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【第2回デジタルフロンティア京都Vol.1】グヌーテラの開発者、ジーン・カン氏が登場!!

2000年09月28日 16時35分更新

文● 野々下裕子

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9月26、27日の2日間、キャンパスプラザ京都にて第2回デジタルフロンティア京都が開催された。このイベントは昨年より定期開催されているもので、今回はニューエコノミーとデジタル文化をテーマに国内外から多くの講師が招かれた。中でも話題のフリーソフト『グヌーテラ(Gunutella)』の開発者の一人(正確にはUNIX版)で、インフラサーチ(現在、ゴーンサイレント社に変更して準備中)社の社長兼CEOであるジーン・カン氏の講演には多くの参加者がつめかけた。

インフラサーチ(現在、ゴーンサイレント社に変更して準備中)社の社長兼CEO、ジーン・カン氏
グヌーテラのロゴと仕組みを表わすイラストを前に解説するジーン・カン氏。なぜかOHPを使ってプレゼンテーション

分散型のファイル共有がネットワーク社会に及ぼす影響

グヌーテラはネットを通じてさまざまなデータファイルを共有可能にするフリーソフトである。同じようなソフトとしてはナップスター(Napster)が有名だが、こちらはサーバー・クライアント方式であるのに対し、グヌーテラはピアツーピア方式でサーバーを介さずファイルをやりとりできるのが特徴だ。そして、こうしたファイル共有ソフトはさまざまな物議を醸し出してきた。

「グヌーテラの仕組みは堆く詰まれた段ボールの中から目的のひとつをすぐに取りだせるようにしたようなもの」とイラストを使って説明

最初のグヌーテラはAOLの子会社であるナルソフト社から発表された。その直後、AOLはこのソフトが違法データのやりとりなどに利用される恐れがあると、ただちに開発中止に追い込み、さらに全く無関係のプロジェクトだとコメントした。

ナルソフトが開発した当初のオリジナル画面
現在のバージョンの画面
グヌーテラのUNIX GUIバージョンの画面。インターフェースは、Mac OS Xに搭載されているインターフェース『AQUA』に似ている?

当事者だったカン氏は「AOLの対応は、ワーナーブラザースとの提携を控えて神経質になっていたのが原因。また、グヌーテラが発表されて、初めて分散型のファイル共有がどういう影響をネットワーク社会に及ぼすのかが分かったのだろう」と語る。「グヌーテラは利用者のニーズに応じて誕生し、これからも支持を集めていくだろう。オープンソースになって、あちこちで開発が続けられているのがその証明だ」

一方で、グヌーテラの普及にはマスコミも一役買っている。

「実はグヌーテラについて最初に取材が来たのはウォールストリートジャーナルだった。その後、それから一般紙やネット系の専門誌などが取材に来た。そういう意味では、銀行家が最も興味を持っているソフトかもしれない」

その後、カン氏はエバンジェリストとして多くのメディアに登場し、グヌーテラについて語っている。また、ナップスターの提訴に伴って開かれた今年7月の上院司法委員会の公聴会では、インターネット上の知的財産と音楽に関する意見を表明している。

「世間一般に対してはネット上での情報共有という考え方は共感を得つつあるが、レコード業界にまでは共感を得られなかったようだ。委員会が利用者側の立場にあったというので、かえって反感を強めてしまったかもしれない」

オープンソースデベロッパーの面々がグヌーテラに協力。現在も多くの開発者がグヌーテラの進化に手を貸しており、Window版やMac版なども誕生している。カン氏も早期開発関係者の一人として名を連ねている

分散型に対応する検索エンジンでビジネス

しかし、そんなカン氏も最初はグヌーテラのような分散型のアイデアはうまくいかないと思っていたようだ。

「大学ではネットワークというものは中央集中型が基本と教え込まれ、それが当たり前だと思っていた。ところが、グヌーテラを開発している間に、ネットワークにとって分散型のほうが利用しやすく、効率的であることが分かってきた。もともとネットワークは分散型で、他のが誰かに利用価値があるとは分からないまま、それぞれが情報を蓄積している。その中からサーバーに情報を置き換えれば検索エンジンなどで探し出せるが、グヌーテラを使えばもっと簡単に共有できるようになる。僕はその経験を活かし、インフラサーチ社では分散型に対応する検索エンジンでビジネスをしようと考えている」

