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イー・アクセス、事業戦略説明会を開催──今秋に8M超の高速ADSLサービス開始

2002年05月08日 22時34分更新

文● 編集部 佐々木千之

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イー・アクセス(株)は8日、都内で報道関係者やアナリストを集めて事業戦略説明会を開催した。席上、取締役兼CTO(最高技術責任者)の小畑至弘氏は、8Mbpsを超えるADSLサービスを今秋に開始する計画を発表した。線路長(※1)が約1.5kmまでに限定されるが、10~12Mbps程度の通信速度が可能としている。

※1 線路長:線路距離長。ユーザー宅からその電話回線が収容されている電話局(収容局)までの、電話回線の長さ。電話回線は道に沿って建てられた電信柱に敷設されるため、ユーザー宅と収容局の単純な直線距離よりも長くなる。

8Mbps超はプレミアサービスとして展開

小畑氏によるとこの8Mbps超サービスは、線路長が約1.5km以下のような、現在提供している8Mbps ADSLサービス(G.gmt)をほぼ上限の通信速度で利用できているユーザーを対象としている。8月に試験サービスを開始し、秋には商用サービスを開始するとしている。試験/商用サービスを提供するISPなど詳細については明らかにしていないが、試験サービスは首都圏で行なわれる見込み。

イー・アクセス取締役兼最高技術責任者の小畑至弘氏
イー・アクセス取締役兼最高技術責任者の小畑至弘氏

このサービスはG.gmtよりも条件が厳しいため、申し込みのあったユーザーすべてに提供するのではなく、“判定ツール”を使って回線情報を調査し“高速化が見込まれる”ユーザーに対してのみ提供するという。通信速度は「10~12Mbpsも可能だと考えている」(小畑氏)としており、G.gmtの1.5倍程度を想定している。料金についても明らかにしていないが、収容局が近いユーザー限定となるため“プレミアサービス”としての提供になるとしており、現在のサービスよりは高めの料金設定となると思われる。

小畑氏は、線路長で500m以内というようなユーザーを対象にして通信速度16~20Mbpsというような高速サービスについても言及したが、「ユーザー数が非常に限定されるプレミアサービスになる」として、実際の商用サービスとしての展開については消極的な姿勢を見せた。

これとは別に、8日付で通信の安定性と最大通信速度の若干の向上など、ADSL品質を改善するというADSLモデムの新ファームウェアを公開したことも明らかにした。これは、同社がADSLアクセスサービスで使用しているADSLモデムメーカーである住友電気工業(株)、NECアクセステクニカ(株)、クリエイティブメディア(株)と共同で開発したもので、年初からフィールド実験を行なっており、ネットワーク側の対応はすでに終了しているという。小畑氏の説明によると、通信速度の向上についてはすべてのユーザーで改善されるものではないが、多くのユーザーでは「ちょっと良くなる」、一部のユーザーでは「すごく良くなる」という。安定性の改善は、おもにAMラジオ放送によるノイズ干渉に対する耐性を強化したもので、「ISDNの干渉と並ぶ日本固有の問題」(小畑氏)についての対応としている。

また、線路長が長く従来のADSLアクセスサービスでは十分な速度が得られないようなユーザーへの対応については「標準のAnnex C(の拡張)で行ないたい。距離に関してはAnnex Cの拡張で何とかできると考えている」(小畑氏)と述べて、独自の技術規格を作るのではなく標準規格としてサポートする考えを明らかにした。この問題については(株)アッカ・ネットワークスも、4月9日に開いた事業戦略説明会で、Annex Cを拡張して標準化することで対応できるとしている。両社が考えるAnnex Cの拡張の詳細については不明だが、標準化を目指すということから、国内の標準化機関である(社)電信電話技術委員会において技術検討されていると考えられる。

このほか、ビー・ビー・テクノロジー(株)、ヤフー(株)らソフトバンクグループと日本マクドナルド(株)が7日に発表した無線インターネットサービスのようなサービスの展開については「時期尚早」(小畑氏)として、当面予定がないとしている。IP電話については、同社はマイクロソフト(株)と提携し、『Windows Messenger』などのソフトウェアを使ったサービスを行なっているが、ヤフーが展開しているような電話機を使ったサービスについては、IP電話の機器仕様が統一されるまでは行なわないことを明らかにしている。

2001年度は加入者・売り上げが13倍に

イー・アクセス代表取締役社長の千本倖生氏と代表取締役兼最高財務責任者のエリック・ガン(Eric Gan)氏が、事業状況の概要と業績について説明を行なった。

代表取締役社長の千本倖生氏
代表取締役社長の千本倖生氏

千本氏は2002年3月末で累積加入者数237万8795人という、総務省発表の数字を挙げながら「DSL加入者は政府の見込みを大きく上回って急激に成長した。FTTHは政府予測を下回っており、日本のブロードバンド市場はDSLが牽引している」と述べた。伸び率についてもADSL先進国である米国や韓国を上回る増加数となっているという。今後の市場予測については、いくらか鈍化するものの伸び続け、2005年3月末で1249万2000人という予測を示した。

イー・アクセスのサービス提供エリアとサービス開始局数のグラフ
イー・アクセスのサービス提供エリアとサービス開始局数のグラフ

イー・アクセスの加入者は2001年3月末に約2万人だったものが、2002年3月末には約25万人、アクセスサービスによる売り上げも約4億円から約52億円と、いずれもおよそ13倍と飛躍的な伸びとなったという。この結果同社は、2002年度中にEBITDA(金利・税金・償却前利益)で黒字化し、2003年度には純利益が計上できるとの業績見通しを明らかにした。

代表取締役兼最高財務責任者のエリック・ガン
代表取締役兼最高財務責任者のエリック・ガン

ガン氏は、この1年間で電話回線使用料が800円から173円に下がったこと、NTT東西が保有するダークファイバー(※2)の全面開放、ADSLモデムなど機器コストが2~3分の1に下落したことなど、事業環境が好転した述べた。さらにこれに加えて、東京・大阪・名古屋圏で日本のインターネット人口の約70%をカバーできるという設備投資効率の良さや、ほかのブロードバンドサービスと比べた場合の料金の安さといったことから、海外の事業者と比較しても大きな加入者成長率と早い黒字化達成が期待できるとした。

※2 ダークファイバー:敷設済みだが現在使用していない光ファイバー。

また千本氏は、米国でADSL加入者の伸びが止まったのは、米コバッド・コミュニケーションズ社に代表されるようなベンチャー系事業者が倒産(Chapter11を申請)したことで、電話会社による独占的なサービス提供となり、サービス料金が30数ドル(約4000円)から50ドル(約6400円)に上昇したことが原因だとする持論を展開し、「日本ではNTTの独占状態にならないよう、(事業の)中身がきっちりとした事業者を育てて、NTTに対抗できるようにすることが大切だ」と強調した。

FTTH事業への参入についての質問も出たが、「DSLはここ当面は一番いいビジネスだという私の判断でイー・アクセスを起こした。10年先は光ファイバーをやっているかも知れない」(千本氏)と答え、アクセスサービスとして最も有利な展開ができるためにADSLサービス事業を行なっているもので、特に限定するものではなく、状況が変われば柔軟に対応していくという従来の立場を繰り返した。

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