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カナダのiFire、CRT並み色表現の8.5インチ厚膜無機ELディスプレーを初公開

2001年05月24日 10時31分更新

文● 編集部 佐々木千之

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無機EL(Erectro Luminescence)(※1)の研究開発を行なうカナダのiFire Technology社(※2)は23日、都内のホテルで、CRTテレビ並みのカラー画質を備えた8.5インチの厚膜無機ELディスプレー“iFireディスプレー”を公開した。1月に発表した新しい青色蛍光体を使い、RGBそれぞれに独立した蛍光体を使用したもので、6月3日から米カリフォルニア州サンノゼで開催される情報ディスプレー学会“Society of Information Display”への出展に先駆け、世界で初めて公開したという。

※1 EL(Erectro Luminescence):エレクトロ・ルミネッセンスは、蛍光体に電界を与えることで自己発光させる技術。蛍光体材料として硫化亜鉛などの無機物を使った無機ELと、有機物を使った有機ELがある。一般的なELデバイスの蛍光体の厚みは1μm程度であることから、薄膜EL(Thin Film EL:TFEL)と呼ばれる。これに対してiFireディスプレーの蛍光体層は20μmと厚いため、厚膜ELと呼んでいる。

※2 iFire Technologyは、'98年1月にカナダの技術開発系企業Westaim社の100%出資の子会社、“Westaim Advanced Display Technoloy社”として設立され、2000年2月に現在の社名に変更した。本社はトロント市。

新開発の青色蛍光体を使った8.5インチの厚膜無機ELディスプレーと9インチのCRTテレビ
iFireが公開した、新開発の青色蛍光体を使った8.5インチの厚膜無機ELディスプレー(左)。右は9インチのCRTテレビ
マイケル・ゴールドスタイン社長
マイケル・ゴールドスタイン社長

発表会ではiFire Technologyのマイケル・ゴールドスタイン(Michael Goldstein)社長が、同社の技術と事業展開について説明した。まず、ELを使ったディスプレーの特徴には以下のものがある。

  • 固体構造であるため堅牢
  • 動作温度範囲が広い(-40~+85度)
  • 自己発光のため視野角が広い(上下左右160度)
  • 応答速度が速い(2ms以下)

こうした特徴から、'50年代に発見された無機EL技術は、フラットパネルディスプレーにおいて理想的な技術と考えられ、'60~'70年代には数多くの特許を日本企業が取得するなど、活発な開発が行なわれたという。ところが、カラー化に必要な赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色のうち、十分な輝度を持つ安定した青色蛍光体が見つからなかったことや、多階調表現が難しいことなどから、研究開発が減少していたとしている。

色空間を示すグラフ。点線で示されている三角がCRTディスプレーの表現範囲。3つの●で囲まれた範囲が、今回iFireディスプレーが達成したもの(◆は従来)
iFireが開発してきた厚膜無機ELディスプレーの構造図
iFireが開発してきた厚膜無機ELディスプレーの構造図。右端が今回発表した3つの蛍光体をつかったもの

こうした問題に対してiFireでは、'97年に青色蛍光体である硫化ストロンチウムを発見し、2001年1月にはそれまでのシアン化合物を使った“青緑がかったシアン”蛍光体パネルに対して、CRT上の青に匹敵する深い青色発光の蛍光体パネルを開発した。なお、iFireは'99年12月に、青緑がかったシアンおよび黄色の2種類の蛍光体と、カラーフィルターを組み合わせてRGBピクセルを構成した、8.5インチの(同社にとって)第2世代カラーディスプレー(320×240ドット)を発表している。

今回公開した8.5インチの第3世代厚膜無機ELディスプレー(320×240ドット)では、新しい青色蛍光体と、硫化亜鉛による赤色と緑色の蛍光体による、3種類の蛍光体を使い、カラーフィルターを簡素化した。第2世代ディスプレーでは、CRTを使ったものに比べ、表示できる色の範囲が79%程度だったが、今回は100%以上に達した。また、輝度についてはカラーフィルターを簡素化したことで、従来の150cd/m2から300cd/m2と2倍に向上した(CRTの画面輝度は500cd/m2程度)という。

iFireディスプレーはまた、誘電体の厚さが薄膜ELの1μm程度に比べて20μm程度と厚いため、製造工程で不純物の影響が少なく、大型パネルの製造が容易であるとしている。実際同社は、1月の単色の2インチパネル発表から、フルカラーの8.5インチディスプレーまで、4ヵ月で実現しており、年内にはさらに4倍の面積となる17インチディスプレーを製造する予定。最終的には、30~36インチクラスの大型TV/HDTVディスプレーを2003年末に製品化するという目標を掲げている。

情報ディスプレー学会での発表の前に、日本で発表した背景には、同社はiFireディスプレーデバイスの製造に当たっては、フラットパネルディスプレーに関する技術を多く抱える日本企業とパートナーを組み、ジョイントベンチャーを設立して量産を行なう方針であるためとしている。現在は、数多くの日本企業のトップと話を詰めている段階で、具体的な提携相手や時期については明かさなかった。ただ、話のあった企業すべてと事業を行なうのではなく、最終的に数社との合弁となる見通し。

なお12インチ以下の小型のiFireディスプレーに関して、2000年2月にTDK(株)と戦略的パートナーシップを結んでいる。TDKはiFireのライセンスを受けて、車載、医療、工業用、情報家電用に製造するとしている。iFireに対して、7000万ドル(約84億円)の資本参加も計画しているという。

iFireには3月、松下電器産業(株)でプラズマディスプレーパネル(PDP)技術開発を中心となって手がけてきた、和迩浩一氏が先端技術部門長として入社している。和迩氏によると、「PDPではガスを封じ込めた発光セルが必要など、製造設備が大がかりになるが、iFireディスプレーは、液晶ディスプレーの製造設備が利用でき、専用の設備もほとんど必要としないので設備面のメリットもある」という。また、「(最終的製品開発に向けて)技術的な問題はあるものの、大きな技術的困難は無いと考えている」と、技術的山場は越えたと述べた。

和迩浩一氏
先端技術部門長の和迩浩一氏

ASCII24では、2月にジョー・バージニア(Joe Virginia)副社長に対し、インタビューを行なったが、その際に「夏には新開発の青色蛍光体を使った8.5インチiFireディスプレーを試作する」としており、今回の公開は開発が非常に順調に進んでいることを証明した格好。現在同社が持つ工場は、17インチパネルまで生産可能な比較的小規模なもので、2003年に目指す量産化は、パートナーと設立する予定の合弁会社にたよる必要がある。パートナー相手、時期共に明らかにしていないが、2003年末に最終製品であれば、そう遠くない時期に発表になると考えられる。30~40インチクラスのディスプレー向けの技術はPDPや液晶をはじめとして、どれが本命になるかはっきりしていないとされるが、iFireディスプレーは有力なディスプレー技術の1つといえそうだ。

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