カン氏が理想的とするネットワークの形。情報の核が分散的でなおかつ階層的に存在し、早く簡単に求める情報を探しだせるという

カン氏は、これからの情報共有はピアツーピア型がトレンドになると言う。

「情報共有というのはポットラックパーティ(持ち寄りパーティ)のようなもので、みんなが持ってきたものの中から、自分の欲しいものを探し出せた人が得をする。もちろん、そうした情報を探すのがうまい人もいて、その人を知ってるだけでも情報を探しだす近道になる。こうした階層状に情報の連鎖ができることで、新しいネットワークコミュニティーが生まれるのではないだろうか」

著作権の問題をどうやって解決していくか?

ピアツーピアに関してはインテルも専門組織を立ち上げており、大手の動きも活発になっている。カン氏もインテルのボブ・ナイト氏とは時間をかけて話をしてきたそうだ。

今後のトレンドは分散型か中央集中型かはともかくとして、ネットワークではいかに質の高い情報を早く探すかといったサービスが注目を集めている。タノミコムやアットマークITのように、従来型のネットコミュニティーの仕組みを応用した事業も始まっている。問題は、その際に情報を提供した側がどうやって著作権を守ったり、対価を払ってもらうようにするかだ。それについては、講演終了後に行なわれた記者会見で質問が集中した。

記者会見にて。著作権の問題に質問が集中

「今後の課金システムについて一般的に言うなら、利益の生み出し方が変化していくだろう。アーティストはレコード会社やブローカーを通じて音楽を販売しているが、今後は昔のように直接スポンサーの元から音楽を発売する可能性もある。たとえば、ホンダやフォードといった企業専属になって、CMとして音楽を販売するとか」

「あるいは、マイクロペイメント(※1)やバイラルマーケティング(※2)のような課金システムもあるが、いずれもアイデア段階なのでどういう展開になるかは分からない。いずれにしても、グヌーテラの広まりと共にそれに合わせた課金システムや収益ビジネスモデルが登場するのはまちがいないだろう」

※1 マイクロペイメント:クリックごとに対価を払うシステム。0.01セント単位の小額決済も可能なことからこの名称が付いた

※2 バイラルマーケティング:ダウンロードする際のデータ量に応じたチャージを支払うシステムだが、著作権所有者はダウンロードできる所を複数に増やし、そこから間接的に料金を徴収することもできる

カン氏自身は、ソフト開発者なので収益事業には関わらないとしている。「あなたはLinuxコミュニティーのリック・レイモンド氏のような立場にあるのか?」という質問に対しても、「ノー。彼は思想的なエバンジェリストだが、僕自身はあくまでも技術のエバンジェリスト」ときっぱり言い切る。インフラサーチから名前を変えて準備中の新会社“ゴーンサイレント社”の事業内容についても、「数ヵ月後には正式発表できるだろうが、僕は音楽業界の人間ではないとだけ言っておく」と暗に収益モデルとは関係ない事業であることを強調している。

とはいえ、著作権に対してはもちろん明確な意見を持っており、パネルディスカッションの席上でもそれについてコメントしている。

「ネットワークの登場で、既存のコピーライトの概念は陳腐化してしまった。なぜなら、バーチャルなものを物理的な法則で考えるのは無意味だからだ。こうした状況が訪れるのは誰もが予測していたが、これほど早いとは思っていなかった。だから状況は混乱しているのだ。これから考えていかねばならないのは、誰が生き残るかではなく、新しい時代のコピーライトを知恵を出し合い、どうやって利益を共有できるかを考えていくことではないだろうか」

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