このページの本文へ

【INTERVIEW】モバイル向けビデオチップメーカー、日本に進出

2000年09月13日 21時50分更新

文● インタビュー/構成 編集部 小林久

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

米MediaQ社は、米S3社、米Chips & Technologies社などで経験を積んだエンジニアが中心となり、'97年5月に設立されたベンチャー企業だ。本拠地は米国カリフォルニア州・サンタクララで、社員数は約55名。Windows CEやInternet Appliance(IA)など、Non PC分野をターゲットにした、省電力機能の高いグラフィックス・チップの開発を行なっている。同社の『MQ-200』は、すでに日本電気(株)の『モバイルギア』シリーズで採用されており、それ以外にも国内メーカー数社が採用を決定している。

同社はこの秋日本法人“メディアキュー株式会社”を設立した。日本市場に本格参入する運びとなった。編集部では、米国本社のCEOで日本法人の代表取締役社長を兼任するエリー・アントゥーン(Elie Antoun)氏と、日本市場向けのセールスを担当する花崎勝彦氏にお話を伺うことができた。なお、MQ-200に関しては月刊ASCII DOS/V ISSUEに掲載された別記事(CE向けグラフィックチップ「MQ-200」の正体とは!?)を参照されたい。

エリー・アントゥーン氏(右)と花崎勝彦氏(左)。アントゥーン氏はLSIロジック(株)の代表取締役社長を務めた経験があり、日本語も堪能だ

PDAやスマートフォンなど広範な分野を視野に

[編集部] 日本法人設立に漕ぎ着けたわけですが。
[エリー・アントゥーン(以下A)] われわれは現在WebPadやWindows CEマシンを対象にしたビデオチップ『MQ-200』を提供中ですが、その主要な市場が日本となっています。売上に占める割合は約8割で、来年、再来年も事業の核になっていくでしょう。この重要な日本市場に強くコミットしていくために“メディアキュー株式会社”を設立したわけです。
[編集部] ロードマップによると、WebPadやHandheld PCを視野に入れたMQ-200に続き、より小さなPDAやスマートホン向けのチップを予定されていますね。
[A] PDA向けのチップは現在サンプル出荷中で、近いうちに公式にアナウンスできるでしょう。エンジンはMQ-200の半分となる64bitで、画面の小さなPDA向けということで、ビデオメモリーを変更しています。PDAでは解像度320×320ドット/16bitカラーがサポートされていれば十分ですから、消費電力低減を優先して内蔵RAMを常にリフレッシュする必要がある2MBのSDRAMから、電源供給が不要な256KBのSRAMとしました。

対応CPUは従来の日立(SHシリーズ)、NEC(VRシリーズ)、インテル(StrongARMシリーズ)、東芝(TXシリーズ)に加え、今回から米モトローラ社の『Dragonball』を追加しました。Palm OSやEPOCなどを視野に入れてのことです。チップにはUSBのホスト・デバイス機能、オーディオインターフェース、PCIバスインターフェースなどを統合しています。
[編集部] MQ-200の後継チップについてはどうですか。
[A] MQ-200の後継チップでは、外部インターフェースの統合が主眼です。チップ自体にSuperI/Oを統合したほか、100Mbps対応のEthernet機能も持っています。グラフィックスエンジンは128bitで4MBのDRAMを内蔵。マルチCPU/マルチOSに対応しています。“ビデオプレイバック”機能を装備し、ビデオ入力から取り込んだ画像をオーバーレイ表示することもできます。こちらは来年1月に行なわれる“Consumer Electronics Show”(CES)での発表を目指しており、2001年の4~5月の量産出荷を予定しています。

また、スマートフォンなどより小さなデバイスを視野に入れたチップも開発中で、コストを下げるためにCPUを統合し、Bluetoothのベースバンド機能、デジタルLCD、USBコントローラー、MPEG-4/MP3/JPEGなどのデコード機能を搭載する予定です。2001夏のサンプル出荷を目指しています。今後は接続性をどう追加するかも焦点となります。
[編集部] これだけの機能が追加されると、消費電力がかなり増えそうな印象ですが。
[花崎] 確かにチップとしては増えていますが、周辺機能を別個に提供していたシステム全体と比べると、確実に消費電力が抑えられます。また、各機能に常に電力供給をするのではなく、部分部分でオフにすることもできます。ファンクションがあっても落とせるわけです。
[編集部] 現在はWindows CE搭載のHandheld PCに力を入れられているようですが、その分野を広げていくわけですね。
[A] 力を入れているというのが、結果が出ているという意味ならそう言えるでしょうね。しかし、この市場は6ヵ月経つと大幅に状況が変わってきます。われわれのターゲットは常にモバイルです。新しいチップで、少し小さめのPDAのほうに移行しようとしていますが、そのころはそちらが主力製品になっている可能性もあります。
[編集部] MediaQはビデオチップの会社だと認識しています。画面の小さな端末に搭載するメリットが果たしてどれだけあるのでしょうか。
[花崎] グラフィックスは確かに中心となる要素ですが、今後の方向性としてはSOC(System on Chip:CPUや周辺機能をワンチップで提供するIC)に進みつつあると言えるかもしれません。また、最近の携帯電話の液晶はカラー化が進んでいますから、現在の256色表示では満足できず、4K色、64K色表示に対応して欲しいという需要や動画表示への需要も出てくるでしょう。そうなるとグラフィックチップへの期待は大きくなるはずです。

すべての機器がインターネットにつながる時代に向けて

[編集部] 日本市場の特徴についてどうお考えですか。
[A] 日本のほうが、モバイル端末の普及が進んでおり、われわれの提供できる能力に合っていると思います。インターネットは、(豊富な情報を備えた)宝箱と言えますが、米国ではその資産を利用できるのがPCに限られています。しかし、その世界を広げていくためには広範なプラットフォームが必要です。今後は“すぐにアクセス”できて、どこでも使える、パーソナライズされたプラットフォームが重要になって来るでしょう。欧州や日本ではすでに携帯電話を利用した新しいライフスタイルが生まれてきていますが、米国にもすぐにそういう時代が訪れるでしょう。
[編集部] 今後が楽しみですね。
[A] 同時にプレッシャーも感じますね(笑)。われわれのターゲットとする市場は非常にセグメント分けが進んでいて、どんな機能を入れていけばいいかがわかりにくい。小さな会社としては、ある程度のきめ打ちが必要になるのですが、同時に失敗することもできません。また、少しずつ改善するのではなく“ビッグステップ”が必要になり、それにはリスクが伴います。幸いわれわれは技術スタッフに恵まれており、方向性を決めればそれを実現できる。経営者としては、それをどの方向に向かわせるかの悩みがあるわけです。
[編集部] 最後に日本法人設立に対する抱負を。
[A] 日本市場のすべての分野のトップ10社から最低5社のOEMを取りたいと考えていますし、実際、その方向に向かっていると感じています。私自身の認識では、この世界で成功するには、(1)高い技術能力、(2)納期を確実に守る、(3)安定した出荷量と品質を保証する、という3要素を満たすことが重要だと思います。この原則は日本だけに当てはまるものではありませんが、日本企業に対してこれを満たせれば、必ず高いロイヤリティーが受け取れます。次の製品、そのまた次の製品……と継続的に採用していただけるのです。

将来の状況は見えにくいですが、3年後には“モバイルといえばMediaQ”。そう認識してもられるだけの企業に成長したいと考えています。

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン