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フィンランドと日本の企業で携帯の新事業を――大使館が橋渡し役

2001年03月16日 14時41分更新

文● 編集部 佐々木千之

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在日フィンランド大使館商務部は15日、大使館に報道関係者を集めてセミナーを開催し、フィンランド技術庁と協力し、次世代携帯電話環境における事業育成を目的とした、“モバイル・インターネット・プロジェクト”を開始すると発表した。このプログラムは世界でも先進的な携帯電話環境を持つ、フィンランド(※1)と日本のモバイル関連企業の協業をサポートするもの。現在フィンランド側の参加企業10社が決まっており、手始めとして4月23日にそれら企業と日本企業の面談・商談の機会となる“ビジネス・マッチング・セミナー”を開催するという。

※1 フィンランドはスウェーデン、ノルウェー、ロシアと国境を接する北欧の1国。国土面積は日本の約8割で、その68%を森林が、10%を湖沼や河川が占める。人口は517万人で、公用語はフィンランド語(96%が話す)とスウェーデン語(6%が話す)。携帯電話の普及率が7割を超え、世界で1、2を争う携帯電話大国として知られる。携帯電話メーカー最大手のノキア社はフィンランドの企業。

フィンランド大使館商務参事官ペンティ・コティランタ氏
フィンランド大使館商務参事官ペンティ・コティランタ(Pentti Kotiranta)氏

セミナーでは、フィンランド大使館技術庁参事官イルポ・レイトマー(Ilpo Reitmaa)氏がフィンランドの産業の状況について説明した。フィンランドの産業は、昔からの森林と鉱工業を中心としたものであったが、10年ほど前に大きな不況に見舞われ、従来型産業に加えて、知識集約型産業の育成を目指すという、国家政策の転換が行なわれたと説明した。その結果、不況後の10年間の好調な経済状態の中でIT産業が興隆し、GDP(国内総生産)はヨーロッパの平均を上回る成長を保持し、IT産業では世界で有数の競争力を持つに至ったという。

フィンランド大使館技術庁参事官イルポ・レイトマー氏
フィンランド大使館技術庁参事官イルポ・レイトマー(Ilpo Reitmaa)氏

特に7割以上という高い携帯電話普及率を背景として、モバイルバンキングサービスが発達しており、モバイルコマース分野で先進的な技術を持った企業が多く存在するという。そこで、これらの企業と、iモードをはじめとしたインターネット接続携帯電話の先進国である日本の企業とを結び、次世代の事業展開を促進させるというのがこのプログラム。フィンランド技術庁(TEKES、テケス)の協力を受け、在日フィンランド大使館商務部が企画、推進する。こうしたプログラムが両国間で行なわれるのは初めてのこととしている。

GDP成長率グラフ
最近5年間のフィンランド、ヨーロッパ平均、日本のGDP成長率グラフ

また、フィンランド大使館商務部の田中浩一商務官から、フィンランドと日本の携帯電話環境の状況と問題点について分析が行なわれた。

フィンランドの状況としては、携帯電話を使ったバンキングサービスの普及による、それらを支えるシステムやサービス、ネットワークセキュリティー技術などが優れるという。これに対して日本では、世界に先駆けて成功した商用のモバイルインターネットサービス、およびそのサービスのためのコンテンツやビジネスモデル、高機能電話端末の製造技術が優れていると分析。また両国とも、次世代(3G)携帯電話サービスの企業に対するライセンス供与を無料で行なっており、3G携帯電話サービスを進める上で、メーカーにとって有利であるという。

今後の携帯電話に予想されるサービスのロードマップ
今後の携帯電話に予想されるサービスのロードマップ

両国の携帯電話サービスにおける課題では、フィンランドは高い普及率といっても人口が500万人程度で国内市場には限りがあることや、インターネットサービスの規格であるWAPの普及が進んでいない(※2)こと、新サービス展開時の強力なリーダーシップの不在を上げた。日本においては、キャリアーに利益が集中する傾向にあること、日本独自仕様のため端末開発メーカーの海外展開の妨げとなっていること、キャリアーごとにインターネット機能の仕様が異なることを上げた。

※2 WAP(Wireless Application Protocol):ノキア社、スウェーデンのエリクソン社などヨーロッパの携帯電話メーカーが中心となって策定した、携帯電話でインターネットを利用するための仕組み。WAP端末がほかの端末よりも割高なこと、サービス開始時にはパケット通信サービス(データ量課金)がなかったことから、対応サービスが増えないという悪循環で、広く普及するには至っていない。フィンランドではショートメッセージを使ったサービスが主流という。

モバイル・インターネット・プロジェクトのスケジュール
モバイル・インターネット・プロジェクトのスケジュール

モバイル・インターネット・プロジェクトでは、これらの分析を踏まえて、両国メーカーのノウハウを相互活用してビジネス開発を行ないたいという。日本が5月、フィンランドが2002年1月に3Gサービスを開始するこの時期がタイミングもよいとしている。4月のビジネス・マッチング・セミナーでフィンランド側企業を日本企業に紹介し、その後ビジネスペアを構成して、個別に開発を開始、開発成果の日本、フィンランド、ヨーロッパへの展開というスケジュールになるという。

地理的にも文化的にも異なる両国だが、受け身的な態度など、国民の気質には意外に近いものがあるのだという。フィンランドの進んだモバイル技術は日本側企業の注目も集めそうで、携帯電話を中心としたこのプロジェクトが大きな成果を生み出す可能性は高いと感じられた。

フィンランドの進んだ携帯電話サービスの例
フィンランドの進んだ携帯電話サービスの例。自動販売機でコーラが買える話は有名だが、駐車場料金や洗車料金が携帯電話で払えるなど、クルマ関連のサービスが実用化されているという

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