このページの本文へ

東大柏キャンパス一般公開――400台の反射望遠鏡で宇宙線源を探せ!! 世界最強の磁力発生機も!!

2001年11月04日 23時19分更新

文● 編集部 中西祥智

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

東京大学は2日および3日の2日間、千葉県柏市の柏キャンパスを一般に開放した。柏キャンパスには、物性研究所、宇宙線研究所、大学院新領域創成科学研究科がある。今回の一般公開では、各研究室が一般向けにわかりやすく研究内容を説明したほか、ノーベル化学賞を受賞した白川英樹筑波大学名誉教授による講演なども行なわれた。

最高エネルギー宇宙線源を探せ!!

宇宙線研究所の“TA(Telescope Array) Project(宇宙線望遠鏡計画)”は、地球に降り注ぐ“最高エネルギー宇宙線”を観測する、宇宙線望遠鏡のプロトタイプを公開した。

宇宙線望遠鏡の凹面鏡
宇宙線望遠鏡の凹面鏡。基本的な構造は、光学反射望遠鏡と変わらない。鏡面上に橋のように乗っている機器は、鏡面の湾曲を測定する装置

最高エネルギー宇宙線とは、1993年に宇宙線研究所の明野観測所が“AGASA(Akeno Giant Air Shower Array)”という宇宙線観測機で発見した、従来の想定を超える高いエネルギーの、素粒子やガンマ線などの宇宙線(これまでの定説では、宇宙線のエネルギーは1020電子ボルトを超えることはないと考えられていた。)。最高エネルギー宇宙線の起源としては、ビッグバンの初期に生成された粒子の崩壊や、活動銀河核(※1)など、いくつかの説がある。

※1 特に激しく活動している銀河の中心で、可視光線やγ線、x線など、あらゆる波長の電磁波を発しているもの。その正体は、巨大なブラックホールだと考えられている。

正面から見た宇宙線望遠鏡正面から見た宇宙線望遠鏡。上部の構造物に光電子増倍管を搭載し、凹面鏡で集めた紫外線を測定する

公開した宇宙線望遠鏡は、最高エネルギー宇宙線が大気中の窒素と衝突した時に発する紫外線を観測して、宇宙線を測定するというもの。基本的な構造は光学反射望遠鏡であり、直径約3mの凹面鏡で集めた紫外線を、256本搭載する光電子増倍管で計測する。凹面鏡は18枚の6角形の鏡で構成され、それぞれの角度は手動で微調整する。

光電子増倍管
光電子増倍管。64基実装しているが、実際には256基を搭載する。フィルターをかけて紫外線以外の光線の通過を阻止する

TA Projectは、アメリカ・ユタ州において、この宇宙線望遠鏡1ステーション(40台)を30km間隔で10基、合計400台並べて、最高エネルギー宇宙線を観測することを計画している。観測感度の下限は1016電子ボルト。従来のAGASAでは年に1例しか観測できなかったが、今回の宇宙線望遠鏡ではその60倍、月に5例程度の観測が可能になる。

費用は1ステーションあたり、インフラも含めて約6億4000万円、総額で65億円程度。2005年に観測開始を予定しており、2002年度予算での計画の承認を目指している。なお、アメリカの研究機関との共同研究も予定しているという。ただし、現在の国の財政状況では、予算がすんなり承認されるかどうかはわからないという。

凹面鏡の背面
凹面鏡の背面。文部科学省国立天文台がハワイ・マウナケア山上に設置した赤外線望遠鏡『すばる』では、巨大な1枚板の凹面鏡の歪みを、背面のアクチュエーターが自動的に補正するが、この宇宙線望遠鏡では個々の鏡の背後の支持柱を手動で微調節する

重力波の存在を証明せよ!!

宇宙線研究所の重力波グループでは、重力波を検出する“低温鏡レーザー干渉計”を公開した。これは、“ファブリーペロー・マイケルソン干渉計”と呼ばれるタイプのもの。

低温鏡レーザー干渉計低温鏡レーザー干渉計。中央を通る約20mのパイプの中を、赤外線レーザーが往復する

一般相対性理論では、重力とは時空の歪みだとされている。そして、電荷を帯びた粒子が加速度運動をすると電磁波を発するのと同様に、質量をもつあらゆる物体が運動すると、高速で伝わる時空の歪みである“重力波”を放出すると考えられている。すでに、2重中性子星の軌道解析により、重力波としてエネルギーを放出していることが間接的に証明されているが、直接的にはまだ検出されていない。

パイプの両端に取り付けられた冷却機
パイプの両端に取り付けられた冷却機。この中にレーザーを反射するサファイヤガラスでできた鏡がとりつけられている
サファイヤガラス
これがサファイヤガラス。1千万分の1mmの精度で、表面が磨かれているという

