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【トイフェア レポートVol.1】世界最大のおもちゃショーが開催―基調講演にて京都の子どもミュージアム開設が明らかに!

2001年02月14日 23時22分更新

文● UpsideJapan編集部 鹿毛正之

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2月11日(現地時間)からの4日間、米ニューヨークにおいて玩具業界の一大イベントである“アメリカン・インターナショナル・トイフェア”(以下トイフェア)が開催されている。同イベントは、全米最大の玩具業界団体であるトイ・マニュファクチュアラーズ・オブ・アメリカ(TMA)が主催するもので、今回が98回目という長い歴史を誇るもの。

トイフェアには参加しているのは、世界25ヵ国から集まった約2000社のメーカー、卸業者、輸入業者など。あくまで商談会を目的としたイベントであり、一般大衆の入場は認められていないというクローズドなイベントだ。会場には2001年モデルの新製品おもちゃが一同に展示されており、ここに展示されたおもちゃが年末のクリスマス商戦における主力商品となる。

トイフェアの主会場となるジャビッツ・コンベンションセンター

おもちゃを通じて動作や音楽の大切さを学ぶ―MITメディアラボ・ホーリー教授の基調講演から

トイフェアの幕開けを飾ったのは、11日(現地時間)の午前8時から行なわれた基調講演だ。スピーカーは、マサチューセッツ工科大学(MIT)のメディララボにて教授を務めるマイケル・ホーリー(Michael Hawley)氏。ホーリー教授は“トイズ・オブ・トゥモロー”(TOT)というプロジェクトの責任者を務めており、技術の発展がおもちゃに与えてきた影響に詳しい人物だ。

MITメディアラボのマイケル・ホーリー教授が基調講演を務めた

“カルチャーズ・オブ・インベンション”(発明の文化)をテーマとした基調講演において、ホーリー教授は子どもたちがおもちゃに触れることの重要さを強調した。教授は「おもちゃとは夢を現実化するための道具」であると語り、夢を育むための道具としておもちゃが必要であると語った。

夢を育む例としてホーリー教授は、レーザーを使用して文字をエッチングした野菜の写真を聴衆に紹介。その上で「台所は、物(材料)を他の素晴らしい何か(料理)に変える場所」と説明し、子どもにとっては野菜さえもおもちゃに成り得ることや、創造・創作の大切さを聴衆にアピールした。

またホーリー教授は、MITメディアラボで制作された実験的なおもちゃを紹介。コンピューターチップを内蔵したスニーカーは音や光を発してダンスを教えてくれるほか、走る速さや飛ぶ高さのデータを計測して表示することで、人間のカラダがいかに素晴らしいものであるかを教えてくれるのだという。

大きな身振りを交えながら、チップを内蔵したスニーカーを紹介するホーリー教授

そのほか、MIDIシンセサイザーを内蔵した“トイ・シンフォニー”というおもちゃを紹介し、「音楽はすべての人たちにとって第一の言語である」との持論を披露しながら、子どもたちが音楽を通じてお互いに触れ合うことの大切さを強調した。トイ・シンフォニーはお互いが連携して合奏できる機能も備えており、言語や人種の壁を超えた触れ合いを学ぶためにもってこいの楽器だという。

また、車輪が付いたてんとう虫型のロボットも紹介した。これは子どもが本体を持って動かすことでその動作を覚え、動きを再現するというもの。動きを覚えさせる際にはタイピングや文字入力は必要なく、本体を直接動かすこと自体がプログラミングとなることから、対象物に直接触れることの大切さが学べるという。また、このロボットは子どものジェスチャーを再現するものでもあるため、“人生におけるサイン”としてのジェスチャーの大切さを知ることもできるという。

様々な形をしたトイ・シンフォニー、柔らかな本体をこねたりすることで音が出せる

世界中の子どもたちと交流できる創造の場―CAMP

今回の基調講演では、今年4月にも京都にオープンする子どもミュージアム“CAMP”の開設がホーリー教授の口から明らかにされた。CAMP(Children's Art Museum & Park)は関西学研都市として知られる京都・けいはんな地区に開設される教育・研究施設。設置母体は(株)CSKと(財)大川情報通信基金だが、運営は両社から切り離され非営利ベースで行なわれる。

CAMPの周辺には300本に及ぶ桜の木が植えられており、オープンの頃には満開の桜が来場者を迎えるはずだ

ホーリー教授によれば、CAMPは「ミュージアムでも学校でもない、新たな創造の力を養う場」であり、子どもたちにとって新たなフランチャイズになる可能性を秘めているという。開所式は4月8日に予定されており、ワークショップなど子どもたちが参加する催しは4月14日から開催される予定だ。

