2つ折りの元祖「ムーバN」。左は前期型、右は後期型 |
木暮 今回は、2つ折り携帯電話の元祖、ムーバNがテーマです。
「超小型携帯電話」というフレーズで鳴物入りでデビューした「ムーバ」シリーズのなかでも、最も人気が高かった「N」です。当時は、F、P、D、そしてNの4機種が発売されたのですが、この機種だけ「2つ折り」という機構を採用して人気を博しました。登場したのは1991年、当時のNTT移動通信からの発売でした。
桃井 今のとそんなに大きさがかわらないじゃないですか。
木暮 ベルトのついていた携帯電話TZ-803Bの次に登場したシリーズですから、この小ささは当時は驚異的だったのですね。そしてこの「ムーバ」から、製造メーカーごとに独自のデザインをまとい、しかもメーカーのイニシャルを製品名に冠するようになったのです。この「N」というのは、言うまでもなくNEC製を意味しています。
桃井 なんだかしっかりできています。これ金属製??
木暮 しっかりと金属のフレームを使って作られています。当時携帯電話は超高級品でしたから、簡単に壊れるようなものでは許されなかったのですね。
桃井 イヤピースの穴なんかもなんだか高級感が漂っている! 質感もすごくいいです。NTTのは、ざらっとした、スエードみたいな質感。ドコモのほうは、皮みたいな素材で…。
木暮 今の携帯電話は半年ぐらいがモデルサイクルになっちゃっていますが、このムーバNは1991年4月に登場してから、1994年4月にムーバN2が登場するまで、じつに3年間も販売(当時はレンタル)されていました。
桃井 NTTとNTTドコモの両ブランド! 外観上も多少のマイナーチェンジがありますね。
木暮 同じ「ムーバN」と呼ばれていますが、最初の2年間出荷されたものを前期型、1993年4月以降の製品が後期型とされています。前期型はNTTブランドとNTTドコモブランドの両方、後期型はNTTドコモブランドのみです。前期と後期ではアンテナの形に大きな違いがあります。後期のほうは現在の携帯電話に近いアンテナの形になりました。この筒のなかにコイルがあり、アンテナを格納していても待ち受けが可能なのです。それに対して前期のものは、待ち受けするときはアンテナを出してないと電波を拾いづらかった…。ですから当時は喫茶店に入って必ず窓際に座って、アンテナを伸ばして立てかけておくといった光景をよく目にしました。
桃井 この「2つに折る」というデザインは独自のものなのですか?
木暮 モトローラがフリップタイプの小型ハンディホン「マイクロタック」を発売して世界的なヒットを飛ばしていましたが、2つ折りは他にはなかったはずです。2つに折るというのは本当にすごい技術だと思いますよ。何度も何度も開閉しなくてはならないので、ヒンジの部分の機構や強度に相当の技術が必要でしょうし…
桃井 2つ折りって、当時としてはSFの世界に登場するような、近未来的なイメージだったのでしょうね。
木暮 このムーバから、NTT(NTTドコモ)の携帯電話にストラップが採用されるようになったのです。今でこそストラップが一人歩きするほど、アクセサリーとして重要な商品になってしまいましたが、当時はベルトの代わりをする重要なものでした。携帯電話は高価なものなので落としたら大変、だから通話するときや持ち歩くときは腕に通して万が一の落下に備えたのです。
桃井 あ、Lバッテリー! そういえばLバッテリーなんて最近見かけなくなりましたよね?
木暮 当時は電池の待ち受けも短かったですからね。
木暮 ディスプレイの表示もあっさりしているでしょ。当時はメールもありませんでしたし、ディスプレイは電波状態と発信時の電話番号さえ確認できればよかったですからね。
桃井 たしかに液晶部分が小さいですよね。
木暮 デザイン的には全然古さを感じないムーバN、当時はあまりに未来的で、ステイタスの代表だった製品でした。携帯電話の古き良き時代のシンボルでしたね。
携帯24 木暮編集長 携帯電話コレクターでもある。自宅には500台以上の携帯電話をコレクションする。 |