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最高裁、中古ゲームソフト販売でメーカーの上告を棄却

2002年04月26日 02時44分更新

文● 編集部 田口敏之

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最高裁判所(井嶋一友裁判長)は25日、東京高等裁判所と大阪高等裁判所で争われた“著作権侵害差止請求訴訟”および“著作権侵害差止請求権の不存在確認訴訟”、いわゆる中古ゲームソフト販売訴訟の結果についての上告審で、ゲームソフトメーカー側の上告を棄却し、中古ゲームソフトの流通販売を認める判決を言い渡した。なお今回の判決は、裁判官5名の全員一致によるもの。

最高裁判所
東京都千代田区の最高裁判所

今回の判決は、東京高等裁判所の判決に対する(株)エニックスからの上告と、大阪高等裁判所の判決に対する(株)カプコン、コナミ(株)、(株)スクウェア、(株)ナムコ、(株)ソニー・コンピュータエンタテインメント、(株)セガの5社からの上告に対して言い渡されたもの。被上告人は前者が(株)上昇、後者が(株)ライズと(株)アクト。

今回の判決の重要なポイントについて、以下に判決文から3点を抜粋する。

  • 本件各ゲームソフトは、映画の著作物に当たり、その著作権者は頒布権を有するが、大量の複製物が製造され、その一つ一つは少数の者によってしか視聴されないものであるから、頒布権の対象となる「複製物」に該当せず、上告人は、本件各ゲームソフトの中古品の販売の差止請求権を有しない
  • 本件のように公衆に提示することを目的としない家庭用テレビゲーム機に用いられる映画の著作物の複製物の譲渡については、市場における商品の円滑な流通を確保するなど(中略)の観点から、当該著作物の複製物を公衆に譲渡する権利は、いったん適法に譲渡されたことにより、その目的を達したものとして消尽し、もはや著作権の効力は、当該複製物を公衆に再譲渡する行為には及ばないものと解すべきである
  • 仮に、著作物又はその複製物について譲渡を行う都度著作権者の許諾を要するということになれば、市場における商品の自由な流通が阻害され、著作物又はその複製物の円滑な流通が妨げられて、かえって著作権者自身の利益を害することになる

分かりやすく言えば、ゲームソフトは映画の著作物であり、著作権者であるゲームソフトメーカーは、その流通をコントロールする権利(頒布権)を持つ。しかし、ゲームソフトはCD-ROMなどで大量に製造され、その1つ1つを購入してそれぞれを利用するのは少数の人間のみだから、頒布権の対象となっている映画のプリントフィルムなどと同等には扱われない。メーカー側の頒布権は、ゲームソフトがいったん正規の流通ルートを経て販売された時点で消滅し、それ以降行なわれる中古ソフトの売買などには及ばないということになる。

この判決の後、中古ゲームソフト販売店らと、ゲームソフトメーカーを代表する(社)コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)はそれぞれ記者会見を行ない、声明文を発表するとともに自らの考えを語った。

ARTS、上昇、ライズ、アクト記者会見――本判決を高く評価

テレビゲームソフトウエア流通協会(ARTS)代表理事の新谷雄二氏
テレビゲームソフトウエア流通協会(ARTS)代表理事の新谷雄二氏「この上は、関係するハードメーカー・ソフトメーカー・業界団体の皆様が私たちとの正常な関係構築に向け誠意を示していただくことを期待する」

販売店側の代表である、テレビゲームソフトウエア流通協会(ARTS)代表理事の新谷雄二氏((株)アクト代表取締役社長)は「本判決を高く評価し、裁判所に敬意を表する。また、われわれを支援してくださったユーザーの皆さまや、ARTS加盟店の皆さまに、心から御礼申し上げたい」と述べ、「この上は、関係するハードメーカー・ソフトメーカー・業界団体の皆様が私たちとの正常な関係構築に向け誠意を示していただくことを期待する」と語った。“正常な関係の構築”に向けた具体的な施策について同氏は「現在のゲームのハードの掛け率は90%以上になっているし、ソフトにしても小売りに対して80%以上の値段で卸されている。ほかの著作物に対して、これは異常な形になっているのではないかと考えている。これを正常な値に戻していただきたい。また現在、ゲームのパッケージに“ノーリセール”と掲載している会社があるが、これも早急に是正していただきたい。まずはメーカーに、今の不自然な流通の部分を是正していただいて、話し合いのテーブルについていただければ、話は前に進むのではないかと思う」と語った。

藤田
販売店側弁護団の藤田康幸弁護士「諸官庁および団体は、司法の判断と世界の常識を尊重し、消費者の本当の利益を守り、国民の利益を健全なバランスがとれた権利保護のあり方や取引慣行を構築してほしいと思う」

