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XPに移行する? しない?

2001年05月12日 06時22分更新

文● 塩田紳二

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Windows XPのβテストが行なわれ、OfficeXPのリリースも近いという。今回、一般向けのWindowsがようやく32bitに移行する。Windowsが登場以来使われてきた、16bitコードが退役するわけだ。その意味では、Windowsの初版登場以来、最大のバージョンアップといっていいだろう。

筆者は、日常的にはWindows 2000を使っているが、ノートパソコンでは、Windows Meを使うことがある。しかし、このWindows Meは、いまだにシステムリソースの問題が残っている。Windowsの16bitコードモジュールであるGDI(グラフィック描画のモジュール)やUSER(ウィンドウなどのユーザーインターフェイスのモジュール)は、データ領域に16bitコードの制限があるため、そのサイズが制限される(現在ではたしか最大128KBだったと思う)。このデータ領域をシステムリソースと呼んでいる。

これは制限というよりも、16bitコードではあまり大きなデータ領域を使おうとするとセグメントの切り替えが頻繁に起こり、オーバーヘッドが大きくなるため、データサイズを制限して1つか2つの64KBのセグメントを使うようにしなければならないという事情による。このため、Windowsでは、「ウィンドウ」の数などに制限があるのだ。しかし、Windowsでも「ウィンドウ」をオブジェクト的に扱い、たとえば、ボタンもウィンドウなら、テキスト入力フィールドもウィンドウである。また、ウィンドウをプロセスなどの管理に利用しているため、実際には表示されないウィンドウを作るといったことがよく行なわれる。Windowsでは、プロセスを直接指定してプロセス間通信を行なうことは困難だが、ウィンドウを持っているなら、ウィンドウハンドルというデータを使うことで相手を簡単に特定できるのである。

というわけで、最近のシステムでは、プレインストールされるソフトウェアの状況にもよるのだが、このシステムリソースが起動直後には、半分ぐらいしか残っていない。そこで、WordとExcelを開いて、Internet Explorerで複数のウィンドウを開くなんてことをすると、たちまちシステムリソースが足りなくなってしまう。このとき、Windowsは動作が不安定になる。ウィンドウを表示させようとしても、システムリソースがないために、ウィンドウを作ることができず、アプリケーションによっては(ほんとどのアプリケーションがそうなのだが)、にっちもさっちもいかなくなってしまうことがあるからだ。

こんな事情があるため、Microsoftは、NTカーネルへの移行を数年前から計画していたのだが、それはなかなかうまくいかなかった。Windowsは古いハードウェアやソフトウェアとの互換性を重視しているのだが、その中には、かなり行儀の悪いソフトウェア、デバイスドライバも含まれる。これらはNTカーネルではほとんど動かないのである。そして、これらを予め特定することは困難である。つまりは動かしてみないと行儀が悪いかどうかも分からないのである。となると、NTカーネルのバージョンにユーザーがアップグレードした直後にシステム全体がハングアップということもありえるわけだ。

さて、こうした登場以来、最大のバージョンアップを予定しているWindowsだが、はたしてユーザーはすんなりと乗り換えてくれるのだろうか? Windowsは95でその地位を確立したといってもいいのだが、その後のバージョンにおいては、アップグレードしないユーザーが増えつつある。1つには、アップグレードする理由がない、アップグレードが困難なハードウェアである、アップグレードがうまくいかない可能性もあるといったことが理由らしい。

Officeについても、いままで何回もバージョンアップされたが、まだ、過去のバージョンを使い続けているユーザーも多い。新しいバージョンがそれほど魅力的でなく、かつ、要求するシステムスペックも上昇しているからである。筆者も、Office 2000のバージョンアップは、「しなくてもよかった」と思ったぐらいだ。

こうした状況を考えると、ここでWindows XP、Office XPに移行しないユーザーがかなり増える可能性もある。だとすると、業界全体の構造が少し変わってくるのではないだろうか。Windows関連市場では、WindowsやOfficeがバージョンアップすると、市場全体が対応して移行していた。いまでは、Windows 95やOffice 95を入手することも困難だし、Windows 95をサポートしない周辺装置なども多い。アップグレードしないユーザーが増え、一定以上の数になったとき、業界全体としては、旧バージョンも引き続き対応せざるを得なくなるだろう。もちろん、いままで、OSのバージョンに対して、市場の製品が瞬時に切り替わったわけではなく、段階を追って切り替わったわけだが、この速度が非常に遅くなり、事実上、両方をサポートせざるを得ない状況が長く続くことになるわけだ。

そう考えると、オープンソースソフトウェアの多くは、いままでLinuxやFreeBSDといった似て非なるプラットフォームに対して対応してきた。ソースを見ると、プラットフォームやOSのバージョンに対する#ifdefばっかりというのも以前より当たり前の光景である。オープンソースだからこそ、とあるプラットフォームとOSの組み合わせを持つユーザーが、なんとか動かしてみようと試行錯誤した結果がフィードバックされたわけである。

さて、クローズドでバイナリ配布のみのWindowsと関連ソフトウェアであるが、こうした多様な市場にどこまで対応できるのだろうか。

(塩田紳二)

塩田紳二(しおたしんじ)

プロフィール
 雑誌編集者、電機メーカー勤務を経てフリーライターとなる。月刊アスキー、月刊インターネットアスキーなどの雑誌連載や、Web雑誌(ASCII24 Intel/MS Espresso)の連載などで執筆中。1961年生れ。一児の父。最近の趣味は、革細工。といっても、通信教育のコースを始めただけ。目的は究極のモバイル鞄づくりなのだが。

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