、Linux、Solarisなど。Zope上で動作するコンテンツ管理システム『Plone』や、スラッシュドットのクローン『Spuishdot』などのモジュールと組み合わせることで、ユーザーのニーズにあったWebシステムを容易に構築することができる。

『Zope』が提供する機能は、これまでApacheやPHP、MySQLなどを組み合わせたWebプラットフォームと同等のもので、コンテンツの管理や動的なWebページの生成などが可能だ。通常、コンテンツ管理のシステムは、それぞれの企業や組織で自社開発のものが利用されているが、コンテンツ管理もオフィススィートなどの一般的な業務アプリケーションと同様、標準的に必要な機能がほぼ決まっているものであり、オープンソースで提供されるフレームワークを用いることで管理コストの削減が可能になるという。

『Zope』の歴史

Everitt氏によると、『Zope』のもとになったのは、Zope Corporationの前身であるDigital Creationが開発した『Bobo』。Digital Creationは新聞社などが出資し、1995年に設立されたジョイントベンチャーで、『Bobo』は当初、Webに掲載した新聞記事に、実際の新聞と同じ企業の広告を自動的に掲載するなど、新聞とWebページのコンテンツを同期させるためのアプリケーションとして開発された。Everitt氏自身、新聞の情報を手元で自由に操作できるこの仕事が非常に好きだそうだ。『Bobo』はプロプライエタリな製品であったが、Digital Creationがベンチャーキャピタルの出資を受けて独立した際に、ベンチャーキャピタルからオープンソースにするよう求められ、1998年にオープンソースの製品として『Zope』が誕生した。

『Zope』という名前は、コミュニティから提案された名称だったという。名前の候補を挙げたリストを作り、そこから選んだのだが、リストの37番目まではすでにドメインをとられていたため、38番目の候補であった『Zope』に決定された。Everitt氏も当初は違和感のある名前だと思っていたというが、現在では気に入っているそうだ。

Zope Corporationの現在の事業は、メディア企業をターゲットにしたものが中心で、マネジメントホスティングサービスなどを提供している。今後はメディア事業に加えて、ヨーロッパの政府機関に文書管理システムを提供するほか、『Zope』の知名度を高めるためのカンファレンスを開催したり、『Zope』を利用したビジネスを行なっている団体や企業を支援する“Zope International”を作りたいという考えを示した。

日本のコンテンツ管理市場

世界的に見ると、コンテンツ管理の市場は2005年には30億ドル規模になると予想されており、そのうち3割程度をヨーロッパ市場が占めるほかは、米国市場が中心になると言われており、日本のコンテンツ管理市場は、非常に小規模だと考えられている。しかし、Everitt氏は「さまざまな可能性がある」と考えている。

Everitt氏は、これまでコンテンツ管理システムを自社で開発してきた既存のメディア企業が、オープンソースのコンテンツ管理システムを採用することで、「自分たちはソフトハウスでなくニュース企業だという自覚を持つことができる」という。圓尾氏はこれに加えて、「これまで多くのメディア企業が独自で開発したシステムにコストをかけてきたが、そういった企業がオープンソースのものを利用するならば、単純にコミュニティの成果を利用して、必要な機能要求をシェアするだけで、より使いやすく低コストのシステムを手に入れられるようになる」と語り、オープンソースのコンテンツ管理システムが新しい市場を開拓できるのではないかという考えを示した。

現在の状況については、オープンソースの市場もコンテンツ管理市場も立ち上がったばかりであり、「オープンソースのソリューション全体の知名度を上げて、商用の製品と競争できるようなメインストリームに持ってゆくことが重要になる」(Everitt氏)と語った。

『Zope 3』の目指すもの

次期バージョンである『Zope 3』は、ユーザーがいっさいコードを書かなくてもコンテンツ管理システムを容易に構築できるシステムを目指すという。現在の『Zope 2』でもある程度のモジュール化がなされているが、『Zope 3』ではフレームワーク上に機能モジュールを追加するだけで、必要な機能をそろえることができるものになるという。

国際化への対応も、ローカライズされたモジュールを追加するだけで対応できるようにするといい、『Zope 3』本体の内部処理をUnicodeで行なうなど、国際化に対応したプラットフォームにするという。国際化モジュールの提供はZope Corpolationが行なうことはないそうで、各地のユーザーコミュニティが中心になって国際化を進めるという。

「保守的」なオープンソースビジネス

1999年頃にはオープンソースソフトウェアを扱う企業が数多く誕生したが、現在ではそのほとんどがすでに存在していない。Zope Corpolationが生き残った理由として、Everitt氏は「我々は保守的だったから」という。当時カリフォルニアなどに多く誕生した、いわゆる「ドットコム企業」の多くが、「クレイジーな状態」(Everitt氏)で、オフィスの家具にマホガニー材の特注品を多用するなど、派手な消費を好んだという。一方のZope Corpolationはそういった活動はしなかったことで、生き残れたと考えているそうだ。圓尾氏によると、Everitt氏は「移動にはタクシーをほとんど使わない、海外への移動にもビジネスクラスは使わない、昼食は駅前のそばで済ますなど、庶民的な感覚の持ち主」だそうだ。

また、Zope Corpolationはほかのオープンソース企業と大きく異なり、IPOすることを目指していないのだという。Everitt氏は、現在はとにかく「いい会社を作ることにフォーカスする」としながらも、将来的には『Zope』の知名度やブランドを強化して企業価値を高め、事業のバイアウトを検討していると語った。

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