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インテル、携帯向けチップを高性能化するプロセス技術を開発

2001年05月18日 23時33分更新

文● 編集部 佐々木千之

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インテル(株)は17日、東京・千代田区の本社に報道関係者を招いて、携帯電話向け主要チップを1チップにまとめ、高速処理と低消費電力化を可能にする新しい半導体プロセス技術“ワイヤレス・インターネット・オン・チップ”を開発したと発表した。オランダで17日(現地時間)から開催中の“Intel Developer Forum 2001 Spring Europe”での発表を受けたもの。IDF 2001 Spring Europeでは、実験段階のチップも披露したというが、日本では説明のみが行なわれた。通信技術本部ワイヤレス・コンピテンシ・センター部長の内海弦氏が説明した。

通信技術本部ワイヤレス・コンピテンシ・センター部長の内海弦氏
通信技術本部ワイヤレス・コンピテンシ・センター部長の内海弦氏
ワイヤレス・インターネット・オン・チップ技術で製造した混載チップのウエハー
ワイヤレス・インターネット・オン・チップ技術で製造した混載チップのウエハー

インテルは携帯電話に必要な主要コンポーネントのうち、コンピューター処理部“インテルXScaleアーキテクチャ”、通信処理部(ベースバンド部)“インテル マイクロ・シグナル・アーキテクチャ”、メモリー部“インテル フラッシュメモリ”の3つ(※1)を製造している。

※1 この3つ以外の主要コンポーネントとしては、高周波部(RF部)、ディスプレー制御部がある。

これらのコンポーネントにおいて、コンピューター処理部はロジック半導体、通信処理部はアナログ半導体、メモリー部はフラッシュ半導体と、性質の異なる半導体で、それぞれのチップ製造に最適なプロセス技術も異なる。このため、1つのダイ上にこれらの半導体をまとめようとすると、最も性能を出したい部分の半導体向けのプロセス技術で製造して、ほかの部分の性能は落ちてもよしとするか、あるいは最高性能ではないがどの部分もそこそこの性能が出るプロセス技術で製造するかしかなかったとしている。

実際、これまでにロジックとフラッシュや、ロジックとアナログを1つのダイ上に製造する技術や製品が数社から発表されているが、いずれも一部の性能を犠牲にすることで実現しているという。

ワイヤレス・インターネット・オン・チップ技術の概要
ワイヤレス・インターネット・オン・チップ技術の概要

今回発表したワイヤレス・インターネット・オン・チップ技術は、インテルが提供するこの3つのコンポーネントを1つのチップ(ダイ)上に製造するというもの。ワイヤレス・インターネット・オン・チップ技術では、ロジック、アナログ、フラッシュの各半導体を単体で製造したときと同じ性能のままで、1チップに混載できることが最大の特徴。

ワイヤレス・インターネット・オン・チップ技術では性能を犠牲にすることなく1チップ化できる
ワイヤレス・インターネット・オン・チップ技術では、それぞれの性能を落とすことなくコンピューター処理部、通信処理部、メモリー部を1チップ化する

1チップにしたことで、別チップ構成で必要な外部バスが不要となるため、低消費電力化できるという。各チップの消費電力のうち、特に外部バスで使用するI/Oバッファーがほとんどを占めるため、1チップにした場合、別チップ構成(一般的には4~5チップからなる)と比較しておよそ5分の1まで下がるという。

別チップ構成の外部バスでは、信号の遅延など回路設計上の問題から、16bit程度のバス幅が一般的だが、混載チップでは信号の受け渡しが必要な部分を隣に配置することなどで、信号の遅延がわずかになりバス幅も広くできるため、処理性能が向上する。「(ワイヤレス・インターネット・オン・チップ技術によって)信号線あたりのアクセス性能は5倍に伸びる。(別チップ構成の場合)フラッシュメモリーのアクセス速度は70~80nsあるが、これが5分の1になる。これまで高速処理が要求される回路で、フラッシュメモリーからSRAMにデータをコピーして処理するといったことが行なわれているが、このSRAMも不要になるだろう」(内海氏)としている。

さらに複数のチップが1つになることで、小型化と信頼性の向上にもつながるというメリットもあるという。

インテルでは、2002年中にこのワイヤレス・インターネット・オン・チップ技術を使った携帯電話向けチップを出荷する予定。このチップは0.13μmプロセス、アルミ配線のものになる。チップの詳細な出荷時期や、1チップにしたとき別チップ構成のものとコストがどうなるかといった点については明らかにしなかった。

同社はすでに日米欧の携帯電話メーカーに対し、この技術の説明を行なっているが、メーカーからの反応は非常によいという。説明会では記者から、ワイヤレス・インターネット・オン・チップ技術を使うことのデメリットはないのかという質問も出たが「特にデメリットはないと考えている」(内海氏)としており、大きな自信を持っていることが伺われた。

今回はあくまでも技術開発の発表であり、実際に製品が出荷されたわけではないが、インテルの言うとおりであれば、このワイヤレス・インターネット・オン・チップ技術によって作られたチップを使えば、現在のものよりバッテリー寿命のずっと長い携帯電話や、腕時計型やペンダント型などより小型・軽量の携帯電話が可能になる。またPDAやノートパソコンに携帯電話機能を組み込むことも容易になるはずだ。

インテルは携帯電話用フラッシュメモリーに関してはかなりのシェアを持っているというが、コンピューター処理部では英アーム社のARMアーキテクチャーが非常に強く、インテルのXScaleは存在感が薄いのが現状だ。この技術によってインテルは、パソコン用チップに続いて携帯電話用チップにおいても大きくシェアを伸ばしたい考えだが、その可能性は十分に秘めているようだ。

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