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日本TIのネットワークオーディオ部唐木部長に聞く

【INTERVIEW】インターネットオーディオはDSPの良さが最も生かせる分野

2000年10月05日 12時37分更新

文● 編集部 佐々木千之

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日本テキサス・インスツルメンツ(株)(以下日本TI)は3日、インターネットオーディオ製品(※1)向けに、同社のDSPを核とした次世代のチップセット『TMS320DA250』を発表した。この製品の特徴や今後の展開について、日本TIのASP事業部 ネットワークオーディオ部の唐木志延夫部長にお話をうかがった。

※1 日本TIでは、いわゆるMP3プレーヤーやシリコンオーディオ製品を“インターネットオーディオ製品”と呼んでいる。

[編集部] TIではいつごろからインターネットオーディオ分野に取り組んでいるのですか?
日本TI ASP事業部 ネットワークオーディオ部の唐木部長
[唐木] 私の肩書きのASP事業部ネットワークオーディオ部というのは、インターネットオーディオ分野専門の部隊で、この部ができたのはちょうど2年前になります。当時は2人しかいませんでしたが、今では18人に増えました。アメリカ本社でも同じくらいの時期にできています。最初のMP3プレイヤーがでてきたころでしょうか。当時は広く使われるフォーマットとしてはMP3しかありませんでしたし、音楽のセキュリティーも考えられていませんでした。最近はさまざまな圧縮方式が登場して、いろいろなセキュリティーシステムも登場してきました。

インターネットオーディオはDSPの良さが最も生かせる分野だと考えています。将来絶対に伸びると言うことで、会社としてもかなりの人材と投資を行なっています。日本のお客様では今回発表されたDA250の前野製品である、TM320 5000シリーズの採用実績があります。これは単4乾電池1本でも十分に動作できるということと、CODEC(コーデック)(※2)の部分がソフトウェアソリューションなので、MP3とかATRAC3(※3)とかAAC(※4)とかWMA(※5)だとかさまざまなフォーマットにすべてソフトウェアで対応できるというのが売りになっています。
※2 データを圧縮、伸長するプログラム。COmpression/DECompressionからとられた言葉。

※3 ATRAC3:ソニーが開発した圧縮方式。MDで使われている圧縮方式の圧縮率を高めたもの。

※4 AAC(Advanced Audio Codec):独フラウンフォーファー社が開発した圧縮方式で、MPEG-4の音声部分として使われている。

※5 WMA(Windows Media Audio):マイクロソフトが開発した圧縮方式。

[唐木] 今後インターネットオーディオは、携帯電話、PDA、車に入っていくと考えています。あるいはCDプレーヤーに入ったりHDDに入ったりということも考えられます。そういった成長を見込んで、今回この新しいチップを作ったわけです。
TIのDSP向けに提供されているCODEC。現在、エンコードについてもAAC、MP3、ドルビーデジタルについては可能
[唐木] 各種のCODEC対応以外に、グラフィックイコライザー、デジタルボリューム、サンプリングレートコンバーター、液晶表示(文字表示も含む)のためのコントローラーやプレーヤーを操作するキーのコントローラー、メモリーカードのドライバーも含まれています。JPEGやMPEG-4のデコードもできるので接続されたディスプレーに画像を出したりということも可能です。
[編集部] DA250の売りとしては、低消費電力と言うことのほかに、周辺を含んだチップになっているということですが?
[唐木] メモリースティックとSDカードインターフェースを内蔵したところがポイントです。今までの製品ではほとんどDSPそのままだったので、メモリーカードとのインターフェースはもちろん、シリアル通信用、ディスプレー制御用と、まわりに全部別のチップをくっつけていました。それがDA250ではわずか12mm角のパッケージ1つですみます。

DA250にはUSBのインターフェースも持たせてありますので、USBコネクタに直結可能です。ディスプレーとLCDもコントロールできます。コア電圧は1.1Vで、200MIPSの性能です。メモリーカードはSDカード2枚かメモリースティック2枚まで対応できます。それぞれの認証アルゴリズムも内部に持っています。もちろんマジックゲートなど認証システムにも対応しています。
DA250内部のブロック図。“将来のシステム”とあるのは発表前に作成された資料であるため
[唐木] 今回、DA250ニュースリリースでは3日間、70時間使えるとうたいました。DA250ではDSP部分の消費電力は17mW、その他と合わせたトータルでも50mWですんでいます。それと単3乾電池2本の容量から考えると72時間となるわけです。

