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【週刊京都経済特約】京都に熱い視線寄せる大物エンジェル――アレン・マイナー氏にきく

2000年09月27日 13時08分更新

文● 週刊京都経済

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アレン・マイナーという人物の名前を聞いたことがあるだろうか。「米国生まれ米国育ちの金髪の日本人」(本人のホームページより)。世界第2位のコンピューターソフトメーカー、米オラクルの日本法人を創設し、日本での株式公開に導いた起業家。今は、公開で得た資金を若いITベンチャー起業家支援に投じるエンジェルとして強い影響力を持つ。そのマイナー氏が京都に注目していると聞いて、東京・渋谷のど真ん中にあるオフィスに飛んだ。(聞き手は本紙編集長・築地達郎)

アレン・マイナー氏(Allen Miner)プロフィール。米国生まれ。19歳から2年間、宣教師として北海道で過ごしたのが日本との出会い。ブリガムヤング大コンピュータサイエンス学部を経て'86年、創業間もなかったデータベースソフト会社、米オラクル社に入社。国際部の日本担当となる。'87年、日本オラクル代表取締役に就任。日本では、直販制にこだわる米国本社とは正反対の代理店販売方式を根付かせた。「里帰りの気分になるのはサンフランシスコ空港ではなく成田での着陸の時だ」そうだ。http://www.sunbridge.com/intro.htm#allen

――実に素敵なオフィスですね

「IT関連のベンチャー企業が集まってくる環境をつくろうとしています。渋谷駅(京王・井の頭線)の真上に今年できた“渋谷マークシティ”オフィス棟の17階を1フロアー借り切って、立ち上げ段階のベンチャー企業に場所とマーケティングサービス、情報技術支援サービスを提供しています」

「私たちはここを“ベンチャー・ハビタット”と呼んでいます。ハビタットというのは英語で“生き物に最適な環境”という意味です。ベンチャービジネスの立ち上げを支援する組織をよく“ビジネスインキュベーター”(事業の孵化器)と呼びますが、それより広い概念として使っています」

「例えば米国のシリコンバレーはベンチャー・ハビタットの典型です。その中にはインキュベーターだけでなく、投資家や起業家、政府・自治体、大学、技術支援会社、営業支援会社、小さい会社、大きい会社などさまざまな主体が居て、それぞれが人間関係を持っている。その中で“常識”と“共通ノウハウ”が生まれる。つまり成功パターンや失敗パターンの蓄積です。そういう環境をここ(渋谷)につくっていこうとしているんです」

――そのベンチャー・ハビタットを京都にもつくろうとしていると聞きました

「来年夏に完成するKRP6号館で、KRP株式会社と一緒に何かできないかと考えています。我々の渋谷での成功が偶然なのか、それともレプリケート(複製化)できるのか――それはまだ分かりませんが」

「KRP会社との間では相互補完的に組めると思います。KRP会社がこの10年に築いてきた不動産ビジネスのノウハウはスゴイと思う。自然に有機的にベンチャー企業が集まってきているのですから。新しい建物ほど安くつくっていて、不動産の中にいろいろなカルチャーの会社が集まるように工夫している。建築設備としてのバラエティーがある。ここの企業に合った環境づくりは非常に面白いですね」

「敢えてKRP会社に足りないところを挙げれば、入居企業から仕事を引き受けるなどのサービス機能が弱い。営業の人がテナントのベンチャー企業ばかりを見ていては力が腐ってしまう。外部の仕事が取れなければ内部のニーズにも応えられない」

「一方、私たちは不動産ビジネスのノウハウが極めて少ない。地価が高いところで場所を借りてそれをベンチャー企業に貸すのですから、ビジネスとしてはあまりいい方法とは言えません。その代わり、IT分野における投資、マーケティング、技術という3つの機能を持っていて優位性がある」

――京都という街の環境はどうですか?

「KRPと話をし始めて気づいたのは、渋谷はITベンチャーにとって便利な場所だが、地価が高いということ。日本でシリコンバレーに匹敵する環境を提供するためにはもう少し安いところが必要ですが、京都は適当な地価水準です。また、シリコンバレーの常識ではベンチャー・ハビタットの一つの要素として大学が欠かせないが、京都には技術系に強い有力大学がある。さらにモバイル通信に関する有力企業が京阪地域に数多い。そうしたことがメリットですね」

「IT関係でベンチャー・ハビタットをつくるなら、日本では東京か京都だと思います。札幌もいいけれど集積に差がある。仙台は半導体関係でいい要素がありますが、当方にノウハウがない」

――来年にもKRPにサンブリッジ(マイナー氏の会社)の京都支部ができると考えていいですか?

「KRPとの間では基本的な企業理念の部分はほとんど同じです。しかし、(京都のベンチャー・ハビタットを)実現するためには、専門支援部隊を切り盛りするリーダーを具体的に見つけることが必要です。場所に専門支援部隊が一緒に入っていることが“実価値”なんです。残念ながら、私たちの知る限り、そういう人材は京都にはいない。まだ時間がかかるかもしれません」

〔一期一会〕

東京でも最も華やかな街、渋谷にこつ然と現れたタワー型の『マークシティービル』。オフィス棟の案内板にはIT系をはじめとする有名ベンチャー企業の名前が踊る。

街の喧噪を見下ろすサンブリッジ社のオフィスは“オープンな生態系”を精一杯演出していた。中央のロビースペースを占めるのは自然木を利用した巨大な“人”字型のテーブル。会議室で開かれていた今注目のコンピューターソフトに関する研究会が終わると、ロビーはパーティ会場に変身する。

マイナー氏は予想通り、気さくな雰囲気で現われた。19歳のときモルモン教の宣教師として初来日し、妻も日本人という日本通。缶入りのお茶をなめながら、記者の質問に理路整然と答えていく。

ベンチャーを生み出す環境について、金融や制度といった個別の要素の問題とは捉えない視点が新鮮だ。あくまで自然に生まれる“生態系”にこだわる。陳腐な言い方だが、マイナー氏の言葉の端々から“日本人より日本的な感覚”を感じた。

※記事の転載にあたっては、外来語の表記など用字用語の一部のみをASCII24の表記に合わせて書き換えた。その他はすべて原文のまま。

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