ワークショップの対象となるのは7歳から15歳の小中学生。大人はワークショップに参加することはできないが、館内の展示を見ることは可能だという。CAMPの運営にはMITメディアラボのほかに米ナショナル・ジオグラフィック社が参画しており、同社の持つ豊富なコンテンツがCAMPに無償で提供されることになっている。また、世界各国のチルドレンミュージアムと有機的に結びつきながら、共同でイベントを運営していくという。

けいはんな地区に立地することから、当初は近隣地区を対象に、地域ネットワークを活かした活動を行なっていく。その後2~3年以内を目処に活動を全国規模に広げ、日本各地で“CAMPキャラバン”とも呼べるワークショップなどを開催していく予定だ。

CAMPの運営にはMITメディアラボが全面協力しており、同所で制作されたおもちゃといった成果物が展示されるはずだ

楽しみにはソフトとハードの二種類が存在する

CAMPにはインターネットアクセスも完備され、日本の子どもたちが世界中の子どもたちとアクセスし、コミュニケーションを図っていくことが可能だ。この点についてホーリー教授は、自身がカンボジアで行なっているインターネット普及活動を紹介しながら、インターネットが「世界に開かれた窓」として重要な役割を果たすことを聴衆にアピールした。

カンボジアでは1000万人の人口に対し未だ1000本しかインターネットの回線が普及していないという。ホーリー教授らの活動によりネットに触れた子どもたちは、最初のうちは「外国でタクシーの運転手になりたい」といった夢を持つが、それが「コンピューターに詳しくなってこの国を救いたい」などと変わり、中には「先生になって子どもたちに技術を教えたい」と口にする子どもも出てくるという。

ホーリー教授らの活動により、カンボジアの子どもたちがインターネットに触れる機会ができつつある

このように、音楽やインターネットを通じてお互いがコミュニケートすることの重要さを説いたホーリー教授は、楽しみには“ソフトファン”と“ハードファン”という二つの段階があると説明した。ソフトファンとは、ボタンを押すことで結果が得られるような楽しみのことで、最近のハイテクおもちゃはこの範囲に含まれるものが少なくない。

それに対しハードファンとは、自分が何かを働きかけたり、作ったりすることで得る楽しみのことだという。楽器の演奏や料理、双方向コミュニケーションなどがハードファンにあたり、ソフトファンとハードファンの間には大きな幅があるのだとホーリー教授は強調した。

その上でホーリー教授は、ハイテクがもたらす恩恵に関し、おもちゃがより変化していく必要性について語った。例として、ピアノが発明された当時は非常にハイテクな楽器だったことを挙げ、それが現在では生活に溶け込み創造の道具になっていると指摘。反面、パソコンはまだまだ人工的なものであり、生活に同化していないという認識を示した。

ホーリー教授が責任者を務めるトイズ・オブ・トゥモローでは、ハイテクとおもちゃの共存が大切なテーマの一つとなっている。ここで制作されるおもちゃは決してハイテクを前面に押し出してはいない。その点についてホーリー教授は、「Technology stops being technology」(技術が、技術であることをやめる)ことが大切だと語り、ハイテクおもちゃを通じてハードファンを追い求めることの大切さを指摘した。

日本の創造性を世界の子どもたちに伝えたい

4月8日に予定されているCAMPの開所式では、“こどもの未来とテクノロジー”をテーマにしたパネルディスカッションが予定されている。パネラーにはホーリー教授をはじめ、MITメディアラボのミッチェル・レズニック教授、同じく中村伊知哉客員教授、甲南女子大学の上田信行教授らが参加する予定だ。

『インターネット、自由を我等に』(アスキー刊)などの著書を持ち、コラムニストとしても活躍する中村伊知哉MIT客員教授は、CAMPのオープンに関して次のようなメッセージを寄せている。

「CAMPから日本発ということで、子どもたちのクリエイティビティーを伝えていきたいです。日本が持っている感性や文化を世界と融合できるいいチャンスであり、そのためのプラットフォームになってほしいと感じています」

「新しいものを創っていくのに際し、世界中のあらゆる場所と融合していけることは、インターネット時代ならではのアドバンテージだと思います。世界中の多くの人がCAMPに協力してくれますので、CAMPならではのコンテンツを発信していけると思います。期待していてください」

MIT客員教授の中村伊知哉氏は、CAMPに大きな期待を寄せている

(取材/UpsideJapan編集部・鹿毛正之)

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