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【INTERVIEW】オーディオユーザーを満足させる高音質──デジタルワイヤレスヘッドホン『xdream』開発者に聞く

2000年10月30日 23時36分更新

文● 聞き手、構成:編集部 佐々木千之

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東京ビッグサイトで17日から21日まで開催された“WORLD PC EXPO 2000”において、シンガポールのFreeSytems社から、従来のワイヤレスヘッドホンの認識を覆えす高音質なワイヤレスヘッドホン『xdream』が披露された。xdreamの開発者の1人でありFreeSystemsの社長を務めるネオ・チャン・リム(Neoh Chong Lim)氏(※1)にお話をうかがった。

※1 ネオ・チャン・リム氏は、オーストラリアのロイヤル メルボルン大学で電子工学学士号と修士号を取得。FreeSystems社設立以前はSingapore Technologies社の子会社である米TriTech Microelectronics社で、テクノロジーおよび事業開発担当副社長を務めた。'89年以前は米AT&T社のMicroelectronics Bell Labs、米Honeywell-Synertek社、米AMD社のさまざまな開発、研究部門を歴任している。なお、FreeSystems社の経営陣はAMD、AT&T、Singapore Technologiesなどの研究開発部門やビジネス開発部門の上級管理職出身者で構成されており、National Science & Technology Board Investment Fundやベンチャーキャピタルが出資しているという。

『xdream』のヘッドホン部。試着してみたが、大きさの割に軽く感じられた。重さは電池(単4×2)を含まない状態で310g。音は、ワイヤレスヘッドホンにありがちな「シャー」というヒスノイズがなく、非常にクリアー。一番上の受光部に手をかざして陰にしてみたが、少々かざしたくらいではまったく問題なく伝送される。だんだんノイズが増えるのではなく、きれいに再生されているものが、ある程度以上隠すと突然無音になる
トランスミッター部。動作時はACアダプターを接続する
[編集部] まずxdreamの特徴をお聞かせください。
[ネオ社長] xdreamは我が社が開発した音声データのデジタル伝送技術“Freespan”を応用した初の製品です。現在、ワイヤレスヘッドホンには日本で一般的に売られている赤外線を使ったものと、欧米で売られている電波を使ったものがありますが、いずれもFM変調などアナログ伝送技術を使ったものがほとんどで、SN比が50dB程度、再生周波数も12kHz以上はぐっと悪くなってしまいます。

xdreamに搭載されているFreespan技術は、音声データをトランスミッターでLinearPCMエンコードし、そのデジタルデータを、赤外線を使ってヘッドホンにデジタル送信します。ヘッドホン側ではそれをデコードして高い音質を得ています。SN比は90dB以上、再生周波数は2kHzから20kHz超までフラットにのびています。
入力は、アナログ(ピンプラグ×2)とUSBの2種類に対応しており、オーディオシステムでもパソコンでも利用できます。
あるアナログ伝送式高級ワイヤレスヘッドホンの周波数特性の測定値。かなり癖のある特性で、かつ12kHzより上はまったく再生できないことがわかる
xdreamの測定値。20kHz付近までフラットに伸びている
アナログ伝送式高級ワイヤレスヘッドホンにおける全高調波歪率+雑音の測定グラフ
こちらはxdreamのグラフ。アナログ伝送方式のものに比べ、ダイナミックレンジが広いことがわかる
[編集部] WORLD PC EXPOで初めて発表されたそうですが、シンガポールでも発表されていないのになぜWORLD PC EXPOを選ばれたのですか?
[ネオ社長] 製品開発のタイミングとEXPOの会期がちょうどよかったということですね。WORLD PC EXPOは国際的なショーでもありますし、JETRO(日本貿易振興会)から、出展に対してサポートもありましたし、技術や会社の宣伝をするいい機会でした。もちろん、日本が大きな市場であることも重要でした。このあと11月に米ラスベガスで開催されるCOMDEXにも出店する予定です。
[編集部] 来場者の反応はいかがでしたか?
[ネオ社長] 大勢のかたがブースに来てくださり、xdreamを試聴して良さを理解してもらえました。たくさんのメーカー、特にオーディオメーカーから多くの問い合わせを受けました。
[編集部] 具体的な製品発売のめどはありますか? またxdreamの価格はいくらくらいになるのでしょうか?
[ネオ社長] 実際の製品の展開に関しては、自社ブランド“xdream”での販売、xdreamをOEM供給することによる販売、Freespan技術(チップセット)を供給することを考えていますが、まだ商談中でどうなるかはわかりません。自社ブランドでの展開においてはディストリビューターを募集しています。時期はまだわかりません。また、発売時の価格ですが、現在のシステムをそのまま製品化したとして、250ドル、日本円では2万5000円程度の定価を考えています。店頭ではもう少し安くなるかもしれませんが。
[編集部] 日本で売られているワイヤレスヘッドホンでは、1万円台か、安いものでは数千円ていどのものもありますが、高すぎませんか?
FreeSystemsのネオ社長
[ネオ社長] xdreamは、従来のアナログ製品では得られない、CDやDVDのダイナミックレンジに対応する高音質の、ハイエンド製品という位置づけですから、このくらいの価格にはなりますね。
もちろん、廉価にで大量に販売する、ということも考えられますが、それは我々の技術を使って製品を作ってくれるところに任せることになるでしょう。
[編集部] デジタル伝送ということにこだわっていらっしゃいますが、これまでデジタル伝送のワイヤレスヘッドホンというのは無かったのですか?
[ネオ社長] xdreamのようにLinearPCMではなく、圧縮した(ADPCM)データを送るものならありました。圧縮しておけば、伝送する際に帯域を狭くできるなどのメリットがあります。しかし、これは音質を落としてしまいます。我々は開発にあたり音質の良さを最重要視しました。伝送の際のエラーコレクションもオーディオ伝送に最適化しています。
トランスミッターのコネクター部分。パソコンとUSBで接続した場合には、Windowsからは“USBオーディオデバイス”として認識される。標準ドライバーソフトで動作するためFDDやCD-ROMは付属しない。“CHARGE”とあるのはヘッドホンにニッケル水素充電池を使用した場合の充電端子
[編集部] エンコード、デコードにはDSPを使われているそうですが? 米テキサス・インスツルメンツ社(TI)や米モトローラ社のDSPですか?
[ネオ社長] 我々が独自に開発したDSPベースのチップがトランスミッターとヘッドホンの両方に搭載されています。TIやモトローラのDSPでは、我々の目的に最適化したインプリメンテーションができないのです。開発コストと製品コストもそれほどかかりませんし、独自開発なら、そのままチップセットとして販売することもできるというマーケティング上のメリットもあります。
[編集部] 日本では家庭向けパソコンへのDVD-ROMドライブの装着率も上がり、パソコンでDVDビデオを見る人も増えてきました。xdreamにバーチャルドルビーサラウンド機能のようなものを搭載されることは考えていますか?
xdreamの音質をユーザーの好みに合わせて調整できるイコライザー機能を利用可能にするユーティリティー。現在はWindows 98対応版が公開されているが、Windows 2000に対応したバージョンも開発中としている
[ネオ社長] 基本的にxdreamは高音質のヘッドホンという位置づけです。パソコンと一緒に販売されるような場合にディストリビューターがそういったソフトを添付することは考えられますが、当社としては考えていません。ただ、Windowsパソコンから音質をコントロールできるフリーのユーティリティーソフトを、ウェブサイトからダウンロードできます。

(10月27日、赤坂JETROビジネス・サポートセンターにて)

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