この17mWという数値は今世の中に出ている製品では最低です。一番低消費電力といわれている三洋電機さんのMP3用チップでも22mWあります。

コンペティターとしては米シーラス・ロジック社と独Micronasグループの製品がありますが、それらの製品と比べても70パーセント低消費電力です。

単に低消費電力といっても、TIの場合は単にプロセスを改善するのではありません。内部はいろいろなモジュールが組み合わさっているわけですが、使うところだけ動かす、使わないところは停めるという仕組みです。クロックの供給も細かく制御し、常にたくさんのモジュールが休んでいるという状況になるようにしています。電源の配線もモジュール単位でカットできるようになっています。これは携帯電話で培った技術です。TIオリジナルの部分もあり、たくさん関連特許を出しています。プロセスそのものももちろん改善します。
128kbpsの典型的なMP3ファイルを再生させた場合の各システムの消費電力比較グラフ
[唐木] 製品開発にあたっては、エンドユーザーの意見を聞くために一般の人を集めてグループインタビューを開きました。ニューヨーク、ロサンゼルス、カンザスシティー、東京の4ヵ所で、2つの年齢層の人たちから意見を聞きました。そこで、電池の問題や、やはりメモリーカードを積んだ方がいいとか、マルチフォーマット対応がいいとか、買った後でもアップグレードできたらいいとかいろいろな意見が出ました。

セットメーカーに聞いてもなかなかどういったものを作ったらいいと言う意見は出ないのでこういったフォーカス・グループからの意見を基に設計を行ないました。
[編集部] 現在の市場規模はどのくらいと見ていらっしゃいますか?
[唐木] TIはDSPという市場全体で見ますと、世界シェアの48パーセントを持っています。2位はルーセント、3位はモトローラです。インターネットオーディオはまだまだ少ないです。一番多いのは携帯電話ですが。世界で今年4億台作られる携帯電話の6割以上、2億4000万台にTIのDSPが搭載されています。

インターネットオーディオだけ見ますと、今年は世界で年間300万台、2003年には2300万台が出荷され、いずれいまのCDとアナログカセットを合わせた1億5000万台まで伸びると言われています。成長カーブは今までのデジタル機器の中で最も急速です。このマーケットで主導権を撮りたいと考えています。
現在発表されている、TIのDSPを使用したインターネットオーディオの製品例
[編集部] ライバルとしてはどのようなものがあるでしょうか?
[唐木] 世界ベースでの主なコンペティターは米シーラス・ロジック社と独Micronasグループですが、他にも10数社あります。三洋電機さんのMP3チップや、東芝さんのAACチップなどがあります。これらはワイヤードロジックで組まれていて、他のフォーマットへの対応ができなかったりします。

世界の民生用のインターネットオーディオ機器メーカー上位10社のうち、8社まではTIのものを使っています。マルチフォーマット対応でセキュリティーにも対応している製品なら、TIのDSPが使われていると思ってほぼ間違いないです。
[編集部] DA250を搭載したエンドユーザー向け製品が出てくるのはいつ頃になりそうでしょうか?
[唐木] 来年の今頃でしょうか。気の早いメーカーはもう少し速いかも知れませんが。DA250は来年1月にサンプル出荷を開始します。1月のCESで、TIブースでDSPのデモンストレーションを行なう予定です。

DA250は、コア電圧1.1V時で200MIPSの性能を持っていますが、さらにDA250の先の製品と言うことでは、800MIPSのものまで予定されています。なぜこれほどの性能が必要かというと、なにが要求されるかわからないからです。例えばBluetooth機能を入れてくれとか、IP通信機能を入れてくれとか。モデムを入れてくれとか。そういうものに対応するためにDSPの能力を上げる必要があります。
TIのDSPを使ったインターネットオーディオ製品に表示してもらう予定という、DSPのロゴ
[編集部] 例えば三洋電機は自社でMP3のデコードチップを開発していながら、TIのDSPを採用したわけですが、TIのDSPを採用するポイントになったのはどのような部分だと考えますか?
[唐木] やはりマルチフォーマットへの対応だと思います。インターネットオーディオの世界は先が読めないのです。例えばMP3でいこうと思って製品開発したら、発売前に対応するべき新しい圧縮方式が登場するかも知れない。そうなったら、最初に逆戻りです。TIのDSPを使っていればいろいろなCODECが用意されているし、またサードパーティーも多いので新しいフォーマットへもすぐに対応できます。

価格もDA250まで機能を入れ込んでいながら10ドル(約1090円、25万個ロット時)は自信があります。今まではDSPだけで周辺を含まず10ドルでしたから。メモリーカードを使うものでしたらいろいろなことに使えます。インターネットオーディオだけではもったいないですよ。このDSPは。

(10月4日、日本TI本社にて)

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