講演会場に隣接して設置されたデモンストレーションコーナーでは、50以上の細かなブースで、各企業内におかれた研究チームごとの研究成果を披露した。いくつかを取り上げて紹介する。
自己組織化情報ベース機能研究として、いくつもの応用例とともに取り上げられていたのが、インデックスのついていない動画や静止画、テキスト情報からデータ検索を行なう情報ベース機能つくば研究室の“CrossMediator”だ。覚えているメロディーを鼻歌で入力すると、音楽データベースからそのメロディーを含んだ曲を検索するシステムや、リアルタイムに流れる動画像をモニターし、ある動画シーンが出てきたら知らせるシステム、インターネットなど膨大なテキストをもとにある言葉と言葉の関連性を見つけだして、類似度とともに検索可能にしたシステムなどを紹介していた。すでに多数の企業に対してライセンス提供を行なっているという。
自立学習機能三菱総研研究室の“非音声音認識システム”。音声でない“物音”を高速に認識することができるシステム。このデモではマイクアレーを使い、手拍子やベルの音がどの方向で鳴ったかを表示していた。聴覚障害者にサイレンや踏切の音を知らせるといった応用が考えられるという |
またもう1つ大きく場所をとって紹介していたのが並列分散コンピューターシステムを構築するソフトウェアやネットワークカードなど。“SCore Cluster System Software”はソースプログラムも含めて無償で公開しており、日本はもちろん、米国の国立ロスアラモス研究所をはじめ英オックスフォード大学計算センター、ドイツのボン大学など多数の研究所などで利用実績があるという。
“SCore Cluster System Software”によって動作している並列コンピューターシステム |
並列分散コンピューターアーキテクチャーのために、並列分散システムアーキテクチャつくば研究所が開発したネットワーク“RHiNET(ライネット)”も来場者の注目を集めていた。2000年前半に開発した“RHiNET-2”は、1ポートあたり8Gbpsの帯域を持つ光ベースのネットワークインターフェース。最大100mまで延長可能で、Ethernetなどに比べてネットワーク遅延が1桁~2桁低く、オフィスに分散したパソコンをつないだSCoreクラスターシステムといったことを可能にするという。またエラーレートが非常に低いためパケットの再送の仕組みが不要で、データ転送効率が高いという。また、今年開発した“RHiNET-3”は10Gbpsのバンド幅で最大1kmまで延長可能としていた。
並列分散システムアーキテクチャつくば研究所が、並列コンピューター向けに開発した超低遅延ネットワークインターフェース“RHiNET”のネットワークカード |
RHiNET-3ネットワーク用のスイッチ |
マルチモーダル技術つくば研究室による、ジェスチャーと音声で操作するロボット。音声、ジェスチャーともに5種類の動きをコントロールできる。顔の絵にある3つの黒い窓が画像センサー |
情報ベース機能つくば研究室による“CrossMediator”の応用例。ビデオ画像とそのときに流れる音声から、自動的に動画シーンにキーワードを付ける。この例では、ゴルフ中継のビデオの中から「バーディーパット」という言葉で動画シーンを検索したところ |
産総研RWI研究班事情通ロボットラボの、学習統合型情報処理能力を持つオフィスロボット“事情通”。フロアを歩き回りながらオフィスの地図を作製、その際に出会った人の声と顔から、誰がどこにいるのかを認識する。訪問客に対しては音声対話により、目的の人の部屋に案内することが可能という |
適応デバイス松下研究室による高速画像処理センサー“デジタル・スマートピクセル”。CCDなどの画像センサーがデータをシリアルデータとしてしか出力できず、1画面あたりの処理速度が33m秒程度なのに対し、16×16の光学素子のそれぞれにデータ処理能力を持たせ、パラレルにデータを出力できるという。これまでの30倍以上の速度でデータ読み出しが可能としている |
デジタル・スマートピクセルを使い、人間が打ち込むエアホッケーのパックの位置や速度を認識してゴールを守る(攻撃はしない)ロボット |
適応デバイスNEC研究室による、進化型LSIを使った筋電制御型義手。個人個人によって異なる筋電レベルを学習させることで、義手を動かせるようになるまでの機関を1ヵ月から数分間に短縮し、開く・つかむだけでなく、6種類の動作を可能にしたたという |
従来のFPGAに比べて演算機能を強化したRHW(Reconfigurable Hardware:プログラム可能ハードウェア)を搭載した、画像処理ボード。このRHWは8bitのALU(演算ユニット)を6×63個備えており、目的のアルゴリズムに最適な論理回路を構成できるという |
10年間をかけたというRWCプロジェクトの研究成果は、実用レベルにあるものが多く、産学官の研究の中でも非常にうまくいった例と言える。しかもSCore Cluster System Softwareなどでは、研究成果が積極的に公開され、世界の誰でも利用できるようになっており、それが各所で高く評価されていることは、日本の世界のIT産業における貢献として誇るべきことがらだ。今年でRWCプロジェクトは最終年を迎えるということだが、こうした研究が今後も日本で続けられていくことを期待したい。