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ICカードを利用したハイテクモール“京都・西新道錦会商店街”

2000年09月20日 15時55分更新

文● ジャーナリスト/高松平藏

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京都市中京区の南西部に位置する西新道錦会商店街。一見伝統な商店街だが、ICカード導入の先駆としてよく知られたハイテクモールだ。同商店街振興組合事務局長、原田完氏にICカードを使った“商店街運営”についてきいた。カギはヒューマンコミュニティーを構築することだという。

ハイテクの先駆けとして知られている商店街

同商店街が誕生したのは昭和初期。周囲に多い友禅染職人を客として自然発生したという。カード事業を立ち上げたのは'92年。このころ、商店街周辺に大型量販店の進出が相次ぎ、衰退の危機感が支配的になったからだ。

伝統的な商店街だが、実はハイテクモールだ。Eコマースの先駆け

カード事業では沖電気に開発を委託。地元の銀行とも連携し“エプロンカード”と呼ばれるICカードを開発した。ポイントやプリペイド機能、場合によってはクレジット機能をつけられるものだ。「当時はICカードという概念すらなかった。当商店街で使っているものはすべてバージンシステムです」と原田氏は笑う。

現在、半径1kmの商圏には1万2000世帯、4万人が住む。その中で約30%、6500枚のカードが発行されている。1日あたり1000件から1500件の決済、つまりカードを使った買い物が行なわれている。最近、ICカードを導入する商店街も多いが、機能しているかどうかは稼働率の高さがひとつの目安だ。「京都市内のデビットカードでも1日100件程度しか使われていないと聞く。稼働率は高いと思う」と同氏は評価する。

商店街の組合に入っている商店150店のうち、カード事業に参加しているのは75店。同商店街全体の経済規模は約40億円。そのうち7%、約3億円がICカードによる決済だ。カード事業参加店は年間10%から15%程度売上も増加している。

エプロンカード。沖電気に開発を委託
ハンディサイズのターミナル

簡易ネット端末とICカードのスロットを組み合わせたシステムも

ところが、カード事業に参加している商店すべてが売上増につながっているわけではない。しかし、それ以上にお客さんとの接点が増えたことが最大の効果だと原田氏は言う。ICカードが客と商店街の関係性を濃密にしている姿が浮びあがる。

エプロンカードとともに、コミュニケーションネットワークに一役かっているのが“ファクスネット”だ。“お買い物情報”などを700世帯へ定期的に流しているコミュニケーションシステムで、'95年から実験的に開始。'96年から本格的に運用しはじめた。同商店街は、来月末から簡易インターネット端末とICカードのスロットを組み合わせた買い物のシステムも考えている。しかし「インターネットはユーザーが能動的にアクセスしなければならない」(原田氏)。

最近こそ、インターネットによる購買行動が急速に増加しているが、商店街の商圏には高齢者などパソコンを身近な道具にできる人は多くはない。「ファクスなら、お客はすぐに情報を手にとって見ることができる」(同氏)。商品の受発注などのサービスのほか、観光地、民宿の案内、空き部屋情報 法律相談、医療相談などの情報も得ることができる。エプロンカードに並んで、コミュニティーのネットワーク強化につながっている。

「自分たちの“思い”で商店街をつくっている」という原田完氏。堅固な経営哲学とコミュニティへの情熱があふれる

売り手と買い手の顔が見える“町内経済圏”をつくる

商店街とは、生活と経済活動が密接に絡まったコミュニティーだ。当然のことながら、単にICカードを導入しただけでは、コミュニティー運営の道具としては機能しない。ITの推進が声高に叫ばれている昨今、既存の産業や商業とITをどう組み合わせるかということがひとつの課題だ。その核心はITを経営の道具や手段としてどう活用できるかということだろう。

そのためのヒントは同商店街に見られる。たとえば、ネットビジネスでは“ワン・トゥ・ワン マーケティング”が最新の経営手法として最近、定着しつつある。しかしながら、既存の商店街で行なわれてきた“御用聞き”などはまさにワン・トゥ・ワン マーケティングの原風景といえそうだ。

共働きが増えたり、玄関のカギをかける習慣がついた現代では、かつてのような御用聞きは難しい。しかしながら、ファクスネットなどは新しいかたちの御用聞きだといえよう。最新技術を駆使することで、御用聞きも復活できる。「システムだけ入れてもだめ。魂が入っていないと機能しない」と原田氏は力説する。

全国的に、後継者不足や大型量販店の進出などから、衰退の危機にさらされている商店街も多い。これを受けて、国や行政の補助金で支援がなされている。しかしながら、長年にわたる支援は補助金や行政頼みの“依存症”にしかならないこともしばしばだ。これでは自発的なコミュニティーネットワークは生まれにくい。

それに対して、「モノを売るということは最後に考えること」と原田氏は強調する。地域の共生を考え、客と商店街の関係性をつくっていくことが肝要だという。同商店街が目指しているものは売り手と買い手の顔が見える“町内経済圏”を構築にほかならない。ひいては商店街にとって大型店との差別化につながる戦略ともいえよう。

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