最新技術が惜しげもなく投入され、気軽に高画質な画像を撮影でき、電池代以外にランニングコストもかからないなど、デジタルカメラは各種の利点を持つすばらしい製品であり、これからもカメラの進化の最先端を走るモノであろう。ここで紹介するのは、撮影に手間がかかって画質も低く、ランニングコストも高い(さらにぜんぜんデジタルではない)「ピンホールカメラ」というローテクなカメラだ。
カメラ・オブスキュラ
紙製のパッケージは手提げカバンのような形状。写真のパッケージはカラーフィルムセットで、セピアフィルムセットは青いパッケージ色となっている。 |
日本ポラロイドの「ピンホールフォトキット」は、その名のとおりピンホールカメラを自作するキットだ。小・中学校の理科の授業あたりで作った経験のある方もおられるかもしれないが、まずピンホールカメラについて簡単に説明しよう。
ピンホールカメラ(針穴写真機)は、レンズの代わりに数mmの小さな孔を通して暗箱内に倒立像を映し出すカメラである。カメラの語源である、「暗い部屋」を意味する「カメラ・オブスキュラ(camera obscura)」自体、ピンホールを通して投影された風景を見る(もしくは模写する)ことを指しており、銀塩カメラが開発される前から知られていた現象だ。
パッケージの内容。奥の左側2つが紙製ボディ(右は小冊子)、中段の黒いものがフィルムマウント。手前の黒い正方形がピンホールとそのフレームだ。 |
ピンホールカメラの特徴は、ピント合わせが不要で被写界深度(ピントの合う範囲)が大きく、そして映し出された像の明るさは非常に暗いといったところだ。被写界深度が大きいことから、画面手前から無限遠まですべてが写った写真が撮れるのだが、レンズによる像と違って全般的にピントの甘い像となる。また、像が非常に暗いことからシャッター速度は遅くなり、数秒から数分の露光時間を必要とする。ピンホールの孔径を大きくすれば像は明るくなるが、径が大きくなれば解像感が悪くなるという問題もある。
組み上げると箱状になる。各部材の接合部は両面テープで貼り付けたのち、外側から黒いビニールテープで巻くなどして遮光には気を付ける。 |
ピンホールフォトキットは、ポラロイドのインスタントフィルムを使用することでピンホール撮影をより容易に行えるようにしたものだ。キットには「タイプ669」(カラー)インスタントフィルム20枚(10枚1パック)もしくは「タイプ606」(セピア)が付属しているが、フィルムパックを買い足せば何度でも利用できる。フィルムシステムはポラロイドのスタンダードサイズフィルムと呼ばれるタイプのもので、「ポラカラー679」(カラー)「タイプ665」(白黒)「ポラパンプロ100」(白黒)などが利用できる。なお、フィルムの価格はタイプ669やポラカラー679が5306円(20枚入りパック)だが、店頭実売価格を踏まえたランニングコストとしては1枚あたり100~150円程度と考えればよいだろう。
組み上がった本体の後ろを開けたところ。ここにフィルムパックをセットする。 |
キット自体はペーパークラフトというよりもただの「箱」であり、フロント中央部に金属製のピンホールプレート、下部に三脚用の金属マウント、リアにインスタントフィルムのマウントを貼り付けるようになっている(組み立てはすべて両面テープと粘着テープで行う)。ピンホールは0.3mm(F266相当)と0.4mm(F200相当)の2種類が付属している。孔の口径が小さいほうが解像感は高くなるが、露出時間がかかるので、用途や天候に応じて選択するとよいだろう。
フィルムを入れてフタを閉めると撮影準備は完了だ。撮影後は右端からはみ出している白いタブを引いてフィルムを引き出す。フタにはフィルムと天候別に露光時間の目安が印刷された付属のシートを貼り付ける。 |
仕上げはピンホール部を黒い粘着テープで塞いで(これがシャッターとなる)、フィルムマウントにインスタントフィルムをセットすれば撮影準備は完了だ。
付属の“ファインダ”を両面テープで貼り付けたところ。フォトキット後部から見てファインダの間にある風景がだいたいの画角となる。 |