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JASRAC、店内BGMへの著作権料課金を開始!!――楽曲への電子透かしで4社を技術認定も発表

2001年10月20日 01時00分更新

文● 編集部 中西祥智

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(社)日本音楽著作権協会(JASRAC)は19日、JASRAC本部で記者会見を開催し、店内BGMの著作権管理を2002年4月1日に開始すると発表した。

JASRAC記者会見
JASRAC記者会見。左から5人目が星野哲郎会長、4人目が吉田茂理事長、6人目が加藤衛常任理事、3人目が細川英幸常任理事

会見の冒頭、10月1日の評議員会で選任された星野哲郎会長が挨拶した。その10月1日には、著作権等管理事業法(※1)が施行されたが、星野哲郎会長は「新しい法律が施行され、好むと好まざるとに関わらず、複数の事業者と競争しなければならない」状況になったと述べた。同時に「米国での視察でも感じたが、JASRACほどプロが揃っている所はない」とし、「権利者から信頼されること、音楽を利用する人の利便性の向上、JASRACの社会的使命を国民に正しく理解してもらうこと」の3つを推進していくと、抱負を語った。

※1 従来の仲介業務法(著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律)では、著作権の管理事業は許可制となっていた。しかし、著作権等管理事業法では登録制となり、新規参入が容易になった。

星野哲郎会長
星野哲郎会長。『あんこ椿は恋の花』や『三百六十五歩のマーチ』を作詞した作詞家

BGMも試聴も、著作権料の支払いが必要?

会長挨拶に続いて、理事長の吉田茂氏および常任理事の細川英幸氏は、著作権法附則14条(※2)の廃止によって、店内BGMにも著作権が及ぶことを語った。

※2 1934年制定の旧著作権法では、レコード演奏に著作権は及ばないとされ、また1970年の同法改正の際にも放送および有線放送、店内BGMなどは著作権が制限された。しかし、著作権に関する国際条約“ベルヌ条約”に違反する可能性があり、1999年6月15日に著作権法は改正された。施行は2000年1月1日。

吉田茂理事長
吉田茂理事長。元文化庁長官

店内のBGM放送には、CDなどの録音物の再生と有線音楽放送がある。JASRACは著作権法改正にともなって、録音物の再生演奏および有線音楽放送を店内で流す“公衆送信の伝達”についての管理を2002年4月1日に開始するという。

新たに管理の対象になるのは、飲食店や一般の小売店、コンビニエンスストア、百貨店、ホテル、遊園地など、約120万件。この内約90%が、有線音楽放送を利用しているという。ただし、これらを1件1件まわって適法に利用するよう説くのでは、日数と経費がかかり過ぎるため、JASRACでは“元栓”での著作権管理を行なう。つまり、有線音楽放送事業者やBGM用音源の貸し出し事業者が、著作権料を支払うことになる。すでに10月2日に文化庁長官に使用料規定の届け出を行なっており、これによって、90%以上の案件での適法利用が可能になるという。

1施設あたりの使用料金は、一般の店舗で500m2までが年額6000円、1000m2で1万円、3000m2で2万円など。ホテルなどの宿泊施設では、宿泊定員が100人までが年額6000円、200人までで1万円、300人で2万円などとなっている。また、有線音楽放送事業者などが、すべての顧客のために包括的利用許諾契約を結ぶ場合は、その事業者の前年度の営業収入の100分の1を支払う。

細川英幸常任理事
細川英幸常任理事

ただし、福祉や医療、教育機関、また従業員のみを対象とした事務所や工場などでの利用は、当分の間使用料を免除する。包括的利用許諾契約については2002年度は営業収入の1000分の6とし、2005年度まで段階的に引き上げる。また、レコード店の店内BGMおよび試聴については、レコードのプロモーションであるため、著作権料は発生しない。インターネット上での音楽配信では、試聴の場合は45秒以内であれば、著作権料を免除する。

今回のBGMへの課金による著作権料の合計は、約2億5000万円。JASRACでは著作権者に、実績・放送の頻度に応じて分配するとしている。

電子透かしの“格付け”では?

また同日、JASRACは音楽電子透かしにおいて、4社を技術認定したと発表した。これはJASRACと著作権管理団体の国際組織である“CISAC(Confederation Internationale des Societes d'Auteurs et Compositeurs:著作権協会国際連合)”および“BIEM(Bureau International des Societes Gerant les Droits d'Enregistrement et de Reproduction Mecanique:録音権協会国際事務局)”が共同で、(株)野村総合研究所に事務局を委託して行なったもの。2000年は“STEP2000”として認定企業を発表したが、今回の“STEP2001”では、具体的な技術水準を設定し、その能力がある企業を選定した。

加藤衛常任理事
加藤衛常任理事

加藤衛常任理事は、昨年より厳しい評価を行なったとし、「透かし技術の実用化には、JASRACとしてもどんどん取り組んでいきたい」と語った。

次に、松尾秀城野村総研e-ナレッジ事業部主任コンサルタントが、詳細な説明を行なった。それによると、今回の技術評価では、評価対象の課題曲で、15秒以内のタイムフレームに2bit、30秒以内のタイムフレームに72bitの透かしデータを挿入する。そこで、以下の測定を行なう。

  1. 耐性……音楽利用のためのさまざまな処理、たとえば、D/A変換後さらにデジタルに戻しても、あるいはMP3圧縮を行なっても、透かし情報が抽出できる。ただし、挿入していないデータが透かしとして抽出されず、また抽出された透かしデータが挿入したそれとまったく同一であることが、前提となる。
  2. 音質……透かしデータを挿入した音楽をスタジオ内で再生し、4人づつの“Golden Ear”、“Silver Ear”と呼ばれる優れた聴覚を持つ人が聴いても、透かしが入っていることが認知されない。

この2つの測定の結果、耐性については“利用可能な技術水準”として一般的な楽曲の利用においては、21項目の耐性テストのほとんど(90%程度)で問題がなく、また“インターネット配信に関わる処理”および“放送を想定した処理”では、水準を100%クリアすること。また音質については、音の変化を認識した人の比率が著しく低い(数%以下)こと。

松尾秀城野村総研e-ナレッジ事業部主任コンサルタント
松尾秀城野村総研e-ナレッジ事業部主任コンサルタント

以上の結果、利用可能な水準を定量的にクリアする企業として、米IBM社および米Verance(ベランセ)社を認定した。また、現状では水準を定量的にクリアしていないが、近い将来間違いなくクリアが見込まれる企業として、日本の(株)エム研および韓国MarkAny(マークエニー)社を認定した。

ただし、松尾氏はこの技術認定は決して“格付け”ではないと語る。この技術認定は一定の指針ではあるが、これによって企業の格付けが事実上行なわれている現状を松尾氏は危惧し、なんらかのガイドラインが必要だとしている。また、STEP2001は今回で終了するが、今後については、第3者機関で同様の認定を行うことなども検討したいとしている。

今回の技術認定によって、電子透かしは技術的にはほぼ完成したとJASRACは考えている。JASRACでは、次に考えるべきはこの電子透かしを使ったビジネスのスキームだとしている。

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