また、販売店側弁護団の藤田康幸弁護士は「最高裁は、著作権の究極の目的である文化の発展について良識ある判断を示されたと考えている。そもそも、メーカー側による差止訴訟の提起自体が不当なものであったと考えている。日本においてだけ、またゲームソフトについてだけ、無制限に流通をコントロールする権利を認め、特別な保護をすべき合理的理由は考えられない」と述べ、「本判決に先立って、2001年8月1日に、公正取引委員会から、ソニー・コンピュータエンタテインメント(株)に対して、中古販売の禁止などの取引方法についての排除措置命令が出ている。これは本件とは無関係でなく、中古販売禁止を含むゲームソフトの取引方法が、公正取引上多くの問題を含んでいることを明確に示している。本判決はこの是正に向けて、大きく前進したものと考えている」と語った。

また藤田弁護士は、今後への要望として「本件に関連して、メーカー側の団体によって“中古撲滅キャンペーン”なるものが展開されていた。これはメーカーが広い視野に立つことなく、ユーザーの正当な利益を無視しようとしたことに原因があったと言える。関連するメーカー、諸官庁および団体は、司法の判断と世界の常識を尊重し、消費者の本当の利益を守り、国民の利益を健全なバランスがとれた権利保護のあり方や取引慣行を構築してほしいと思う」と述べた。

金岡(株)上昇の代表取締役社長の金岡勇均氏「中古の売買によって、新製品の価格が上がるなどというのは事実の歪曲」

質疑応答の場において出た、この判決を受けてゲームソフトの価格が上昇するのではないかという質問に対しては、(株)上昇の代表取締役社長の金岡勇均氏が「どの小売店でも、利益率は最大15%も無い。これは、ディスカウンターでも商売が成り立たない利益率だということをご理解いただきたい。だから、中古の売買によって価格が上がるなどというのは事実の歪曲。現状でもわれわれの利益がメーカーから一方的に阻害されているのに、中古が販売を行なうと価格を上げざるを得ないというのはおかしい。価格は、ユーザーの意志によって決まる。価値のあるものは高くても売れるし、中古販売店も良い商品はできるだけ高く買い取るという市場原理で動いている」と答えた。また、新谷氏も「中古と新品とで競争原理が働くので、逆に安くなっていくと思っている」と答えた。

また、今後ネットワークゲームの普及などによって、中古市場が衰退していくのではないかという質問に対しては「ネットワークが普及していくこと自体は否定していない。われわれ小売店が、ネットワークに勝るサービスを行なっていけば大丈夫。それに、パッケージソフトは無くならないと考えている」と答えた。

ACCSは記者会見で、デジタルネットワーク時代に合った法制度を

一方、ACCSの記者会見においては、ACCS専務理事 事務局長の久保田裕氏が「私どもゲームソフト制作会社の主張が退けられる結果となったのは大変残念。この判決によって、デジタルコンテンツの中核ともいえるゲームソフトの著作権保護について現行法が対応できていないことが明らかになったと言える。そこで、デジタルネットワーク時代に合った、新たなルール作りをゲームソフト産業界が率先して行ない、それを元に法制度を早急に整える必要がある」と語った。

久保田
ACCS専務理事 事務局長の久保田裕氏「デジタルネットワーク時代に合った、新たなルール作りをゲームソフト産業界が率先して行ない、それを元に法制度を早急に整える必要がある」

加えて同氏は「デジタルコンテンツは中古販売されても、中身の情報自体は何ら劣化することはない。それがリサイクルされれば、ユーザーは、同じ情報であるなら安い方が良いということで中古を購入するだろう。そうなると、市場には初期ロットしか出回らず、新製品のための開発費がメーカー側に入ってこない。この場合、情報を生み出した側が流通をコントロールできないというのは、本当にいかがなものかと考えている」と述べ、「ゲームクリエイターに対する、業界の中での報酬システムにも根本的な問題がある。一番大事なのは、情報を生み出す人たちには対価が支払われて、それで再び情報が生み出されるということ。今回の裁判では、いろいろな問題提起が副産物として生まれており、これは良かった思っている。中古市場が存在し得ない市場というのもまた問題だし、中古ソフト市場だけに拘泥せず、根本的な問題に立ち返って検討していきたい」と語った。

前田
ACCSの弁護団の1人である前田哲男弁護士「特許製品の事例がそのままゲームソフトに当てはめられることになった」

ACCSの弁護団の1人である前田哲男弁護士は「われわれは本裁判において、デジタル著作物の権利の違いについて説明してきたが受け入れられず、特許製品の事例がそのままゲームソフトに当てはめられることになった。また、『公衆に提示することを目的としない家庭用テレビゲーム機』とあるが、本当に公衆に提示しないことを目的としていないのか、判決もまだ解釈の余地がある」と語っている。

質疑応答の場において出た、新たな法制度についての質問に対して、久保田氏は「業界の中でルール作りをするのであれば、われわれはそれをサポートする。今回の判決は、それがようやく緒についたと見ることもできる。一昨年の2月にわれわれは、集中管理事業法を適用させて、一定の使用料を支払うことで3者間の調整を取るという、JASRAC((社)日本音楽著作権協会)が用いている方式を、アイデアとして出したこともあった。しかし、頒布権は消尽してしまうという判決が出たことから、さらなるルール作りをしていこうと考えている」と答えた。

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