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日弁連が「リンク」の方針を転換 ネット掲示板での反発に

2002年06月17日 18時51分更新

文● 編集部 佐々木俊尚

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日本弁護士連合会(日弁連、東京都千代田区)は17日までに、同会のウェブサイトにリンクを張る際に実名や電話番号などを要求していた許可条件を修正し、リンクを原則自由とする方針を明らかにした。同会の方針に対するインターネット掲示板などでの反発に応えた。弁護士の最高機関としてインターネット上の法律問題などにも取り組んでいる日弁連が方針を転換したことで、論議の続いている「リンクの自由」問題への影響が注目される。

日弁連は1996年9月にウェブサイトを開設している。その中に掲げられているサイト使用条件で、同会はリンクの許可条件として「下記事項を承認し遵守していただくことを条件とします」とし、(1)リンク元サイトのURL、管理者の住所、氏名、電話番号、メールアドレスを日弁連に事前に報告すること(2)リンク元サイトに対する第三者からの損害賠償、苦情その他いかなる請求についても、日本弁護士連合会は責任を負わない(3)公序良俗に反するもの、法律などに違反か違反するおそれがある内容を含むもの、その他日弁連が不適切と判断したものについてはリンクを断る――などを条件として掲げていた。

これに対し、スラッシュドット・ジャパンや2ちゃんねるなどのネット掲示板を中心に、「無断リンクの禁止は表現の自由の侵害」「ホームページ管理者の実名を要求するのは行き過ぎではないか」「日弁連が不適切と判断してリンクを断るのは、言論の封殺」といった批判が起きていた。

この問題について、ASCII24編集部は12日に日弁連に取材を申し込んだ。これに対し、同会は13日、ウェブ上のサイト使用条件の文章を修正。実名や電話番号を求めていた許可条件を撤回し、「当HPへのリンクは、原則として自由です。但し、リンク元サイトのコンテンツや運営が以下のいずれかに該当するもののリンクはお断りします。(1)公序良俗に反するもの(2) 法律、法令等に違反し又は違反するおそれがある内容を含むもの」と改めた。

サイトには「原則自由であるリンクについて、当ホームページのリンク条件の記載はリンクを厳しく制限しているような表現になっていました。また多くの方々からリンクを禁止する趣旨とも受け取られる表記であるとのご指摘も頂戴しました。そこで、リンクについて原則自由であることを明確にし、誤解を招かないように、6月13日付で表現を改めさせていただきました」とする文章も掲示された。同会広報担当は「あらためて取材に応じたい」と話しており、日弁連側の詳しい説明については後日報告したい。

修正理由を赤字で掲げている日弁連のウェブサイト
リンク許可条件の修正理由を赤字で掲げている日本弁護士連合会のウェブサイト

「リンクの自由」は、古くて新しい問題だ。他のサイトからリンクを張ることはいわゆる「参照」の範囲内で、著作権侵害には当たらないと考える専門家は多い。リンクをたどる場合はユーザーが直接リンク先へのアクセスをたどっているのであり、コピーされたコンテンツを見ているわけではないからだ。またリンク先のウェブサイトはもともと公開されているもので、「リンクを張られることを快く思わないのであれば、そもそもWWW上にコンテンツを公開すべきではない」と指摘する専門家もいる。日弁連傘下の弁護士の中にもこうした意見を発表している人は多く、日弁連の方針との食い違いがかねてから指摘されてきた。

その一方で、公的機関や企業、あるいは個人のウェブサイトでも「無断リンクはお断りします」と記しているところは少なくない。無断リンクは法的には問題がなくとも、「礼儀としてリンクの許可を求めるのが当然ではないか」という声も多い。また、リンク先のコンテンツをフレーム内に表示し、あたかも自分のウェブサイト内のコンテンツであるかのように見せる手法に関しては、著作権侵害に当たるケースもあり、さまざまな議論が続いている。

