日本AMD(株)は10日午前、都内のホテルでデスクトップ向け新プロセッサー『AMD Athlon XPプロセッサ』を発表した。発表会では米AMD社のロブ・ハーブ(Rob Herb)上席副社長兼営業/マーケティング最高責任者が、クロックに代わる性能指標に関するイニシアティブの推進について説明した。
米AMD社のロブ・ハーブ上席副社長兼営業/マーケティング最高責任者 |
日本AMD(株)の堺和夫代表取締役社長の挨拶を受けて登壇したハーブ上席副社長は「日本市場は世界第2のパソコン市場であり、AMDは全面的にコミットしている。世界市場における成功は、日本市場における成功なしにはあり得ない」と述べ、日本の小売り市場においてデスクトップPCの2台に1台、ノートPCの3台に1台がAMDプロセッサーを採用しているという数字を紹介した。
日本の小売市場においてデスクトップPCに占めるADM搭載機の割合。2台に1台がAMDプロセッサーを搭載しているという |
同じく、ノートPCにおけるAMD搭載機の割合。3台に1台に搭載という |
続いてハーブ上席副社長は「世界を動かしているのは競争。競争によってイノベーションが促進され、コンシューマーはーその利益を受けることができる。イノベーションは製品をよりよくしていくものであり、これは顧客に対する暗黙の了解のようなもの。ところがPentium 4においては、より低い性能のためにより高い対価を支払ってしまうという危険性がある」と批判した。
ハーブ上席副社長が示したPentiumシリーズのクロックあたりの処理能力グラフ |
「ほとんどの人はコンピューターにおいて“MHz(メガヘルツ)”(クロック周波数)が性能を示していると考えているが、より進んだユーザーはそれは真実ではないと知っている。コンシューマーにぜひ伝えたいのは、MHzはもはや性能を表わすものではないということだ。コンピューターの性能を比較することは以前より困難になっている」として、真の性能を示す性能指標を定義するためのサポートや、ユーザーがそれらを理解するための支援を行なうための取り組みである、“性能指標に関するイニシャティブ”(TPI:True Performance Initiative)を発表した。
AMDが発表した“性能指標に関するイニシャティブ”。同社がまとめ役となって正確な指標を定義するようサポートするという |
TPIによる新しい性能指標は、Athlon XPで採用しているモデルナンバーとは別のもので、2002年中に“標準的アプリケーションの動作におけるプロセッサ性能を測る、より正確な指標の定義”を行なうとしている。ハーブ上席副社長はまた、TPIの展開と推進のために米AMDの顧客支援担当副社長のパトリック・ムアヘッド(Patrick Moorhead)を、TPI担当議長として選出し、ムアヘッド副社長はフルタイムで作業を行なうと発表した。
日本AMDの小島氏が示したAthlon XPとPentium 4のアプリケーション実行性能グラフ(オフィスアプリケーションとゲーム) |
同じく小島氏が示したアプリケーション実行性能(デジタルメディアおよびデスクトップ総合)の比較グラフ |
発表会では、ハーブ上席副社長に続いて日本AMDコンピュテーション製品グループ テクニカル・マーケティング部の小島洋一部長がAthlon XPの機能と性能を紹介し、Pentium 4との比較ベンチマークなどを行なった。さらに、マイクロソフト(株)の佐藤哲也執行役員が登壇、Windows XP、Athlon XPの2つのXPのマーケティングにおける相乗効果に期待すると共に、協力してマーケティング活動も行ないたいなどと述べた。
日本AMD製のベンチマークテスト“N-Bench”を使って、Athlon XP 1800+とPentium 4-1.8GHzの比較テストが行なわれた。N-Bench以外のベンチマークテストも含めていくつか行なわれたが、いずれもAthlon XPの勝利となった |
これも小島氏が示した、Athlon XP 1800+とPentium 4-1.8GHzとのベンチマークテストの比較。Athlon XPが上回っているものが多い |
スピーチ後の記者団との質疑応答では、Athlon XPが採用した性能指標“モデルナンバー”と“TPI”に質問が集まった。質問に対してはほとんどハーブ上席副社長が返答した。以下主なものを掲載する。
(左から)日本AMDの堺和夫代表取締役社長、マイクロソフトの佐藤哲也執行役員、米AMDのハーブ上席副社長 |
ハーブ上席副社長や小島部長はスピーチの中で、Pentium 4のクロックあたりの処理能力がPentium IIIのそれより下がったことに対して「消費者の期待に応えなかった」と批判しているが、これはAthlon XPの発表記事にも書いたように、インテルはPentium 4においては、クロックあたりの処理能力を低くする代わりにそれを上回るクロック向上を目指したためだ。Pentium IIIが1GHzを超えるのに苦労していたのに対し、Pentium 4ではすでに2GHzを超えていることからも明らかだ。これはインテルとAMDの、“消費者の期待にどう応えるか”についてのアプローチの違いであって、ことさらに強調すべきことではないだろう。従来比1.44倍の性能を得るために、クロックあたり処理能力を1.2倍、クロックを1.2倍にするのと、クロックあたり処理能力を0.8倍にした代わりに、クロックを1.8倍にするという違いの話だ。
すっきりしないのは、今回持ち出した“モデルナンバー”が、Pentium 4のクロック周波数と混同しそうな数字になっていながら直接の関係はなく、またその数字を導くためのはっきりとした根拠も示していないということによる。(※1)Athlon XPがさまざまなベンチマークでクロックで上回るPentium 4よりも優れた結果を叩き出していることは間違いのないところであり、“暫定的”とした上でモデルナンバーという曖昧な数字を持ち出さなくとも良かったのではないかと思える。が、これにはPentium 4の低価格攻勢により業績が悪化し(※2)、従業員のレイオフなども発表している状況であり、性能の高さをアピールすることで少しでも高い価格でAthlon XPを売りたいという、マーケティング上の決定によるものと考えられる。異なるアーキテクチャーのプロセッサー性能を客観的に示すことは、パソコン業界としても取り組むべき課題だと考えられる。TPIによってAMDが決めようとしている性能指標が、客観的に算出・定義できるものになるよう期待したい。
※1 はっきりPentium 4のクロックと関連づけてしまう(性能を保証することになる)と、消費者との間で、裁判など無用のトラブルに巻き込まれるのでそれを避けたのだ、という見方もある。※2 今回の発表においては、第3四半期(7~9月期)の決算発表を控えた時期であり、業績に関しての発言はいっさい行なわれなかった。