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Cバンドによる衛星インターネットプロジェクトなど最先端の研究を公開(SFC OPEN RESEARCH FORUM 2000その2)

2000年09月26日 22時49分更新

文● 若菜麻里

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慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパス(SFC)で22日に開催された“SFC OPEN RESEARCH FORUM 2000”では、1年間にわたる研究成果の一部がプレスカンファレンスで発表された。本稿ではその中で、コンピューターに関連する話題をいくつか紹介する。

日本初のCバンドを用いた衛星インターネットプロジェクト

環境情報学部の村井純教授は、アジア各国を結ぶ衛星インターネットプロジェクト“AI3(Asian Internet Interconnection Initiatives)”(※1)において、SFCに新たに地球局(ハブ局)を設置し運用を開始した。

※1 AI3の表記:“3”の正式表記は3乗

環境情報学部の村井純教授。郵政省通信総合研究所やJSAT(株)などの協力によるインターネットプロジェクトを紹介

AI3は、WIDEプロジェクトの一環として、郵政省通信総合研究所やJSAT(株)の協力で'95年に開始された研究だ。これまでAI3では、奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)に設置された地球局を中心に、無線周波数の帯域のひとつ、Kuバンド(12G~18GHz)を用いて、タイやインドネシア、香港などに接続するネットワークを構築していた。今回新たに、Cバンド(4G~8GHz)の衛星回線を用いて、SFCの地球局と、シンガポール、マレーシア、フィリピンを接続。今後、ベトナムやスリランカとも接続する予定だという。

また、SFCとNAISTの間はATMで接続され、2つのネットワークを一体化する構成になっている。Cバンドの衛星回線をインターネット接続に用いるのは日本では初めてという。この回線を用いて、片方向回線を含むネットワークでの経路制御技術“UDLRテクノロジー”や、次世代インターネットプロトコル“IPv6”(※2)によるバックボーンネットワークの構築、マルチキャスト通信技術などが重点的に研究される予定だ。

※2 TCP/IPはInternetとともに広く普及してきたプロトコルであるが、ホストアドレスを表わすためのフィールドが32bitしかないため、あと数年すればそのアドレス空間が枯渇してしまう見込みとなっている。そこで、アドレス空間の拡大を図り、さらに従来のTCP/IPで問題となっていた部分を修正したり、欠けていた機能を追加して、新しいプロトコル体系が決められたりしようとしている。それがIP Version 6(IPv6)である。IPv6では、各ノードは128bitのアドレスフィールドを持ち、必要ならばこのアドレスの中にネットワークカードの物理アドレス(MACアドレス)やルーティング情報なども含めてしまうことが考えられている。セキュリティ機能(暗号化や認証など)やサービスに応じた確実な通信の保証(優先度を付けたデータの配信)などの機能を持たせたり、従来のTCP/IPプロトコルとの相互接続性も確保したりしようとしている(サイト内は従来のIPだがInternetはIPv6で、などという運用)

次世代インターネットを使って、インタラクティブな授業を単位に

続けて村井氏は、大学環境支援システム“SOI(School on Internet)”に賛同する大学が、SOIにより遠隔配信される授業を、2000年秋学期の単位として認めることになったと発表した。

SOIは、WIDEプロジェクトの一環として'97年に開始したもの。従来の回線交換型のTV会議システムを用いた遠隔授業とは違って、ブロードバンドを活用した高速広帯域通信技術、IPv6関連技術、マルチキャストや衛星通信などを用いた次世代インターネット環境が特徴。大学間での授業交換や、大学から社会人に対する授業の提供などに取り組んでいる。

これまでに多くの実証実験が重ねられ、2000年春学期のテスト運用では、慶應義塾大学、東京大学、早稲田大学、東京工科大学、NAISTが協力し、1059名の学生が授業に参加したという。秋学期にSOIで提供されるのは、“革新企業の戦略分析”、“ネットワークセキュリティ”、“コミュニケーションネットワーク論”、“ネットワークプログラミング”の4教科。

実験用のボックス・イン・ザ・ボックスを披露

環境情報学部の徳田英幸教授は、次世代コラボレーションスペース“Smart Space”の実験環境として、『BinB(ボックス・イン・ザ・ボックス)』を徳田研究室内に設置したと発表した。

徳田英幸・環境情報学部教授。知的環境(Smart Space)を研究

BinBは、部屋の中にもうひとつ部屋を建築したようなもの。壁や床、天井は二重構造で開閉でき、その中に機器を埋め込める。また実験の用途ごとにボックスを拡張したり、部屋割の再構成などができる。今回のイベントでは、BinBを会場として、情報家電機器制御のデモなどが行なわれた。

次世代コラボレーションスペース“Smart Space”の実験環境『BinB(ボックス・イン・ザ・ボックス)』(手前)。奥に見えるのは通常の研究室。二重の壁の中に機器などを格納

部屋の壁の中には、A4サイズの半分程度の大きさの小型Webサーバーや制御装置がLANで接続されている。

BinBのデモで利用された米国製の小型Webサーバ『TINI』。サイズは幅108mm×高さ31mm×奥行き10mm。10Base-Tのインターフェースを備える

iモード端末を利用して、部屋の照明の調節や、ビデオの向きの微調整するデモが行われた。また『タグ』と呼ばれるキーホルダーサイズの小型装置に個人情報を収納しておけば、個人の好みの室内環境が、友人宅やホテルなどですぐに再現できる。

iモードでインターネットに接続し、Webサーバー『TINI』経由で室内照明の色を調節するデモ
デモで用いられた小型端末『タグ』。近い将来、これを持ち歩けばホテルなどの外出先で空調や照明、BGMなど自分好みの空間がすぐに再現できるかも!?

W3CではXMLプロトコル標準化のためのアクティビティー

政策メディア研究科の北川和裕助教授は、W3C(World Wide Web Consortium)の近況として、ユニバーサルWebアクセスについて発表した。その中でも、携帯電話などモバイル機器からのWebアクセスについて、機器に依存しないオーサリングを可能にするための技術を開発していると説明。

携帯電話からHTMLを正しく処理するための変換技術XSLTの開発や、業界団体“WAPフォーラム”との協力により携帯電話でのWebアクセス技術を開発中だとしている。またW3Cでは、9月からXMLプロトコルの標準化のための活動を開始した。SOAPなどXMLを利用した分散環境構築のための技術を中心に取り扱うとしている。

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