修正は不十分なものにとどまっている――後藤斉東北大助教授

日弁連が厳しいリンク許可条件を求めていたことについて、リンクの問題に詳しい東北大学の後藤斉助教授に聞いた。

「今回の問題を精いっぱい好意的にとらえれば、おそらく日弁連はウェブのリンクについてあまり深く考えずにこのような条件を設けていたのであろう。権利に敏感であるがゆえに、自分の権利のみを守ろうとしての勇み足であると信じたい。しかし、リンクは表現の自由の一環であり、もっと真剣に考えるべきことがらである。
リンクとは何だろうか。あるウェブページの中で、テキストのある部分にあるマークアップを施すことにほかならない。リンクを張ったからといって、サイト間に特別の連携関係があることを示すものではないし、リンク先サイトがすでに公開のものなら、その権利を侵害することにもならない。したがって、文章や画像などページ全体の構成要素がそうであるように、リンクはそのページの作者の表現の自由に属する。リンクを張る際にリンク先の許諾を得なければならないという主張には、技術的にも法的にも根拠がない。『無断リンク』などという言葉もあるが、リンクはそもそも自由なのである」

「むしろ、リンクを張られる側がリンクを禁止したり、制約したりしようとすることこそ、リンクを張ろうとする人の表現の自由を侵す可能性がある。もちろん表現の自由とて無制限ではなく、他の自由との調整を必要とすることもあろう。リンクに伴う文章中の表現が名誉毀損に当たる場合などがそうである。しかし、ウェブ上の名誉毀損はまずウェブ上の対抗言論によって回復を図るべきであって、あらかじめ言論を封じることは社会とインターネットとの共存のあり方として健全ではない」

「まして日弁連は公的な性格をもった団体であり、広く社会からオープンな批評を受けるべき立場にある。しかも、法律家の専門団体として、『自由』や『人権』に関して社会一般を啓発する責務を期待され、自任しているのではないだろうか。そのような団体の公式サイトが、『原則として自由』といいながら、実はきわめて制約の強いリンク許可条件を課すという自己矛盾を犯していたことは、モラルの上からも大きな問題である。とりわけ、住所氏名電話番号等の個人情報を含めた事前の報告を求めていた点は、極めて不当であって、容認できない。これは『日弁連に関する文章の公表は、個人情報を添えて事前に報告すること。日弁連が不適切と判断した場合は許可しない』という検閲制度を課しているのと同じなのだが、このような不当な規定は無効である。さらに、このような実効性を担保しえない規定を麗々しく掲げていたことは滑稽でさえある」

「とはいえ、日弁連がこのようなリンク許可条件を掲げていたことは、その社会的な存在の大きさを考えると、悪影響ははかりしれない。残念なことに、これは例外ではない。これまでも日本新聞協会、日本ユニセフ協会など似た立場にある団体が厳しいリンク許可条件を掲げている。一般の企業・団体のサイトや個人サイトでリンクに種々の制約を課しているサイトは多いし、学術サイトや官公庁サイトの一部さえリンクに制約を課すところがある。日弁連のリンク規定はそのような悪弊を拡大再生産しかねない。
 このようなリンク許可条件を見ると、そのサイトがウェブによって社会とどう関わろうとしているかが判断できるかもしれない。まるでウェブを使って一方的なプロパガンダを強圧的に社会に垂れ流そうとしているかのようではないか。個人のサイトならば笑って済ませられるかもしれないが、まっとうな機関・団体・企業のサイトが取るべき態度ではない。これまでのところは単に考えが足りなかっただけだと解釈しておこう。日弁連および同様にリンク許可条件を掲げているウェブサイトには、今回このことが広く話題になったのを機会にリンクの自由についての認識を深め、自サイトのリンク許可条件を再考した上で、撤廃することを強く要望したい」

「さて、6月13日付で、日弁連のリンク条件は、一部修正された。事前報告制や不当な個人情報の収集を取りやめたことなどは、肯定的に評価できる。なお、これは内容の修正であって、日弁連が言うように単に『表現』や『表記』の問題ではない。
 しかしながら、修正は不十分なものにとどまっている。特に、『原則として自由』といいながら『日本弁護士連合会が判断し、リンクの解除を求めたときには、ただちにこれに応じていただきます』としている点は、依然として不当である。繰り返しになるが、リンクの自由は表現の自由の一部であって、リンクにはリンク先の許諾が必要であるという主張には、技術的にも法的にもモラル的にも根拠がない。日弁連も認める通り、『リンク元サイトのコンテンツ及び同サイト運営の責任は、全てリンク元サイトの管理者等に帰属し、日本弁護士連合会とは無関係』である。この二項目が互いに矛盾していることに気がつかないとは、まったく理解しがたい。
 日弁連は、相手の判断によって容易に取り消すことができるものを『自由』と呼んではばからないのであろうか。日弁連が表現の自由をその程度に軽く考えているのだとすれば、あまりにも悲しい」

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