レーザー干渉計は、赤外線レーザーをパイプの中で往復させる。レーザーは“ビームスプリッター”というプリズムで2方向に分けられる。反射を繰り返したレーザーは、再びビームスプリッターで1つにまとめられて、検出器で計測する。それぞれの光路の長さが重力波による時空の歪みで伸縮すると、戻ってきたレーザーの往復時間にずれが生じるため、重力波が測定できる。同グループの干渉計の特徴は、装置を希釈冷却によって絶対温度20Kまで冷却することにある。熱を持つ物体は常に振動しているため、冷却することによってそのノイズを除去する。

干渉計のモニター
干渉計のモニター。人間が手を叩いた程度でも、大きく反応する

現在、同グループでは、長さ3kmのレーザー干渉計を岐阜県神岡鉱山の地下に建設する“kmスケール低温重力波望遠鏡計画(LCGT)”を推進している。LCGTが完成すると、約2億光年先からの重力波も観測できるという。米国では長さ4kmのレーザー干渉計を建設しているが、重力波を検出できる確率は250年に1回、それに対してLCGTでは3ヵ月に1回の確率で検出できるとしている。総工費は150億円程度で、2005~6年の稼動を目指して、現在国レベルでの予算化を図っている。

世界最高の磁場を!!

また、物性研究所の超強磁場実験室では、“電磁濃縮法”によって600テスラという、研究室レベルでは世界最高という超強磁場を発生する装置が公開された。

超強磁場発生装置
超強磁場発生装置。研究員の方によると「研究室と言うよりは、町工場に近い」とのこと。ただし、そこにある機材はとても高価

電磁濃縮法とは、弱い磁場を一気に圧縮して高い磁場を得る方法。コイルに400万アンペアという高い電流を流すと、コイルの中に入れた銅製のリング(ライナー)に、逆向きの誘導電流が流れる。その反発する力でライナーは一気に押しつぶされ、あらかじめ内側に入れておいた“種磁場”を圧縮して、瞬間的に600テスラという超強磁場を作り出す。

使用前のコイル
使用前のコイル。無造作に床に置いてあった。この中に、銅製のライナーというリングを入れ、種磁場となる電磁石および検査対象の物質を入れる
使用後のコイル
使用後のコイル。床にいくつも並んでいた。分厚い鉄製のコイルがこれほど捻じ曲がってしまうことからして、実験の、爆発の大きさがよく分かる

ただし、この方式ではコイルも、また検査対象の物質も破壊してしまう。実際、実験はほとんど爆発に近く、装置は分厚い「装甲」で覆われている。実験する際には館内放送でサイレンが鳴り、実験と同時に大きな爆発音と振動が建物を揺さぶる。

装置内部
装置内部。中央の明るく光る円形の空洞にコイルを入れる

それだけ強力な磁場を作って、どうするのか。関係者によると、「それが今後の課題」だという。

振り子重力波グループの実験室にあった振り子。地面の振動などの影響を排除するためだろうが、このような振り子状の実験器具が、数多く置かれていた。
空飛ぶコマ
物性研究所で展示していた空飛ぶコマ。永久磁石の反発する力が、コマを空中に浮かべている。ただし、バランスをとるのが難しく、少しでも左右にブレると、落ちてしまう

大学側によると、国立大学の独立行政法人化を見越して、すでに企業との共同研究なども行なっているという。柏キャンパスでも、物性研究所が地元の印刷企業と共同で、レーザーで印刷用の版下を製作する技術を開発している。だが、直接ビジネスに結びつく研究ばかりをしていたのでは、全体の科学技術のレベルは向上しない。昨日の価値観で「それが何の役に立つの?」と言われていたような研究でも、翌日になると一転して非常な注目を集めた、といった例が数多くあるという。

今回の一般公開では、すぐにでも実用化されそうなものから一見無意味に見えるものまで、さまざまな研究内容が公開された。仮に独立行政法人になったとしても、そういった多様な研究活動が行なわれることを期待したい。

光電子増倍管
スーパーカミオカンデの光電子増倍管。スーパーカミオカンデは、岐阜県神岡町の神岡鉱山の廃坑の下、地下約1kmに建設された世界最高のニュートリノ観測施設。直径39m、高さ41mの円筒形のタンクを約5万トンの純水で満たし、周囲を1万3000本のこの光電子増倍管で取り囲んでいる。ニュートリノが水と反応すると荷電粒子が高速でたたき出され、その粒子が水中を走るときに発生する“チェレンコフ光”という青白く弱い光を光電子増倍管によって観測する
ニュートリノの観測事例
高エネルギー加速器研究機構から発射されたニュートリノを、スーパーカミオカンデで観測した結果

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン